« Kindle版『枕許からのレポート』『気まぐれに芥川賞受賞作品を読む』にレビューをありがとうございます! | トップページ | ここ数日……幼馴染みのことで »

2018年6月13日 (水)

米朝共同声明の妙味は4番目にあり(?)

12日、シンガポール南部のセントーサ島にあるカペラホテルで史上初の米朝首脳会談が開催された。

昨日、NHKの中継を、視聴できなかった時間帯は録画までして視聴した。

北朝鮮の最高指導者である金正恩朝鮮労働党委員長には、影武者説がある。真偽のほどは定かでないが、この日の金正恩氏は本物だろうと思い、穴が開くほど画面を見つめた。

注意深い、物事に動じない、怜悧な表情。とはいえ、相当に緊張している様子が伝わってくる。両首脳がテーブルを挟んで椅子に座ったとき、金正恩氏は息を整えていた。

そして、ふたりが向き合って互いに見つめ合ったとき、トランプ大統領をやや見上げる形になった金正恩氏は、まるで子供のように素直な表情に見えた。この一場面を見る限り、自国で高射機関銃による血の粛清をもいとわない独裁者には見えなかった。

そのせいか、ふたりのやりとりを見ていると、何だか、問題児と、その問題児を励まし、勉強に専念するように説く高校教師のように見えてしまった。

通訳による両首脳の会談が38分間行われ、その後、幹部を交えた拡大会合、ワーキングランチ、通訳なしの両首脳の散歩(トランプ大統領は大統領専用車の中を見せたりしていた)、両首脳の共同声明へのサイン、トランプ大統領の記者会見と続いた。

共同声明にはトランプ政権が主張してきたはずの「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄」(CVID)という一文が明記されていないということで、失望の声が聴かれる。どのような内容であったのか、NHK NEWS WEBから引用する。

NHK NEWS WEB(2018年6月12日19時47分)「米朝共同声明~全文和訳~」<https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180612/k10011475301000.html?utm_int=nsearch_contents_search-items_022>

<ここから引用>
1・アメリカと北朝鮮は、平和と繁栄に向けた両国国民の願いに基づいて、新しい関係を樹立するために取り組んでいくことを約束する。

2・アメリカと北朝鮮は、朝鮮半島に、永続的で安定した平和の体制を構築するため、共に努力する。

3・2018年4月27日のパンムンジョム宣言を再確認し、北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組むことを約束する。

4・アメリカと北朝鮮は、朝鮮戦争中の捕虜や・行方不明の兵士の遺骨の回収に取り組むとともに、すでに身元が判明したものについては、返還することを約束する。

<ここまで引用>

1と2では米朝が顔を出しているが、抽象的といってよい努力目標が記されているにすぎない。

3は非核化に関することだが、朝鮮半島の平和と繁栄、統一を目標とするパンムンジョム宣言が前面に出てきている(パンムンジョム宣言⇒NHK NEWS WEB「南北首脳会談 2018.4.27」<https://www3.nhk.or.jp/news/special/inter_korean_summit_2018/>)。南北で頑張りますので、アメリカは見ていてください――といっているようにも読める。

4でまた、米朝が顔を出している。朝鮮戦争の捕虜、行方不明の兵士の遺骨回収に関することだ。

トランプ大統領の口から遺骨の回収という言葉が出てきたとき、意外な感じがしたが、声明文を読んでも、異様な感じがする。

今も北朝鮮で生きているに違いない日本人の拉致被害者には言及がないのに、1950年6月25日に始まり、1653年7月27日をもって休戦状態に入った朝鮮戦争の捕虜や行方不明の兵士の遺骨回収に触れられているということが腑に落ちない。

アメリカが遺骨回収に尽力してきたというイメージが湧かないということもある。ググってみたところでは、アメリカ人は宗教の違いからか、遺体や遺骨にそれほどこだわらない国民性のようである。

ただ、さらにググっていくと、北朝鮮は朝鮮戦争で戦死した米兵の遺骨を回収・返還することで、アメリカから1柱当たり100万円から200万円の謝礼を受けとっている――という記事が出てきた。

そうだとすれば、アメリカ人にも遺骨へのこだわりがあるということになるが、これまでの遺骨ビジネスの経緯から、北朝鮮にとって、遺骨回収の話題には抵抗感が少ないということがいえよう。

もしかしたら、共同声明の4には、北朝鮮との共同作業による遺骨回収という名目で、アメリカが北朝鮮に入る――無血開城が達成されるという隠し味が潜んでいるのかもしれない。

というのはいいすぎにしても、少なくとも、4に明記されたことの実行をアメリカが北朝鮮に丸投げするということではないだろう。

日本人拉致問題において、かつて北朝鮮は適当な人骨を見繕って日本に送りつけたことがあった。それと同じような行為を、アメリカが北朝鮮に許すとは思えない。積極的に介入しようとするのではないだろうか。北朝鮮としては、それに同意しないわけにはいかないだろう。

非核化に向けて具体的なこと、例えばリビア方式のことなどを共同声明に明記しようとすれば、北朝鮮にとっては抵抗感が強いだろうから、サインを拒絶することも考えられただろう。日本人拉致問題に関する明記も、北朝鮮にとっては抵抗感が強いはずだ。

だからこそ、そのあたりのことはあえて、共同声明に盛り込まなかったのではないだろうか。トランプ米大統領は記者会見で、日本人拉致問題ついて会談で提起したと述べた。

それに、リビア方式だと、アメリカ及びIAEA(国際原子力機関)の介入は核施設に限定されるのではあるまいか。ちなみにIAEAは1957年にアメリカ主導で設立されている。

しかし、戦争捕虜の捜査(未だに朝鮮戦争の捕虜なんて、いるのだろうか。それとも遺骨ということか?)、遺骨となると、北朝鮮全土に散らばっているのでは……

少なくとも日本にとっては今後はミサイルがこちらに向けて放たれる危険性はこれまでと比べ、格段に低くなったといえるのではないだろうか?

そうでないときは、北朝鮮がアメリカの軍事制裁を受けるときだ。日本国民の安全ということを考えるなら、このことだけでも米朝会談に感謝すべきといえる。

北朝鮮への経済制裁が効いていることは間違いなく、北朝鮮の非核化が問題とならなくなるまでは経済制裁を続けることをトランプ大統領が記者会見で明言したことも、日本政府の方針と一致している。

トランプ大統領は金正恩氏に西側の魅力をアピールすることで、北朝鮮を商業ベースで西側へ組み込もうとしているのだろうか。ロシアとの間には密約ができているような気もするが、中国がそれを許すとは思えない(中国とも何らかの密約はあるのだろうが)。

|

« Kindle版『枕許からのレポート』『気まぐれに芥川賞受賞作品を読む』にレビューをありがとうございます! | トップページ | ここ数日……幼馴染みのことで »

ニュース」カテゴリの記事

経済・政治・国際」カテゴリの記事

テレビ」カテゴリの記事

時事・世相」カテゴリの記事