岩波少年文庫の総選挙。お小遣いで初めて買った小説、ベルテ・ブラット(石丸静雄訳)『アンネは美しく』(偕成社、1970)
#この岩波少年文庫がすごい総選挙
— naotsuka_maki (@NaotsukaM) 2019年7月6日
リーズナブルでありながら、名作揃いの岩波少年文庫は、本当にありがたい存在です。栞がまたいいですね。本を開くと、そこは別世界…
リンドグレーン『ミオよ わたしのミオ』、バラージュ「ほんとうの空色」、マクドナルド「かるいお姫さま」をよく読み返します。 pic.twitter.com/BxYrBtU1fK
ツイッターで岩波少年文庫の総選挙(?)があっていたので、わたしもツイートしました。
ただ、考えてみると、子供のころに岩波少年文庫の本を読んだ記憶がありません。創刊は1950年で、わたしが生まれたのは1958年の2月ですから、書店や学校の図書室あるいは市の図書館によく行っていたことから考えると、不思議でした。
リンドグレーンの作品は、『長くつ下のピッピ』を家で買って貰った講談社「世界の名作図書館」に収録されていたもので読み、続編や他のリンドグレーンの作品(やかまし村、やねの上のカールソン、名探偵カッレなど)は小学校の図書室で読んだように思いますが、全てハードカバーでした。
ウィキペディア「岩波少年文庫」
岩波少年文庫(いわなみしょうねんぶんこ)は、日本の出版社・岩波書店が出版している児童文学の叢書である。小B6判・並製。
沿革
1950年12月25日創刊。初回の刊行はスティーブンスン『宝島』、ウェブスター『あしながおじさん』、ディケンズ『クリスマス・キャロル』、ハムズン『小さい牛追い』、ケストナー『ふたりのロッテ』の5冊であった。当初の装丁はソフトカバーであったが、1954年にハードカバー化された。ケースもしっかりした厚紙であった。
1961年12月16日までに第一期(全100点、121冊)・第二期(全72冊)合計193冊の刊行が完了。以後、児童書については単行本および、岩波少年少女文学全集全30巻(1960〜1963年)、個人全集の刊行に力が入れられ、岩波少年文庫の新刊は10年余り刊行されなかった。
1974年、第一次オイルショック による物価高騰の影響を受け、ソフトカバーの軽装版で新刊の刊行を再開。1983年までに全68冊が刊行された。
1985年には創刊35周年を迎え、4色刷のカバーの新装版が発行された。この時、背表紙の色が対象年齢別に、ピンク(小学生中級〜)、黄色(小学生上級〜)、水色(中学生〜)の3種に色分けされた。その後、1991年までに全51冊が刊行された。
1995年には創刊45周年を記念して新刊の刊行を再開。これ以降、新刊の刊行は継続している。2000年には創刊50周年を迎え、左右の幅を7mm広げた新しい判型が採用された。
2010年には創刊60周年を迎えており、総発行点数は約400、総発行部数は約3,100万部に達している。「岩波少年文庫」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2019年6月12日 05:47 UTC、URL: http://ja.wikipedia.org
謎が解けました。
1961年に第一期・第二期の刊行が完了したとき、わたしは3歳です。その後ブランクがあり、再び刊行の再開されたのが1974年。わたしは16歳になっていました。
再開後の岩波少年文庫の本が書店や図書館に並ぶころにはもう高校生ですから、岩波少年文庫ではなく、岩波文庫や新潮文庫などの本を読むようになっていたはずです。それで、子供のころは岩波少年文庫の本とあまり接点がなかったのでしょう。
話は変わりますが、わたしが初めてお小遣いで買った小説は、ノルウェーの女性作家ベルテ・ブラット著、石丸静雄訳『アンネは美しく』(偕成社、1970)でした。中学一年生のときだったと思います。定価430円とあります。
宝物となって、今も書棚にあります。絵が物語るように、堅実で情感豊かな16歳の少女アンネが18歳になるまでを描いた、ジュニア小説です。
ノルウェー西部のフィヨルドの奥で育ったアンネは、牧師夫人の仲介で都会に出、住み込みの女中のアルバイトをしながら高校を卒業するまでの顛末が純愛をテーマとして描かれます。
最新設備を備えた都会の家で、アンネは田舎娘としての頓珍漢な行動で周囲を苛立たせますが、彼女にはバイオリンと編み物の特技がありました。
編み物をして生活費の不足を賄い、音楽一家と知り合ってからはバイオリンの腕が生きます。しかも、アンネは容貌が整っていて、特待生を目指すほど優秀でした。
わたしは当時、読みながら自分とアンネを比べて、あまりに大人びた、しっかりしたアンネに感心しながらも、話ができすぎているとも思いました。
編み物はわたしが中学校のころ、バレンタインデーに男子に贈るマフラーを編むのが流行っていました。マフラーくらいは編めたとしても、それで生活費を稼ぐなど想像できませんでしたし、楽器にしても、ピアノを習ってはいましたが、わたしは音大を目指している友人とは心構え自体が違うだけでなく、アンネは一日に何時間も練習している友人とも違って、さほど練習もせずに人前にバイオリニストとして立てるほどの腕前でした。
アンネには様々な苦労がありますが、音楽一家に育った青年イエスと恋に落ち、その恋は大小の起伏を交えながらゆっくりと育っていきます。小説は、二人の明るい前途を暗示して終わります。訳者の解説を読むと、続編もあるようです。
アンネはイエスと結婚して音楽の町ザルツブルクに住み、子供に恵まれ、パリで音楽の修行を続けようとするイエスのために奮闘するようです。
登場人物がヨーロッパのあちこちへ移動するのが不思議で、ヨーロッパ全体が一つの国のようだと思ったことを覚えています。
『アンネは美しく』は、『赤毛のアン』の系統に属する作品ではないかと思います。
こういうと顰蹙を買うかもしれませんが、わたしはアンはわざとらしく、騒々しく思えて、あまり好きになれませんでした。率直で、生真面目で、駆け引きなど思いつきもしない、静かなアンネのほうが好きでした。
自分の性格がアンかアンネのどちらかに似ていたために、アンが嫌いだったのかどうかはわかりませんが、自分の子供っぽさに自覚があったのは確かで、アンネの静穏な魅力に惹かれ、大人っぽい判断力と行動にあこがれたのでしょう。
訳者の石丸静雄氏の経歴をウィキペディアで見ると、石丸氏は佐賀県生まれで、『ニルスのふしぎな旅』を著したセルマ・ラーゲンレーフの神秘主義的な小説『幻の馬車』(角川文庫、初版1959、再版1990)の訳者でもあられるようです。原文がどのようであるかは知りませんが、邦訳の美しさは印象に残っています。
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