恩田陸『蜜蜂と遠雷』感想メモ3(奇妙な自説の展開)
ブログ「いつか電池がきれるまで http://fujipon.hatenablog.com/」2015年9月3日付記事「『新しいことやってます』という人は嫌いです 」の中で、「ダ・ヴィンチ」(メディアファクトリー)2005年10月号の恩田陸と鴻上尚史の対談記事から、ストーリーのオリジナリティについて対談している箇所が紹介されている。
その中に、恩田陸の次のような言葉がある。「私には、ストーリーにオリジナルなんかないという持説があって。つまり、人間が聞いて気持ちいいストーリーというのは、ずっと昔からいくつかパターンが決まってて、それを演出を変えてやってるだけだと。」
「私は新しいことやってますという人は嫌いなんです。それはあなたが知らないだけで、絶対誰かが過去にやってるんだからと。」
ストーリーにいくつかのパターンが存在するのは周知の事実であるが、パターン=ストーリー でないことは、恩田陸自身が語っている。
恩田陸は、ストーリーとは決まったパターンをもとに演出したものであると定義づけている。この定義にも問題がある気がする。
手元にある『新明解国語辞書 第五版(特装版)』(三省堂、1999)ではストーリー、パターン、演出はそれぞれ次のように説明されている。
ストーリー
①物語。話。②筋(の運び)。筋書。パタン(パターン)
①特徴によって分類した型。[以下略]演出
①〔劇・テレビ・放送などで〕脚本に基づいて、俳優の演技や装置・衣装・照明・音楽などを指示し、上演・撮影を効果的に行うこと。
②〔会などで〕あらかじめ決めた順序・筋書きなどの通りに事が運ぶようにさせること。〔文脈により、特別な趣向を凝らして思い通りに事を運ぶ意にも用いられる〕
「オリジナルなんかない」のが物語であるのか、筋であるのかで意味合いが違ってくるのだが、いずれにしてもストーリーにオリジナルなんかないという恩田陸の言葉は、人間の顔はパターン化できるから人間は皆同じ容貌である、というのと同じくらいの暴論であるように思える。
そもそも彼女が『チョコレートコスモス』を執筆するにあたり、オマージュ(和製フランス語で、パクリとの違いがわたしにはわからない)の対象として『ガラスの仮面』を選んだのはなぜだろうか。
恩田陸の暴論に従えば、どんな作品をオマージュの対象としても『チョコレートコスモス』が完成したことになるはずなのだが、あえて『ガラスの仮面』を選んだのは『ガラスの仮面』の他ならぬオリジナルな部分に魅了されたからではないだろうか。
人間の顔のパーツは決まっているから容貌の違いなどない、と思う人はあまりいない。そのように考える人間が多勢となれば、美容整形外科クリニックの多くは廃業に追い込まれてしまうに違いない。
美内すずえの『ガラスの仮面』は『王将』を下敷きにしたものだそうだが、『ガラスの仮面』はまだ完結していない。長年、作者が完結させようとして苦しんでいるのをファンは見守ってきているのだ。
『王将』という作品を顔に例えれば、美内すずえはその顔に魅了され、その顔を研究し、その顔に学び、その顔を参考資料として別の、この世に一つしかないオリジナリティに富んだ顔『ガラスの仮面』を、自らが創造主になって作り上げようとしているのに違いない。
一方の恩田陸はどうだろうか。
『ガラスの仮面』や他の先行作品に魅了されていながらストーリーにオリジナルなんかないとうそぶくことで(わたしにはパクリ、盗作といわれないための詭弁にしか思えない)、他人の作品も自分の持ち物であるかのような、勝手な利用の仕方をしているのではないかと疑われる。
『蜜蜂と遠雷』が直木賞にまで選ばれていることから考えると、パクリ、盗作といわれないための周到な工夫は凝らされているのだろうが。
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