歴史短編1のために #33 扇面和歌を通して考察したこと②
#31 扇面和歌を通して考察したこと①
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祐徳博物館には、「祐徳院殿御遺物」が展示されており、御遺物には解説が付けられている。その解説の中に萬子媛が二十一代巻頭和歌を愛読されていたとあった。
二十一代集(勅撰和歌集)とは、平安時代に勅撰和歌集として最初に編纂された古今和歌集(905)から室町時代に編纂された新続古今和歌集(1439)までの534年間に編纂された21の勅撰和歌集のことで、合わせて23万44首といわれる。
二十一代集は、平安時代から室町時代までの文化史が歌という形式で表現されたものということもできる。そこからは日本人の精神構造が読みとれるばすで、宗教観の変遷などもわかることだろう。
二十一代集の巻頭和歌を愛読された萬子媛は、和歌そのものを愛されたといってよいのではないかと思う。
特に藤原俊成女(皇太后宮太夫俊成女、俊成卿女の名で歌壇で活躍)の歌を愛されたのか、扇面に記された藤原俊成女の歌がある。記されたのは元禄9年(1696)ということだから、萬子媛出家後の71歳のころのものだ。
昔の日本人の宗教観は凛としている。洗練された美しさがあり、知的である。
平安時代末期に後白河法皇によって編まれた歌謡集『梁塵秘抄』を読んだときに思ったことだが、森羅万象に宿る神性、神仏一如、輪廻観、一切皆成仏といった宗教観が貴族から庶民層にまで浸透しているかのようだ(拙ブログ「マダムNの神秘主義的エッセー」 74 を参照されたい)。
こうした宗教観は鎌倉時代初期の勅撰和歌集『新古今和歌集』にも通底しており、森羅万象に宿る神性、神仏一如(19神祇,1878,1879,1880)、輪廻観(19神祇,1902)、一切皆成仏(20釈教,1928)といった宗教観が読みとれる。
この複合的、統一感のある宗教観こそが歌謡集から勅撰和歌集まで、そこに集められた歌に凛とした気品と陰翳と知的洗練をもたらしたのだと考えられる。
江戸初期から中期にかかるころに生きた萬子媛が二十一代巻頭和歌を愛読されていたということは、二十一代集に通底する宗教観を萬子媛も共有していたということではないかと思う。
注目したいのは、『新古今和歌集』巻第十九神祇歌1898の歌である。作者は皇太后宮大夫俊成(藤原俊成,1114 - 1204)。萬子媛が扇面に記した歌の作者は藤原俊成女であるが、俊成は藤原俊成女の母方の祖父に当る。『新古今和歌集』の撰者の一人であった藤原定家は俊成の子である。
『日本古典文書12 古今和歌集・新古今和歌集』(訳者代表・窪田空穂、1990)より歌、訳及び解説を引用する。
春日野のおどろの道の埋[うも]れ水すゑだに神のしるしあらはせ
(この春日野の、公卿の家筋を暗示するおどろの路の、埋もれ水のごとく世に沈んでいる自分である。今はとにかく、せめて子孫なりとも、わが祈りの験[しるし]をもって、世に現わし栄達させ給え。「春日野」は春日神社を示し、自身も藤原氏でその神の末であることとを余情とした詞。「おどろ」は、草むらの甚だしいもので、「路」の状態とするとともに、公卿の位地を示す語。)(皇太后宮大夫俊成,窪田訳,1990,p.443)
子孫の出世を願う、切実ながらいささか世俗臭のする歌だと考えられるが、俊成は藤原北家の人で、萬子媛も藤原北家の花山院の出であるから、神のしるしどころか、文字通り祐徳稲荷神社の神様の一柱となられた萬子媛は子孫の栄達を祈った俊成の願いを最高に叶えた子孫といえるのではあるまいか。
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