萬子媛の呼び名について、再び考察する
江戸時代初期の日中文化交流 ~『隠元』というカルチャーショック~
2021/01/19
ecollege setagaya
21世紀アジア学部
佐野 実
https://youtu.be/MDQxEKgiLEY
以下の過去記事で、萬子媛の呼び名について考察した。「萬子媛は結婚するときに『萬』と名を変え、結婚後は『御萬』あるいは『萬媛』と呼ばれていたのではないか」と学芸員はおっしゃった。
2018年10月12日 (金)
歴史短編1のために #47 落胆と取材の成果 (2)早逝した長男の病名、萬子媛の結婚後の呼び名
https://elder.tea-nifty.com/blog/2018/10/post-55cb.html
そのときに、以前からの疑問をお尋ねした。萬子媛――という呼び名には、史料的な根拠があるのかどうかということだった。
というのも、郷土史家からいただいた資料にも、購入した本(『鹿島藩日記 第一巻』『鹿島藩日記 第二巻』『肥前鹿島円福寺普明禅寺誌』)にも、萬子という名は出てこないのだ。
わたしが見たものからは、俗性は藤氏、父は花山院前[さき]の左丞相(左大臣)定好公、母は鷹司前[さき]の関白信尚公の女[むすめ]、二歳にして前[さき]の准后清子[じゅんごうすがこ]内親王(後陽成天皇の第三女)の養女となって、結婚し、子供二人を亡くした後、尼となって祐徳院に住み、「瑞顔実麟大師」と号した女性が存在したことしか、わからなかった。
史料的な根拠はあるということで、一般公開されていないという史料の一つを博物館の職員のかたと見ていったが、そこには見つからなかった。もう閉館になってしまったのだが、鹿島市民図書館の学芸員がお詳しいということで、電話をかけてくださった。
日本では、身分の高い人の実名を生存中は呼ぶことをはばかる風習があり、複名(一人物が本姓名以外に複数の呼称を併せもつこと)が多い。滝沢馬琴は没後の法名まで含めると、35の名を持った。ただし、本人は滝沢馬琴という筆名は用いていず、これは明治以降に流布した表記だという。
萬子媛の名が史料に出てきにくいのも、このような日本特有の事情によるものだということが、学芸員のお話を拝聴する中でわかった。
結論からいえば、萬子という名はおそらく明治以降に流布した呼び名で、子のつかない「萬」が結婚するときにつけた名であっただろうとのことだった。
萬子媛に関する興味から江戸時代を調べるようになってからというもの、わたしは、男性の複名の多さに閉口させられてきたのだったが、学芸員のお話によると、女性のほうがむしろ名が変わったという。
生まれたとき、髪を上げるとき(成人するとき)、結婚するとき、破談となったとき、病気したときなども、縁起のよい名に変えたそうである。
また、女性の名に「子」とつくのは、明治以降のことらしい。
そこから、萬子媛は結婚するときに「萬」と名を変え、結婚後は「御萬」あるいは「萬媛」と呼ばれていたのではないか――というお話だった。
前掲動画では、日本黄檗宗の祖となった明末清初の禅宗の僧――隠元隆琦が日本にもたらした文化的影響について語られており、よい復習となったのだが、この動画を視聴しているとき、隠元と切り離せない萬福寺の中の一文字「萬」に目が釘付けになってしまった。
萬媛と呼ばれていたであろう、一時期がおありだったに違いない萬子媛。
「萬」という呼び名の由来を知りたいと思いながら、ずっとわからなかった。
いや、これも憶測にすぎないのだが、もしかしたら、この呼び名は萬子媛が黄檗宗に関心を持ち、秘かに仏門に入ることを考え始められたころに、萬福寺から「萬」という一文字をとって付けられた名ではないだろうか。
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