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2018年1月12日 (金)

山岸凉子『レベレーション(啓示)3』(講談社、2017)を読んで

昨年末に娘が山岸先生の『レベレーション』第3巻を買って来てくれた。

フランスの国民的ヒロイン、ジャンヌ・ダルク(1412 - 1431)を描く『レベレーション』。山岸先生の力量を印象づける力強い筆致で、第1巻がスタートした。

わたしはワタクシ的期待感を籠めて、それの感想を書いた。

2015年1月 3日 (土)
山岸凉子「レベレーション―啓示―」第1回を読んで
https://elder.tea-nifty.com/blog/2015/01/post-dc53.html

年が明けてから今巻を読み、第2巻を読んだときも思ったように、次の巻を読むまではまだ感想を書けないような気がしている。……といいながら結構書いてしまったので、ネタバレありです、ご注意ください。

というのも、歴史的見地からすると、ジャンヌの今巻での活躍は最高潮に達していたものの、第1巻冒頭に描かれたジャンヌの表情から推測すれば、この後――4巻から――の暗転する状況とそこから起きるジャンヌの内面劇こそがこの作品でのクライマックスにふさわしいものと考えられるからだ。

山岸凉子『レベレーション(啓示)3』
出版社: 講談社 (2017/12/21)

百年戦争のただなかにあったフランスで、国王シャルル6世の発狂後、ヴァロア朝支持のアルマニャック派(シャルル6世の弟のオルレアン公ルイ)とイギリスと結んだブルゴーニュ派(叔父のブルゴーニュ公フィリップ2世)が対立し、内戦が拡大していた。

王太子シャルル7世(1403 - 1461,第4代国王シャルル6世と王妃イザボー・ド・バヴィエールの五男。フランス・ヴァロワ朝の第5代国王となる)は、神の啓示を受けたと主張するジャンヌ・ダルクを信じて兵を出す。

オルレアンへ向かったジャンヌ・ダルクは破竹の勢いでイギリス軍の包囲網を破り、オルレアンを解放した。

戦いの場面が連続する割には、今巻はむしろ単調な印象を受けた。

山岸先生は複雑な歴史の流れを説明するのに忙しかったように感じられ、そこから単調な印象がもたらされたのかもしれない。あるいは、神意を享けて動揺していたジャンヌの内面が、ここではさほどの困惑も迷いもなく、安定していたために、そう感じられたのかもしれない。

ただ、精神状態が安定していたからこそ、人々が戦いの中で告解もせずに死んでいったことに対するジャンヌの敵味方を区別しない純粋な悲しみは、人間的心情の華と表現したくなるほどの可憐な印象を与える。山岸先生の手腕が光る。

ちょっと記憶しておきたいのは、ジャンヌが負傷する場面だ。

神意を享けた行動であったにもかかわらず負傷してしまったことに対する恐怖心と傷の痛みから泣いてしまうジャンヌに、聖カトリーヌが出現して(ジャンヌにしか見えない)、恐怖せずに済むだけの根拠を与え、慰める。「そこには大事な臓器がひとつもない 痛くない」と。

人間とは異なる大局的見地に立ってお告げや慰めを与えようとする神的存在のみが持ち得るような、大らかな威厳を感じさせる聖カトリーヌ。圧倒的でありながら、どこかおぼろげな存在感だ。

聖カトリーヌは聖カタリナ(アレクサンドリアの聖カタリナ)のフランス名。

ウィキペディア:アレクサンドリアのカタリナ

聖カトリーヌの両手は抱擁するのをかろうじてとどめているかのような、微妙な開き方をしている。美しい場面である。

一方、ジャンヌ・ダルクに神の啓示を与えたのは、フランスの守護天使(人ではないが、守護聖人)とされる大天使聖ミカエルであったと考えられている。

第1巻で、ジャンヌに神の啓示を与える大天使聖ミカエルは、威圧するような体の大きさで、圧倒的、冷たいといってよいくらいに威厳がありながらも、やはりおぼろげな印象を与える繊細なタッチで描かれている。

第3巻までを、神的存在(大天使聖ミカエル、聖カトリーヌ)とジャンヌの蜜月時代といって差し支えないだろう。それは今後も続くのだろうか。

オルレアンでの勝利の後も、ジャンヌは神意に駆り立てられ、ランスでのシャルル7世の戴冠式を急ごうとする。そこで今巻は終わった。

このあと、シャルル7世の戴冠式が実際に執り行われるが、事態は暗転し、ジャンヌに悲劇が訪れることを歴史は物語っている。

第1巻冒頭でのジャンヌは事態が暗転した後のジャンヌで、処刑を告げられ、火刑場へと引き立てられていくところだ。

ランスへ向かったジャンヌが火刑場に向かうまでを、そして向かった後のジャンヌを山岸先生はどう料理するのだろう? 

『レベレーション』が何巻で完結するのかは知らないけれど、とりあえずは第4巻がとても待ち遠しい。 

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