カテゴリー「Notes:源氏物語」の3件の記事

2016年2月18日 (木)

江戸初期五景2 #4 表現の仕方(萬子媛をどう表現するかの再確認) 

萬子媛を主人公とした歴史短編小説を20人ほどに内々で読んでいただいたところ、賛否両論半々だったと過去記事で書いた。

あとで細部を膨らませるつもりで、書かなければならないことを詰め込むだけ詰め込んだ書き方になったことが問題だったのは当然である。

枚数制限のある賞応募のためにそうなったというより、まずはそんな書き方をして要点を掴みたかった。

不謹慎な考えだが、賞応募はついでの話。わたしの場合、賞応募は集中度を高めることが目的なのだ。本当に賞をゲットするつもりなら、傾向と対策が必要で、そもそも文学界批判など御法度である(それくらいのことわからずにやっているほど馬鹿ではない。文学界批判が御法度となっているほど今の日本の文学は文学離れしているということでもある)。

どこからどこまで書くかを決めなければならないが、過去ノートで書いたように萬子媛から辿れる江戸初期に起きた大きな動きを全てとはいわないが、なるべく網羅した小説の完成形にしたい。

もう一つ、技法上の問題があったのだろうと考えている。

主人公の物語になっていない、主人公の感情や考えが出ていないという不満はそこから出て来ている部分もあるのではないだろうか。

というのも、わたしは主人公に意図的に距離を置いた書き方をしたので。

江戸時代を小道具にした現代小説だけは書きたくないという思いが強く(エンター系の歴史小説はだいたいそのような書き方だと思う)、『源氏物語』の中で、紫式部が藤壺の宮を描くときの技法を参考にしてみようと思ったのだった。

藤壺の宮に対して紫式部は距離を置いた描きかたで、その結果すりガラスを通して見るような、伝聞のような効果が出ている。

藤壺は光源氏に次ぐ――紫の上以上の――重要人物であるにも拘わらず、その人の感情や考えが行動を通してしかわからないために、読者は隔靴掻痒の焦れったさを覚える場合があるかもしれない。『源氏物語』が苦手な人の中にはそういった人々もいるのではないか。

その書き方を通せば、紅茶をすぐに茶碗に注ぐよりもポットの中で茶葉を蒸してから注ぐほうが香りも味も引き立つように、むしろ高貴さが香り立つように思う。

登場回数では紫の上のほうが多いのに藤壺の存在感が薄らぐことがないのは、紫式部がこうした技法上の効果を「雲隠」の手前まで持続させているからに他ならない。

また、紫式部は時々こうした技法を無視したかのように接写しているが、これも同じ技法に含まれるものと考えられ、そうすることによって印象が際立つ。

現代小説としてではなく、古典として読んでください……と読者に注文をつけるわけにもいかない。賛否両論がなく、否定的な感想しか寄せられなかったら歴史物に手を出すのはよそう、この計画は中断せざるをえないとまで思い詰めていた。

が、幸い半々で、すりガラスの向こう(深窓の麗人)の萬子媛に魅了される人が複数いてくださったことはありがたかった。

とはいえ、どなたからも社交辞令的礼賛をいただけたら、それで「歴史小説ごっこ」にけりをつけられる――、電子書籍にしたり印刷屋さんで簡単な冊子にしてあちこちにお送りすることで「仕事」を完了させられる――と、むしろ重荷が下ろせてよいような気もしていた。

ところが、賛否両論あれど、何だか「本気」の感想が届いたことに、鳩が豆鉄砲食らったみたいに驚いた。ちゃんと書かねばならないということだと諦めた。萬子媛からわたしが感じる神秘主義的魅力からすれば、確かに「仕事」を始めたばかりで放り出すのは無責任極まる話だろう。

細部を膨らませながら全体に統一感を持たせるには、中心に萬子媛を置いて、あちこちでちらりと登場させなくてはならない。紫式部はそこのところをうまくやっていて、他の女人たちに読者の関心が奪われてしまいそうになるところで藤壺の宮がどうなさった、といった短い情報を怠りなく挿入している。

こうした企業秘密(?)について過去記事で書かなかったが、このノートで再確認しておきたいと考えた。

紫式部に学んだ、考え抜いたわたしなりの手法なので、このやりかたを通す。

萬子媛の魅力を思想面から探るためには江戸時代がどんな影響を及ぼしたかの分析が必要であるため、短編2では二人の黒衣の宰相を主人公にしてみようと思ったのだが、この2人を主人公にした小説にするかエッセーにするかはもう少し調べてみなくてはわからない。

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2009年1月30日 (金)

つぶやき

 今日の天候は終日重苦しく、わたしの心臓も重かったが、かぶれるためにこの数日貼っていなかったメディトランステープを貼ったところ、かなり調子がよくなり、生き返った心地になった(このニトロ系のテープ、本当に使い勝手がよい。わたしのように皮膚が過敏すぎなければ)。

 そして、家事の合間に国会中継を観ていた。

 以前は全く関心が向かなかった株・為替の情報が気にかかり、iGoogleにタブを追加し、そこで、その関係の情報をキャッチできるようにしている。倒産情報は勿論気にかかり、大企業の赤字やら工場閉鎖やらの情報には辟易するけれど、見ないではいられない。

 政治の変動が激しかった時代のフランスの作家バルザックの作品には、金融に関する事柄が随所に散りばめられていて、それが面白いのだが、この頃では、面白いというより、身に迫って感じられ、読みかたも深刻になってしまう。そのあとの時代のゾラの作品になると、金融が1個のテーマを形成したりする。

 お金のことといえば、『源氏物語』には案外、経済的なことがバルザックに劣らないくらい随所に出てきて、若い頃には光源氏の恋愛を中心に読んだものだが、こうしたところが今は興味深い。経済が出てくるところには、大抵政治に関する出来事も絡んで出てくるから、そうした面白さもある。

 円地文子に、以下の秀逸な指摘がある。

 六条御息所の妄執の中には愛欲ばかりではなく、所有欲もあったと見るのは誤りであろうか。曽て自分が主宰者であった六条の旧邸が、愛人光源氏の手で華麗なものに造り換えられ、その女王の座にわが娘の中宮が座っている間、御息所の霊は安らいでいたが、中宮が去り、他の女君が源氏の正妻として六条の院を主宰することに耐えがたい怒りを感じたのではないか。 〔円地文子『源氏物語私見』新潮文庫、昭和60年〕

 せっかく当ブログに〈Notes:源氏物語〉 を作ったのだから、経済、政治を含めたいくつかのテーマを立ち上げ、各テーマ別に源氏物語を分析してみたいと考えている。これも、ぼちぼちとだが。

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2008年12月21日 (日)

源氏物語現代語訳3種 その一

 ちくま文庫から、大塚ひかり全訳(ひかりナビ付)『源氏物語』一・二巻が出ているのを書店で見かけ、思わず買ってしまった。『源氏物語』好きのわたしとしては、新しい現代語訳が出たとなると、手にとってみたくなる。それでも、購入するまでいったのは、本当に心惹かれた与謝野晶子訳、円地文子訳の2種だけだった。

 大塚訳は、一語一語原文に忠実な逐語訳だという。それでは当然ながらわかりにくいので、〈ひかりナビ〉なる注釈が必要となったのだろう。与謝野晶子訳も円地文子訳も意訳であって、大塚訳がいうところの〈ナビ〉も本文中に溶かし込んだスタイルである。

 大塚訳では、各巻に豊富な付録もついている。第一巻の付録の内容は《内裏図》《装束》《宗教背景》で親切な配慮だが、特異なのは、第三巻の付録の《光源氏のセックス年表》、第五巻の《光源氏のセックスレス年表》である。

 第二巻の帯に「『源氏』を読むカギは「性愛」にある。〔略〕」とあるから、それで、こうした付録がつくことになったのだろう。わたしは、帯の主張に異議がある。

 それが大塚訳を購入した主な動機だったが、そればかりではない。書店で読んだ冒頭の部分が、何だかグリム童話みたいで、自分の顔が上気するのを感じた。「何だろう、これは」と思った。「面白いかもしれない。買ってみよう」となった次第。

 訳者の生年を確かめてみると、1961年とあった。わたしが1958年だから近いが、この数年の開きには案外大きなものがある。大学入試センター試験の前身である共通一次試験の始まったのが、1979年。訳者は当時新人類と呼ばれた、この共通一次試験世代に属するのではないかと思う。

 妹が共通一次世代で、わたしたち旧人類と呼ばれた世代と比較すれば、個人主義的にスタイリッシュに映ったものだ。尤も、今の若い人々から見れば、同じようなおじさん、おばさんかもしれないが……。 

 大塚訳を読み出すと、与謝野訳、円地訳と比べたくなり、揚句に岩波文庫版、山岸徳平校注『源氏物語』を開いて原文を確かめたりして、沢山の花びらに埋もれるような、めくるめく時間を過ごしてしまった。

20081213155744 ところで、引越しを重ねるうちになくしたのに違いないが、岩波文庫版の第一巻だけがなかった。台風被害に遭ったときに、かなりの書物をだめにしてしまったから、その中にそれが含まれていたのかもしれない。書店勤めの娘が買ってきてくれたそれは、ワイド版。老眼を強く自覚し出したわたしには、丁度よかった。

 偉大な『源氏物語』。大好きな『源氏物語』。これを機会に、新カテゴリー「Notes:源氏物語」を作った。自由気ままに、『源氏物語』について、書きたいときにメモしていこうと思う。

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