リチャード・ノル『ユングという名の〈神〉』を読んでいるところ
リチャード・ノル(老松克博訳)『ユングという名の「神」―秘められた生と教義』 (新曜社、1999)を読んでいるところだ。
ユングは降霊術を信奉し、カーマ・ローカの夥しいアストラル幻影に振り回されていたようにわたしには思えるが、本人が真面目だったのか、遊び(興味)半分だったのか、わたしには判断しかねる。
神秘主義の象徴的な用語が、バーゲンセールに出たように散りばめられたユングの著作。そのユングを描いたノルの著作も、肝心のところがぼかされたまま、次の話題に慌ただしく移ってしまうので、前に図書館から借りてざっと目を通しただけだったときのように、今回も大事な箇所をうっかり読み飛ばしてしまいそうだ。
この本には、フリーメーソンもイルミナティもアブラクサスも出てくるが、ユングがそれらに興味を持ったということしかわからず、フリーメーソンだったのか、イルミナティだったのかも不明である(読み落としたのだろうか?)。
ゲーテに関しては、はっきりとしたことが書かれている。ゲーテは――イルミナティにのっとられてしまっていたと思われる――フリーメーソン・アマリア集会所の会員になりマスターになった。そして、イルミナティの高位の内部集団に入るところまで登りつめている。
しかしゲーテはフリーメーソン(イルミナティ)に幻滅したらしい。「その集団には、実はもっと卑しい金銭的な動機が働いていたのだ」(ノル,老松訳,1999,p.25)
フリーメーソンは各集会所によって、やっていることに違いがあり、またイルミナティがフリーメーソンという巨大な――ある意味ではまとまりを欠いた――組織全体に浸透していたとは思えないのだが、集会所がフリーメーソン的にはもぬけの殻となってしまっていて、代わりにそこに居座ったイルミナティにはお金が大好きなロスチャイルド家の息がかかっていたのだから、ゲーテの幻滅も当然のことだっただろう。
アブラクサスはただの短い説明に終わっていて、イルミナティの神なのかどうか、ここからは全く読みとれない。
そして、この本を今読んでいても、わたしがエッセー 91「C・G・ユングの恣意的な方法論と伝統的な神秘主義」で述べたような印象は変わらない。ユングは神秘主義に強い興味があったとしても、あくまで傍観的、趣味的、剽窃的、誇大妄想的であり、降霊術に対する熱心な姿勢から、心霊主義者だったとしか思えない。
神秘主義=心霊主義ではないのである。両者は両立しない。この基本的なことさえ、ユングにはわかっていなかったとしか思えない。霊媒は、神秘主義の前庭までしか行けない。ユングの凄まじい幻覚や勝手な意味づけ自体が、彼が神秘主義者ではなかったことを示している。
広場恐怖症だったロックフェラー家の女性エディスが夫ハロルド共々ユングの分析にはまったのだが(広場恐怖症は治らず、のちにハロルドとは離婚した)、それに対するジョン・D・ロックフェラーの懸念が如何にもまともに思える。
ロックフェラーはそこで懸念を表明していたのだ。分析は「布教」の一形態であって、ハロルドとエディスはいい加減な宗教的カルトに捕まったのではないか、と。そういうロックフェラー自身は浸礼派のキリスト教徒であり、今ではハロルド、エディス両者が非キリスト教的な熱狂を見せているように思われて落ち着かなかった。(ノル,老松訳,1999,p.362)
宗教と呼ぶには何やら騒々しく、中身が空疎すぎるので、「いい加減な宗教的カルト」という表現は秀逸である。
6回もの心臓移植を受けて101歳で亡くなったジョン・D・ロックフェラーの孫のデイヴィッド・ロックフェラーも敬虔なクリスチャンだったということだが、デイヴィッドがそうだったとは到底信じられない。
小木曽由佳『ユングとジェイムズ ――個と普遍をめぐる探求――』(創元社、2014)、他2冊、ユング関係の本を借りた。
エッセー「ワイス博士の前世療法の問題点について、神秘主義的観点から考察する」の再公開にはもう少し時間がかかりそうだ。
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