カテゴリー「「祐徳院」らくがきメモ」の3件の記事

2020年7月28日 (火)

作品1「祐徳院」らくがきメモ 3

能の演目には、歌がよく引用される。万葉集。山家集。古今和歌集、千載和歌集、新古今和歌集、玉葉和歌集……等の勅撰和歌集。和漢朗詠集(漢詩・漢文・和歌を集めた、朗詠のための詩文集)。今昔物語、伊勢物語、大和物語、源氏物語、平家物語もよく引用され、また、経典からも当然のように引用される。

わたしは、神秘主義エッセーブログのエッセー 78 「祐徳稲荷神社参詣記 (5)扇面和歌から明らかになる宗教観」で、次のように書いた。

神社外苑にある祐徳博物館には、萬子媛遺愛の品々を展示したコーナーがある。初めてそこを訪れたとき、わたしにとって最も印象深かったものは、萬子媛の遺墨、扇面和歌だった。

金箔を張った扇面の馥郁と紅梅が描かれた扇面に、新古今和歌集からとった皇太后宮大夫俊成女(藤原俊成女)の歌が揮毫されている。
萬子媛は花山院家の出で、花山院家の家業は四箇の大事(節会・官奏・叙位・除目)・笙・筆道だから、萬子媛が達筆なのも当然といえば当然というべきか。
元禄9年(1696)――出家後の71歳のころ――に揮毫されたものだ。揮毫されたのは、藤原俊成女の次の歌である。

  梅の花あかぬ色香も昔にて同じ形見の春の夜の月

藤原俊成女は鎌倉時代前期の歌人で、皇太后宮太夫俊成女、俊成卿女の名で歌壇で活躍した。藤原俊成女は藤原定家の姪だった。

萬子媛の扇面和歌が出家後に揮毫されたものであることから考えると、僧侶としての生活の一端も見えてくる気がする。修行生活は、芸術(文芸)などを通して培われる類の情緒的豊かさを犠牲にする性質のものではなかったということだ。

一方では、『祐徳開山瑞顔大師行業記』の中の記述からすると、萬子媛の修行には男性を凌駕するほどの厳しい一面があったと考えられる。

その二つがどのように共存していたのだろうか。いえることは、だからこそ、わたしの神秘主義的感性が捉える萬子媛は今なお魅力的なかただということである。

萬子媛遺愛の品々の中には、二十一代巻頭和歌の色紙もあった。萬子媛が愛読愛蔵されたものだと解説されていた。

二十一代集(勅撰和歌集)とは、平安時代に勅撰和歌集として最初に編纂された古今和歌集(905)から室町時代に編纂された新続古今和歌集(1439)までの534年間に編纂された21の勅撰和歌集のことで、合わせて23万44首といわれる。

二十一代集は、平安時代から室町時代までの文化史が歌という形式で表現されたものということもできる。そこからは日本人の精神構造が読みとれるばすで、宗教観の変遷などもわかるはずである。

二十一代集の巻頭和歌を愛読された萬子媛は、和歌そのものを愛されたといってよいのではないかと思う。

昔の日本人の宗教観は凛としている。洗練された美しさがあり、知的である。

平安時代末期に後白河法皇によって編まれた歌謡集『梁塵秘抄』を読んだときに思ったことだが、森羅万象に宿る神性、神仏一如、輪廻観、一切皆成仏といった宗教観が貴族から庶民層にまで浸透しているかのようだ(エッセー 74 を参照されたい)。

こうした宗教観は鎌倉時代初期の勅撰和歌集『新古今和歌集』にも通底しており、森羅万象に宿る神性、神仏一如、輪廻観、一切皆成仏といった宗教観が読みとれる。

萬子媛をシテのモデルとした今回の作品では、新古今和歌集から多く引用したい。黄檗宗の僧侶として入定されたので、経典からの引用も当然ながら……

萬子媛が愛された前掲歌「梅の花あかぬ色香も昔にて同じ形見の春の夜の月」を後ジテの過去を物語るものとして、引用したい。

らくがきメモ1に次のように書いた。

○○軍医(ワキ)は、戦場ボルネオへ向かう貨物船の通路で、尼僧達(前ジテとツレ)に出合う。出合うはずのない人々であった。尼僧達は求法のために船に乗ったという。

軍医の疑問に対して、前ジテは「法(のり)の舟さしてゆく身ぞもろもろの神も仏もわれをみそなへ」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1921)、「しるべある時にだにゆけ極楽の道にまどへる世の中の人」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1922)という歌を答えの代わりとして、尼僧一行は何処にか姿を消す。

尼僧から死を覚悟せよと諭された――と解釈するワキの心境を物語るものとしては、この歌がいい。「極楽へまだわが心ゆきつかず羊の歩みしばしとどまれ」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1933)

※わたしは新古今和歌集を、訳者代表 窪田空穂『日本古典文庫12 古今和歌集・新古今和歌集』(河出書房新社、1988)と久保田淳 訳注『新古今和歌集 上下』(角川文庫、2007)で読んでいるが、歌は後者から引用している。両者で歌の番号の異なる場合がある。

この歌の意味を、訳者代表 窪田空穂『日本古典文庫12 古今和歌集・新古今和歌集』(河出書房新社、1988)から引用する。

極楽へは、わが心の修行は、まだ行き着いていない。死すべき者は、屠所の羊であるが、その歩みの命数は、修行の間のしばらくは留まっていてくれ。(窪田,1988,p.449)

そして、大海原で船が爆発して海に投げ出された兵隊達が波間に浮き沈みする戦火の光景を天空からご覧になる、生死を超越した神的な観点からは――想像するのも畏れ多いことではあるが――おそらく、この歌がふさわしい。「春秋に限らぬ花におく露はおくれ先立つ恨みやはある」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1939)

この歌の意味を久保田淳 訳注『新古今和歌集 下』(角川文庫、2007)から引用する。

春や秋に限ることなく絶えず咲いている極楽の蓮花に置く露は、そのあるものが遅れて落ち、あるものが先だって落ちるという恨みはありはしない。(久保田,2007,p.393)

また、江戸時代からこの世の人間達のために働いていらっしゃる萬子媛のような方々の御心を畏れ多くも憶測すれば、この歌が目に留まる。「立ちかへり苦しき海におく綱も深き江にこそ心引くらめ」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1940)この歌の意味を久保田淳 訳注『新古今和歌集 下』(角川文庫、2007)から引用する。

漁師は立ち戻って海にしかけておいた綱を深い入り江で引くのであろう。聖衆は煩悩に苦しむ人間の世界に立ち帰って、深い因縁があって人々を極楽へと引き取ろうと努めるのであろう。(久保田,2007,p.395)

聖衆、という表現は、あの方々にぴったりだと思う!

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2020年7月26日 (日)

作品1「祐徳院」らくがきメモ 2(7月29日に訂正あり)

能向きの文章に調えるのは後にして、まずは、へんてこな文章になるのを怖れず、サクサク書いていこう。

ワキ〈名ノリ〉

これは肥前国鹿島より出でたる大日本帝国陸軍軍医にて候。このたびの東亜細亜の大事を計らひ、ちはやぶる天下を和(やは)したくて、わが大日本帝国は米國また英國へ宣戦を布告せり。
初めつ方は時つ風吹けども、やうやう勢ひのしづまれり。
赤紙来たれば、地区一同各戸総出にて、われの武運長久の祈願祭を祐徳稲荷の社にいとなみたまひて、其の後に地区有志はなむけの会を開きたまひき。
国に留め置きつる妻子あり。明日打ち出でんとての夜、子とみに病ひづきて候。子の病ひ、軽からねば、われは後ろ髪を引かるる思ひなり。
わが船団十二隻は門司の泊まりを発向致し候。駆逐艦、水雷艇、駆潜艇、飛行機に守られて、朝鮮海峡、東支那海と南下すれど、鬼神よりは凄まじき敵は取り掛けき。其をからうじて交はして、魔のバシー海峡凌ぎけり。

続きは明日。

田中保善『泣き虫軍医物語』(毎日新聞社、1980)によると、田中氏が出発する直前に発病した4歳になる長女は、鶏のもも肉に当たったらしい。病名は疫痢と書かれている。幸い、病気は治った。

ググってみたところでは、カンピロバクターによる感染性胃腸炎ではなかったのだろうか。鶏肉からの感染が多いそうで、ほとんどが生や加熱不足の鶏肉を食べることによって発生するという。患者の多くは1週間程度で回復するが、子供や高齢者、抵抗力の弱い人などは重症化する可能性が高いらしい。

『泣き虫軍医物語』で、ボルネオにいた兵隊達がよく罹患していたのはマラリアだ。用いられていた薬はキニーネ。田中軍医は、宿舎付近の藪を切り払い、水溜まりをなくして蚊の発生を防ぎ、残った水溜まりにはカルキを散布、夜は必ず蚊帳を使用させている。

内科は、マラリアの他に赤痢、肝炎、栄養失調症、脚気など。外科は外傷のほか虫垂炎、時々性病患者も発生。

兵隊達が息を引き取る時は「天皇陛下万歳」といったり、「お母さん」といったり、いろいろとつぶやいたり、叫んだりして死んでいったと書かれている。

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2020年7月25日 (土)

作品1「祐徳院」らくがきメモ1

萬子媛をモデルとした作品を、新作能(作品1)、童話(作品2)、小評伝(作品3)と三本立てで考えている。

カテゴリーが増えすぎるが、新作能のメモを「作品1『祐徳院』らくがきメモ」というカテゴリーに入れていくことにした。曲名は未定だが、仮称とする。

このらくがきメモは単なる自分のためのメモで、読んでいただく価値はあまりないと思います。

○○軍医(ワキ)は、戦場ボルネオへ向かう貨物船の通路で、尼僧達(前ジテとツレ)に出合う。出合うはずのない人々であった。尼僧達は求法のために船に乗ったという。

軍医の疑問に対して、前ジテは「法(のり)の舟さしてゆく身ぞもろもろの神も仏もわれをみそなへ」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1921)、「しるべある時にだにゆけ極楽の道にまどへる世の中の人」(新古今和歌集 巻第二十 釈教歌 1922)という歌を答えの代わりとして、尼僧一行は何処にか姿を消す。

ツレの人数が問題だ。わたしは神秘主義エッセーで次のように書いた。

100 祐徳稲荷神社参詣記 (12)祐徳院における尼僧達:『鹿島藩日記 第二巻』
https://mysterious-essays.hatenablog.jp/entry/2019/12/08/233845

もし、萬子媛の葬礼のときの布施の記録に名のあった僧侶達の中で、蘭契からが祐徳院に属した尼僧達だとすれば、17 名(蘭契、満堂、蔵山、亮澤、大拙、瑞山、眠山、石林、観渓、英仲、梅点、旭山、仙倫、全貞、禅国、智覚、𫀈要)。萬子媛がいらっしゃったときは総勢 18 名だったことになる。

この方々をツレのモデルとするつもりなので、17名全員登場させたいところなのだが、さすがに多すぎる。登場人物の多い「安宅(あたか)」では、義経の家来だけでも10名ほど登場するが、それでも10名ほどだ。

数をぐっと絞って蘭契1人にするか、3名ほどにするか、多く登場させるか(それでも17名は無理)、うーん、それが問題だ。

○○軍医は里に妻子を残してきており、幼子は重態であった。

船が爆発し、○○軍医が飛び込んだ大海原。流れてきた里の樽に縋り付いて命拾いした○○軍医に、神々しい姿となって登場する後(のち)ジテは、自分が我が子を亡くしたことから出家した身であることを明かす。

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「断り書き」の下書き

当作品は、田中保善著『泣き虫軍医物語』(毎日新聞社、1980年)に触発されて執筆したものです。執筆にあたり、「本音と建前」の章「キャプテン・ラスト」の節の中の41頁の記述をモチーフとさせていただきました。

ここに引用

『泣き虫軍医物語』の内容について、著者あとがきに「この本は太平洋戦争末期の昭和19年7月、町の一開業医だった私がにわか軍医として応召、戦地ボルネオを中心に体験した記録である」とあります。以下は、後で考える。

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曲名の第一候補「祐徳院」

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