左派の源流となったイルミナティ ①創立者アダム・ヴァイスハウプトの天敵、神智学(26日に再加筆あり)
当記事は、過去記事「左派のグランパ、アダム・ヴァイスハウプト(イルミナティ創立者) ①天敵のプラトン系神智学」に加筆したものです。
…………………………
世界中に浸透した左派の影響力を、ここ数年で思い知らされた気がする。共産圏の人々と左派だけが影響されているのではなかった。
左派の原理原則となってきたのが、1776年に現在の南ドイツでイルミナティを創立したアダム・ヴァイスハウプトの著作であることを知ったときの驚き。
イルミナティなんて、オカルト情報誌『ムー』が情報提供する都市伝説にすぎないと思っていたから。左派の中のどれくらいの人々が、ヴァイスハウプトの思想について知っているのだろうか。
サイト「隠された真実」から、引用させていただく。
結社結成の日、ヴァイスハウプトは『Novus Ordo Seclorum』というタイトルの本を出版している。このラテン語の意味は「新世界秩序」。
ヴァイスハウプトの掲げたイルミナティの行動綱領は以下の通り。1. すべての既成政府の廃絶とイルミナティの統括する世界単一政府の樹立。
2. 私有財産と遺産相続の撤廃。
3. 愛国心と民族意識の根絶。
4. 家族制度と結婚制度の撤廃と、子供のコミューン教育の実現。
すべての宗教の撤廃。これらの行動網領が、後の共産主義の原型となった。
<https://sites.google.com/site/uranenpyou/home/illuminati>(2017/4/20アクセス)
イルミナティの行動綱領を著作で確かめられないのは惜しいが(『Novus Ordo Seclorum』も邦訳してほしい)、邦訳版の出ているアダム・ヴァイスハウプト(副島隆彦・解説、芳賀和敏・訳)『秘密結社イルミナティ入会講座<初級篇>』(ベストセラーズ、2013)を読んで、この行動綱領の出てきた背景――、つまりヴァイスハウプトの思想を検証することは可能である。
イルミナティの行動綱領を、共産主義がそっくり借用したようである。ならば、いささか遅きに失した感はあるけれど、共産主義の本質を知るためにイルミナティの原典を学術研究する必要があるのではないだろうか。
夫は保守系カラーの大学で――当然、その大学ではマイナーだった――マルクス経済学を専攻したが、ゼミでイルミナティのイの字も聞いたことはなかったそうだ。
ちなみに夫の政治思想自体は、バランスを重んじるところから、一般日本人に多い中道右派といったところだろうか。わたしも政治思想的にはそうだが、わたしの場合は神秘主義者であるために、物事の判断の基準が一般人とは異なる場合がある。
植田樹『ロシアを動かした秘密結社――フリーメーソンと革命家の系譜』(彩流社、2014)によると(35頁)、秘密結社「イルミナティ教団(Iluminati)」が1776年、パヴァリア(現ドイツ・バイエルン州)で、大学の哲学教授アダム・ヴァイスハウプトによって、組織された。
『秘密結社イルミナティ入会講座<初級篇>』の「訳者あとがき」には、ヴァイスハウプトの学位、肩書きについて、次のように書かれている。
「ヴァイスハウプトはインゴルシュタットに生まれ、この地の大学で哲学博士の学位を得た後、法学の員外教授をへて弱冠25歳で法学部の教会法正教授となっている。専攻分野は、はっきりと哲学であった彼が法学部正教授となった経緯は不明であるが、父親が(彼が5歳のときにすでに没している)インゴルシュタットの法律学の正教授であったことと関係があるかもしれない。正教授(プロフェソル・オルディナリス)といえば今日の我が大学教授とは比べものにならないほどのステータスである。さらに25歳といえばかなり俊足のエリートというべきか。しかも教会法といえばカノン法、カトリックの教会法ではないか(教会法に対して世俗法といえばローマ法で、この二つの法を法学生は学ぶのである)。この分野の正教授がカトリックに楯突いたのだ」(ヴァイスハウプト、芳賀訳、2013、「訳者あとがき」211~212頁)
前掲書『ロシアを動かした秘密結社――フリーメーソンと革命家の系譜』によると、イルミナティは、「『理性に支配される独裁的な共和政治』をめざす社会改革を唱えた。組織は軍隊組織のような下位の会員の上位者への絶対服従、部外者への秘密保持、会話や通信における会員同士の間での偽名と暗号の使用を義務づけ、狭量な民族主義や愛国心を否定する国際主義を唱えていた。また『目的達成のためならあらゆる手段が正当化される』と説いていた」(植田、2014、36頁)
イルミナティは本来フリーメーソンの結社ではなかったが、1782年にフリーメーソンの作家フォン・クニッゲ男爵が加入したのを契機に文豪ゲーテ、ドイツ諸侯、貴族ら多くのフリーメーソン会員が加わった結果、イルミナティの結社とフリーメーソンは会員構成で一体化してしまった。
こうしてイルミナティの結社はフリーメーソンの一組織に混淆、変容していき、クニッゲは追放され、大方の貴族が去った一方では、残ったイルミナティの結社員は急進的な政治傾向を強めていった。
パヴァリア選挙侯カルル・テオドルによって、1785年、イルミナティの結社は解散させられた。しかし、「この秘密結社の思想や掟は組織の解散後も各国の革命結社の規範の雛形として取り入れられていく。フランス革命の源流の一つにもなった」(植田、2014、36頁)
イルミナティの思想はイタリア統一運動にも取り込まれた。その中心的役割を荷ったのはカルボナリ党で、フリーメーソンとイルミナティ団の組織や規範を取り込んでいた。ロシアの無政府主義の革命家バクーニンも、この組織に関わった一時期があった。
イルミナティの信奉者はその後、パリで急進的な政治傾向の『親友同盟』の主導権を握り、そこからイルミナティ派の『社会主義サークル』が派生した。
「彼らの規律は二十世紀の様々なテロの秘密結社の内部規律に取り込まれ、革命運動の組織に多大の影響を及ぼすことになる。カール・マルクスはこれを『共産主義思想を実現するための最初の革命的組織』と評した」(植田、2014、37頁)
このようにカール・マルクスは、パリで派生したイルミナティ派の社会主義サークルを共産主義の源流として評価しているのである。
左派によってヴァイスハウプトの思想は拡散していったのだが、その工作の陰険、周到、執拗であるさまが露骨に目につき出したのは、日本では民主党政権のころからだった。
海外、特にアメリカではそれがわが国以上の猛威であったと知ったのは、ようやく今度のトランプ大統領誕生のころからだった。
こうした現象を、自分なりにいくらかでも分析し、整理してしまわなければ、落ち着いて創作に向かえない。第二次世界大戦後にGHQによって左傾化させられたわが国の大学の研究室でイルミナティが研究されるようになるには、まだ時間がかかるだろうから。
なぜ左派がイルミナティを研究してこなかったのかは疑問であるが、イルミナティを研究するにはイルミナティの攻撃の対象となったキリスト教や神秘主義をも研究せざるをえないからではないかと思う。それらをヴァイスハウプトに無条件に従って全否定するほうが結束が乱れないことは確かであり、しかし、もしそうだとすれば、それは盲目的信仰以外の何ものでもない。
ヴァイスハウプトがあたかも天敵であるかのように攻撃したのが、プラトンの流れを汲む神智学だった。もっとも、その神智学とはブラヴァツキー以前の神智学である。
1748年に生まれたヴァイスハウプトは、1830年に死去している。近代神智学運動の母となったブラヴァツキーが南ロシアで生まれたのは、その翌年の1831年のことだからである。
ヴァイスハウプトは『秘密結社イルミナティ入会講座<初級篇>』の中で、教会法の正教授に就任した人物とも思えない悪態をついている。何しろ章のタイトルが「神秘主義に傾倒するすべての成員に告ぐ」である。
あんこの足りないくそ坊主どもの戯れ言に他ならぬ現代の伝説というかメルヘンがある。これは、哲学というジャンルに、継承されている。というよりは異なる教説としてあからさまに、表明され含まれているものなのだ。この学説ほど、誤ったものは人間悟性の歴史のなかで他にない。こんなものに熱狂するのは、グノーシス派、折衷派、カバラ主義者くらいで、この連中の先には度はずれた大バカ、腐れ頭人間が待っている。後代の神知学者や神秘主義者は、桁外れのおバカ加減では誰にもひけを取らず、何人たりともこいつらに並ぶのはまだしも、凌駕するなどとんでもない。なんといっても馬鹿さ加減こそやつらの本領なのだから。このセクトは、そのご同類であるグノーシス派とユダヤ派のカバラ姉妹があることと並んで、たくさん麗しい性格の著作がある。身の毛のよだついやらしさの極致なのだが、これらは、いずれ偽造か古代の人物、その名のでっち上げで、連中の絵空事が受け入れられ、おおいに賞賛されるように目論まれていた。たとえばモーセ、アブラハム、ヘルメース、オルペウス、ゾロアスター、ピタビラス等など。(ヴァイスハウプト、芳賀訳、2013、170頁)
大した騒ぎである。神秘主義をこのように嫌う人物が薔薇十字団系のロッジなどもあるフリーメーソンの結社に入ったのは、組織をのっとるためという目的以外には考えられない。
ウィキペディア「イルミナティ」には次のように書かれている。
「1777年、ヴァイスハオプト自身もフリーメイソンになっており、並行してフリーメイソンだった者も多かった」ウィキペディアの執筆者. “イルミナティ”. ウィキペディア日本語版. 2017-02-24. https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%9F%E3%83%8A%E3%83%86%E3%82%A3&oldid=63134666, (参照 2017-02-24).
『秘密結社イルミナティ入会講座<初級篇>』には、現代の編者F・W・シュミットによって書かれた「はじめに」がおかれている。それには、次のように書かれている。
「イルミナティの発展は、フリーメイソンのグループによって行われた。フリーメイソンの多くが、イルミナティにリクルートされたので、折に触れてフリーメイソンのある支部(ロッジ)はイルミナティの手中にあると言われるようになった。しかし『両者の意図と目的は一致しない』となった。このことをルートヴィヒ・アドルフ・クリスティアン・フォン・グロルマン[1741-1809 ギーセンの法学者]という人が、1793年12月のフリーメイソン支部における演説で強調した。その演説は、身分秩序を脅かし宗教(キリスト教の信仰)を危険な状態に陥れるイルミナティへの激しい非難を含んでいた。フォン・グロルマンの目には禁止後もイルミナティは、諸国政府に遍(あまね)く浸透しており、至る所で活動していると見られていた」((ヴァイスハウプト、芳賀訳、2013、シュミット「はじめに」37~38頁)
トルストイは『戦争と平和』で、ロシアのフリーメーソンのロッジがイルミナティにのっとられる過程をよく描いていると思う。
ヴァイスハウプトは『秘密結社イルミナティ入会講座<初級篇>』の中で、プラトンを最も罵倒している。『ティマイオス』しか読んでいないかのような、長い引用と短絡的な解釈が特徴的である。
尤も、『ティマイオス』は重要な作品らしい。大学時代にシモーヌ・ヴェイユの著作で『ティマイオス』を知り、そのころから読みたかったのだが、果たせていなかった。文庫では出ていなかったのだ。
ヴァイスハウプトには、プラトン用語の意味がよく呑み込めていないのではないか。反抗期の少年のように字面だけを読んで納得できないと、すぐに断罪し、悪態をつくのである。それをそっくり真似て、左派がブラヴァツキーをバッシングする。純粋理性を重んじているようなことを書きながら、行動が伴っていない気がする。
ブラヴァツキーの著作ではあちこちでプラトンが出てくる。『ティマイオス』にも言及があるので、ヴァイスハウプト、ブラヴァツキー、シモーヌ・ヴェイユが『ティマイオス』をどう読んだかの比較をしたくなった。
改めて、『ティマイオス』が邦訳で出ていないか、図書館検索で調べると、利用している二つの図書館にはなかった。
アマゾンで調べると、プラトン( 種山恭子・田之頭安彦訳)『プラトン全集〈12〉ティマイオス・クリティアス 』(岩波書店、1975)が中古で21,393円! もう1冊、プラトン(岸見一郎訳)『ティマイオス/クリティアス』(白澤社、2015)が2,376円。
翻訳者である岸見氏は、『ティマイオス/クリティアス』の発売元である白澤社ブログの記事「岸見一郎訳『ティマイオス/クリティアス』刊行の経緯」によると、「ギリシア哲学研究の大家・故藤澤令夫氏に師事しただけではなく、岩波版『プラトン全集』の『ティマイオス』の訳者・故種山恭子氏の教えもうけた」かただとか。
夫が誕生日に贈ってくれた図書券を使って購入することにした。注文したばかりで、まだ届いていない。読んだら、続きを書きたい。予定が目白押しなので、また間が空くかもしれないけれど。
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トルストイ『戦争と平和』 ⑤テロ組織の原理原則となったイルミナティ思想が行き着く精神世界
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トルストイ『戦争と平和』 ④破壊、オルグ工作の意図を秘めたイルミナティ結成者ヴァイスハウプトのこけおどし的な哲学講義
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2016年9月 5日 (月)
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