歴史短編1のために #43 鹿島藩日記第二巻ノート (5)萬子媛、直條の葬礼
候文はもう、おなかいっぱいという感じですが、江戸中期の情景の中へ入っていくような面白さがあって、つい読んでしまいます。
日記を読むことで、萬子媛が剃髪後も鹿島鍋島家から、こまやかに見守られていたことがわかりました。台風被害の記録で、倒木の1本に至るまでも把握されていることに驚きました。罪を犯した者の記録もありましたが、その者達は追放になったようです。
引用だけからはわからないと思いますが、藩全体に何か家族のような雰囲気があるように感じられるのが意外でした。台風で倒れた木、盗まれた材木、打擲された下人も、藩の大切な財産であると同時に、家族のようなもの、慈しまれるものでもあったわけです。
そのような雰囲気が交際などを通して、藩の外まで広がっているように感じられるのです。いや、それはあるいは外から来たものであったのかもしれません。
死後313年経っても、地上であくせくと生きている人間達を見捨てず、思いを同じくするあの世の方々とボランティアなさっている萬子媛。そのような思いがどこから来たのかを知りたいと思い、計画した歴史小説の執筆。果たして書けるでしょうか。
そうそう、萬子媛、直條公の葬礼がいつで、どのようなものだったか、ノートしておかなくては。アバウトなノートになっています。あまり参考にしないでくださいね。
『鹿島藩日記 第二巻』(祐徳稲荷神社、昭和54)
萬子媛の葬礼は、宝永二年閏四月十四日(1705年6月5日)に執り行われた。
僧侶方――格峯(鍋島直孝、断橋和尚)、月岑和尚――のご意見により、「祐徳院様御事、御出家御同前ノ御事候ヘハ、」、つまり萬子媛に関する事柄は御出家同然の事柄なので、簡素に――「軽ク」と書かれている――執り行われた。
僧侶の方々が大勢お見えになった、黄檗宗色の濃い葬礼であったようだ。布施の額が記されている。
祐徳院様御葬礼、今日於津御庵相済申候、右に付、僧衆へ被下候布施、左ニ書載、
白銀三枚 桂岩和尚
同 壱枚 月岑和尚
金子弐百疋 慧達
同 弐百疋 石柱
銀拾五匁宛 先玄 五州 絶玄 盤江 長霊 禹門 石応 万山 訥堂 蘭契 満堂 蔵山 亮澤 大拙 瑞山
銀拾匁宛 眠山 石林 観渓 英仲 梅点 旭山 仙倫 全貞 禅国
銀五匁宛 智覚 𫀈要 (406頁)
30名の僧侶方。匁[もんめ]は江戸時代における銀貨の重量単位。僧侶方にはまた、ニ汁六菜、あるいは一汁六菜の料理が出された。
日記には「御葬礼ニ付、御領中今日一日、殺生禁断申付候、」と記されている。
桂岩和尚というのは、桂巌禅師(桂巌明幢1627 - 1710)のことだろう。桂巌は萬子媛を黄檗宗に導いた義理の息子・断橋の師で、萬子媛はこの桂巌を授戒師として得度した。
鹿島四代藩主・鍋島直條の場合、五月十九日(1705年7月9日)が四十九日に当ったが、葬礼がまだだった。それでも、(葬礼より先に)普明寺・泰智寺で軽い四十九日の法事が執り行われたようだ。
五月二十日(1705年7月10日)の日記に、「今晩より来ル廿六日迄、殺生禁断、筋々相触候、」と記されている。
直條の葬礼が二十二日(1705年7月12日)に普明寺で執り行われるのだが、前日の二十一日(1705年7月11日)の日記に、それにたずさわる者の名が16頁に渡って記されている。大がかりなものだった様子がわかる。萬子媛の簡素な葬礼と対照的である。
以下に、役目のみ引用しておく。人物名は省いた。変換できない文字には?をつけた。「御葬禮行烈(列)次第」の右同は横書きでは上同になるが、原文通りに引用した。
都合頭人 銀穀役 料理方 筆者 御茶湯方 普明寺門番 施行?放生気遣 方々より御名代衆 普明寺被罷越候節、近辺宿気遣、野菜・薪等迄、宿々へ指出候気遣 方々より之御名代取合 普明詰給仕 寺中無作法之儀無之様、気遣・掃除等、見計役、 御香奠請取役 法泉庵詰 通玄庵詰 御霊前堪忍 御霊供奉役
御葬禮行烈(列)次第
壱番 御卒馬 木綿打掛
二番 沓箱 右同
三番 御挾箱 右同
四番 御? 対 右同
五番 具足箱 右同
六番 御臺笠 右同
七番 御長柄 右同
八番 御打物 右同
九番 散花 木綿上下
十番 散米 右同
十一番 大幡 右同
十二番 鍬 右同
この行列次第は32番まであります。御棺の登場は25番。後で気が向いたら続きを引用します。
翌、五月二十二日(1705年7月12日)の日記には「御葬礼、今昼八ツ時相澄〔ママ〕候、」と一行だけ記されている。お疲れ様!
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