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2018年3月 9日 (金)

杉本良男氏の論文、及びニューエイジ雑感。『岩波哲学・思想事典』における神智学協会。

オンライン論文、杉本良男「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」『国立民族学博物館研究報告』<http://doi.org/10.15021/00005962>(2018年3月9日アクセス)を閲覧した。

この論文は序論らしいから、今後の展開を期待したいが、「日本の神智主義研究をリードしてきた吉永進一」とあったので、過去記事で吉永氏の論文について感想を書いたことを思い出した。その感想へのリンクが以下の記事にある。

2017年11月18日 (土)
前世療法は、ブラヴァツキーが危険性を警告した降霊術にすぎない(加筆あり)
https://elder.tea-nifty.com/blog/2017/11/post-070c.html

杉本氏の論文に「神智主義,神智協会がいまだに知的関心の的であることに驚かされた」とあるのを読むと、序論から既に何かブラヴァツキーの近代神智学運動や神智学協会に対する否定的ニュアンスがあるような感じを受ける。

新たな情報に触れることができるのは嬉しいが、この杉本氏にしても、吉永氏にしても、ブラヴァツキーの主要著作を読んだことがあるのかどうか疑問である。他の論文の引用文からは否定的ニュアンスが感じられなかったりすると、余計に残念な気がする。

論文に「マダムを祖と崇めるニューエイジ運動」とあったので、ウィキペディア「ニューエイジ」<https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%82%B8&oldid=67581956>を閲覧した。

概要に、ニューエイジが「一般的に、19世紀の心霊主義、ニューソート、神智学の伝統から派生したもの、グノーシス主義、ロマン主義、神智学が現代的に再編されたものであるとみなされている」とある。

そして、「ヨークは、『不便なことに、研究者がニューエイジにアプローチする際、適切で包括的な概説は存在しない』『多くの考えがありながら、運動全体について語ることができる者はいない』と述べている」とあるが、その原因の一つは、ニューエイジに対するブラヴァツキーの影響を指摘しておきながら(杉本氏は前掲のように「マダムを祖と崇めるニューエイジ運動」とまで、いい切っている)、ブラヴァツキーの諸著の研究がアカデミックな場でなされてこなかったところから来ているとわたしなどは思う。

日本では第二次大戦後、GHQによる公職追放によって21万人もの各界の保守層が追放された結果、左翼が勢力を伸ばした。学術研究においても彼らが主導的立場をとることになったことから、ブラヴァツキーのような東洋思想に新たな光を当てて科学、宗教、哲学の総合という偉業を成し遂げた人物をも放置状態で、彼女の諸論文の学術研究も評価もされないままできているのだ。

研究がなされる場合でも、どこか見下したような視点での周辺的な、悪くすればゴシップ的なアプローチが多く見られ、こうした研究が学術研究という名に値するかどうか、甚だ疑問である。

彼らの研究自体がニューエイジの影響を感じさせる、恣意的な特徴を持っているようにわたしには思える。

まずはブラヴァツキーの代表的著作の研究がなされるべきで、それがなされずして影響も何も考察できるわけがない。

ブラヴァツキーの代表的著作の研究には古代ギリシア哲学をはじめとするブラヴァツキーが生きた時代までの哲学の基礎教養が必要で、左翼思想に染まった学者たちにこれらを身につけることが可能なのかどうか……

ニューエイジという潮流には、非学術的、ファンタスティック――というより妄想的といべきかもしれないが――な要素、左翼思想(ニューエイジの特徴らしい世界政府樹立の推進は、アダム・ヴァイスハウプトを祖とするイルミナティが希求したところのもので、マルクス主義に取り込まれた)、心霊主義(ピプノセラピーには無知からくる催眠術の安易な利用があり――ピプノセラピスト本人が如何に善良であろうとも黒魔術となってしまう――、それによる降霊術がその正体である)、金銭的利益を目的とした商業利用が潜んでいるように思われる。

いずれも、ブラヴァツキーの思想には存在しない要素である。

他にもウィキペディアにはいろいろなことが書かれているが、火遊びにも似た軽率な「霊や異次元の存在との交流(交霊・チャネリング)」は心霊主義者を連想させる行為であり、「病気や貧困・悪は実在せず、心の病気または幻影であるという考え」はブラヴァツキーの時代に存在したクリスチャンサイエンティストとメンタルサイエンティスト達の考えである。

「『精神的な豊かさが物質的な豊かさに直結する』、端的に言うと「『精神が物質化する』という考え方」は、民間信仰によく見られる現世利益的考え方である。

ブラヴァツキーの神智学はアリス・ベイリー、シュタイナーの思想とは違うが、これらの区別もつかないままに、大衆的に取り入れられ、民間信仰となった面があるといえるのかもしれない(調べてみないと、わからない)。

左翼が、左翼的解釈で、神智学協会の影響を受けた人々の思想をムード的に取り入れてニューエイジの形成に使った、といえそうな気もする。

というのも、ニューエイジという括りはヒッピー・ムーブメントを連想させるからで、様々な思想、文化芸術のムード的、無節操な取り入れ方が似ている。

アニメーション監督の宮崎駿は筋金入りの左翼として有名であるが、彼のアニメは充分にニューエイジ的なのではないだろうか。

ところで、日本ではおそらく哲学・思想事典の最高峰に挙げられるであろう『岩波哲学・思想事典』では、神智学協会――事典では神智協会――について、どのように書かれているのだろうか。

気になり、読んでみて安堵した。執筆者は歴史学者で、南アジア近現代史が専門の藤井毅氏である。

神智協会について、創設から各地に支部、連携団体が結成されたこと、「A・ベサント夫人の参加によりインドの合法的自治運動や民族的教育を積極的に支持するようになったが,M.K.ガンディーの登場とともに退潮した」こと、一時期J.クリシュナムルティーも籍を置いたことが述べられている。

残る三分の一ほどの記述を、以下に引用しておく。

 宇宙と存在の全ては相互に関わり合いを持つ一体で,偏在する同一の源に発し,目的と意味を持ち秩序ある形で顕現するとした.
 宗教・哲学・科学の統合を目指し,未解明の自然法則と人間の潜在能力の研究が重視された.この点で先行する神智思想を継承するが,個々の宗教伝統が持つ団体の価値観を尊重し,人種・信条・性別・カーストなどに基づく差別を乗り越えて人類同胞の実現を図り,南アジアの精神復興に寄与したことで特異な役割を果たすことになった.インド古典学の研究に多大な貢献をなしたばかりか,オルコットは仏教を受け入れ,セイロンにおける仏教復興を刺激した.人智学を唱えたR.シュタイナーにも影響を与えた.
〔藤井毅〕(廣松渉 ・編集 『岩波哲学・思想事典』岩波書店 ,1998,「神智協会」p.831)

ちなみに、ブラヴァツキーは政治活動について、H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子訳)『神智学の鍵』(神智学協会ニッポン・ロッジ、1995)で以下のように述べている。

協会としては、政治に関係することを注意深く避けています。(……)神智学協会は最高の意味での国際的な組織です。協会の会員は人類の改善という唯一の目的で協力して働く、あらゆる人種、宗教、思想の男女から成っています。しかし、協会としては国民的、党派政治には絶対に参加しません。(……)国際的な組織ですから。その上、政治活動は必然的に、時や個人の特異性でいろいろと変わらなければなりません。神智学協会の会員は神智学徒として当然、神智学の原則を承認しています。でなければ、彼等は協会に入るはずはありません。しかし、会員達はすべての問題で意見が一致するということにはなりません。協会としては、会員全体に共通のこと、即ち神智学自体と関係するものだけを一緒に実行することができます。個人としては、神智学の原理に違反せず、協会を傷つけない限り、政治的思想や活動は完全に各自の自由に任せられています。(ブラヴァツキー,田中訳,1995,pp.227-228)

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