自分の顔の変化から連想したピーテル・ブリューデル「乾草づくり」
中学時代からの友人2人と11月以降、博多で会うことになった。友人はもう一人いるのだが、東京在住なので来られない。
九州の異なる三県から集まるとなると、博多で会うのが一番便利だ。
ずいぶん久しぶりに会うことになるので、前に連絡をとったときに一人に「顔変わった?」と訊いたら、「整形したわけじゃないから、変わってないわよ」との返事。
いや、整形してなくったって……。
わたしは変わった。夫が不品行を働いたときから明らかに顔が変わっていき、不細工になったと思う。自分でいうのもナンだが、独身のころは可愛いといわれたほうで、それまでは無難に年を重ねていた。
それが、何か顔にされたかのような忌まわしい爪痕が残り、表情が何より違う。
顔の部品がバラバラになったのをかろうじてまとめたものの、元の形には戻せなかったといった変化と、表情から濁りと険がもうどうしても消えなくなってしまったのだ。
年をとったための単なる劣化とは明らかに違い(それもあるけれど)、これは精神面から来たものだろう。日本の文学界への不信感と、老年になってから新たな自立を迫られそうな生活不安が嫌な表情の変化をいよいよ強めた。
幸か不幸か、結婚してから険が見られるようになった顔の例は周囲に結構見つかる。そうなった決定的な原因は様々かもしれないが……
わたしは中野孝次『新装版 ブリューゲルへの旅』(河出書房新社、1993)の中の次のような解説を思い出した。「乾草づくり」と題された絵の解説の一部である。
ピーテル・ブリューデル(1525/1530–1569) 、乾草づくり、1565
女たちはたぶん、祖母、娘、母だろう。娘はあどけないまるい顔を、ほほえみかけるように、こっちに向けている。(……)よく見れば画面の諧調のもととなっている三人の女たちも、ブリューゲルの他の人物の醜さに通じる人生の重さ、苦しさの痕跡を免れているわけではなかった。母親らしい中年女は、あどけない顔をこっちに向けている娘の傍で、きっと前方に目を据えている。かつては娘と同じようにみずみずしくまるかった顔は、いまは骨ばり、逞しくなり、疑り深いその目は、もう何事にもだまされぬぞ、甘い良いことなどこの世に期待していないぞ、といっているかのようだ。老婆は、喜怒哀楽の情からさえ解放されたような諦念しきった無感動ぶりで、前を見ている。画家はまるでこの三人の女によって、一人の女の一生を暗示しているかのようである。そしてそれが語る言葉は、「生ハ険シ」だ。(中野,1993,pp123-125)
この本をいつ購入したかは記憶にないが、出版年からすると、わたしはまだ若かったはずだ。そのとき、解説に鮮やかな印象を与えられたことを覚えているが、絵に描かれた母と祖母の表情の変化に関してはまだ他人事であったと思う。
今は絵に描かれた母のようであるわたしの顔も、やがては祖母のような「喜怒哀楽の情からさえ解放されたような諦念しきった無感動」な表情になるのだろうか。そのときにはもう棺桶に片足を突っ込んでいるのだろう。
そういえば、最近、美容整形が流行しすぎている気がする。
別人のように見える女優さんや、同じような系統の顔をした美貌の女優さんが増えた。最初はハーフが増えたのかと思ったのだが、どうやら美容整形を受ける人が増えたということのようだ。
この街にも美容整形外科は多い。顔を変えすぎたためのアイデンティティーの問題が生じることはないのだろうか。
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