大戦前後の日本が透けて見えてくる、岩間浩編著『綜合ヨガ創始者 三浦関造の生涯』
三つの過去記事(本に関するメモ)をまとめました。レビューというには難があるかもしれませんが…
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岩間浩『綜合ヨガ創始者 三浦関造の生涯 』(竜王文庫、2016)は、総合ヨガを創始し、わが国に近代神智学を紹介した三浦関造を描いた決定版である。
「この書は『伝記』的ではあるが、同時に、三浦関造関係者の証言集ともいうべき性格を備えているために、いつくかの重複が存在する」と「はじめに」にあるように、三浦関造があらゆる角度から捉えられている。
神秘主義に関心のある人にもない人にも、三浦関造の稀有な生涯には力強く訴えかけてくるものがあるのではないかと思う。
満州事変のころ、アメリカにいた三浦関造はウィリアム・ダドリー・ペリーと交渉を持った。
ウィリアム・ダドリー・ペリーは吉永進一の論文「近代日本における神智学思想の歴史」で次のように描かれている人物である。
メタフィジカル宗教で最も政治的な活動をした人物がウィリアム・ダドリー・ペリーである。ペリーは元ジャーナリスト、脚本家で、ロシア革命を取材して反共、反ユダヤ主義になる。1928年に神秘体験をしてから霊的思想に目覚め、メタフィジカル教師として名声を得る。〔略〕キリスト教的終末論と神智学的人種論の混淆が彼の特徴であった。
神智学的人種論と書かれているのだが、ペリーの人種論が吉永がいうように「彼の説によれば、シリウスから三千万から五千万年も前に魂の集団が移住してきてこれが動物に入る。人類は、猿から生まれた人種、シリウスから転生した魂、偉大なアヴァターの弟子である十四万四千の正しい魂に分かれるという」 ようなものだとしたら、わたしのような理解の浅い者でも、このような考え方には何の接点も見い出せない。
『シークレット・ドクトリン』の二巻第1部「人類発生論」はまだ邦訳版が出ていないので、わたしは機関誌に掲載された田中恵美子先生の解説を通しての理解程度なのである。もっとも、第一巻第1部「宇宙発生論」からも人類の発生についてわかる部分がありはする。
何の接点も見い出せないそれを、神智学的とはどういうことなのだろうか。
ブラヴァツキーがH・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクト リン 宇宙発生論(上)』(神智学協会ニッポン・ロッジ、1989)の中で、以下のように憤慨(?)しているので、ダーウィンの進化論をあまりの理解不足 から支持した人がいるのだろうが、その誤った理解を指して神智学的とはいわないだろう。
ある神智学徒は『エソテリック・ブッディズム』をほとんど理解しなかったので、その本はダーウィンの進化論、特に人間が直立猿人の直系の子孫であるという説を完全に支持したようである。この事実をつきとめて私達は本当に驚いている。 (ブラヴァツキー,田中&クラーク訳,1989,スタンザⅥp.437)
シリウスのような遠い星の話も出てこない。
こ れから与えられるスタンザはすべて、一太陽プララヤ後の地球惑星体系とそのまわりの目に見えるものの(宇宙)発生論だけを扱っていることを読者は覚えてお かなくてはならない。普遍的コスモスの進化についての秘密の教えは与えることはできない。それはこの時代の最高の叡智の持ち主にも理解できないからであ る。〔略〕従って伝えられることは、“梵の夜”が終わったあとの我々の目に見えるコスモスについてだけである。(ブラヴァツキー,田中&クラーク訳,1989,プロエム(緒論)p.201)
ペリーの説が神智学的だとすれば、吉永の解説は間違っているだろうし、ペリーの説が吉永のいう通りだとすれば、その説には神智学的なところは全くないということになる。
神智学徒の誰かの説に似ているというのであれば、誰の説なのか、せめて名を示すべきである。
ところで、吉永の論文ではペリーの小説家としての側面や具体的な政治活動には言及がないが、ペリーは1920年に The Face in the Window 、1930年に The Continental Angle でオー・ヘンリー賞に入賞している。
ちなみに、1920年の一等賞はMaxwell Struthers Burt、二等賞はFrances Noyes
Hartで、その他の入賞者の中にペリーの名があり、同じ入賞者の中に「グレート・ギャツビー」「楽園のこちら側」で知られるF・スコット・フィッ
ツジェラルドの名もある。
ウイリアム・ダドリー・ペリーはドイツ語版ウィキペディアによると、アメリカに生まれた英国メソジストの家系で、純粋な英語の家系であることを誇りにしていた。
メソジストといえば、三浦関造は青山学院大学神学部出身で、『綜合ヨガ創始者 三浦関造の生涯 』によると、関造の妻ハルの上の兄・豊田実は東京大学を出て青山神学校に入り、そこで関造と同級となり、関造はその縁でハルと結ばれた。豊田実はケンブリッジ大学を出て御茶ノ水、九州大学教授を経て青山学院院長となる(第9代院長1946~1955→青山学院歴代院長<https://www.aoyamagakuin.jp/history/introduction/list_02.html>2016年8月9日アクセス )。
青山はメソジスト系だから、関造とペリーは神秘思想という共通点以外にも、メソジストという共通した宗教教育を受けていたわけである。
英語版ウィキペディアを参考にすると、ウィリアム・ダドリー・ペリー(1890年3月12日- 1965年6月30日)はマサチューセッツ州の東端、エセックス郡に位置する都市リンに生まれた。
第一次世界大戦後、ペリーは外国特派員としてヨーロッパとアジアを旅してロシア内戦中に残虐行為を目撃する。こうした経験は共産主義とユダヤ人に対する深い嫌悪を残し、ペリーは彼らが世界征服を計画していたと信じた。
アメリカに帰国後はハリウッドでシナリオライターとなり、1928年以降は超常体験と形而上学的著作で知名度を上げた。
大恐慌が1929年にアメリカを襲い、ペリーは政治に積極的になる。アッシュビルに移住後の1932年、その対応に特化した「社会形而上学」及び「キリスト教の経済学」コースのあるガラハッド大学を設立した。
1933年1月30日にアドルフ・ヒトラーがドイツの首相となると、ペリーはヒトラーに共鳴し、国のほぼ全州で銀シャツ党を設立、すぐに相当数の信奉者を獲得した。
ペリーは反戦活動家、反共産主義者、反ユダヤ主義者、国粋主義者、ファシスト、レイシスト……など、彼を見る人の立場によってさまざまに呼ばれたようである。
いずれにせよ、ペリーはルーズヴェルトに反対し続けた。ルーズヴェルトを主戦論者と非難し(warmonger は戦争屋という訳すべきだろうか)、孤立主義を主張したのであった。
孤立主義とは、他国と同盟関係を結ばず、可能な限り他国との関係を持たないで孤立を保とうとする外交上の主義をいう。モンロー主義に代表される、第二次世界大戦前までのアメリカの伝統的な外交政策をさす。
現代日本人の感覚でペリーをファシスト、レイシストと斬り捨てることも可能だろうが、彼のような枢軸国に理解のある反戦活動家は、戦争を望まなかった当時の日本人には貴重な存在であっただろう。
満州事変が勃発した昭和6年(1931)前後の2年間、三浦関造はアメリカを講演して回っていた。関造がウイリアム・ペリーと接触したのはそのときであった。
関造はアメリカにおいて、ウイリアム・ペリーとも接触し、手紙のやり取りも増す。キリストに天啓を受けたウイリアム・ペリーは後に、ユダヤ金権に踊らされる米政府に抵抗して、日米戦争を未然に防止しようとするが、投獄されてしまう。(岩間,2016,p.35)
アメリカと戦争すれば負けるとよく知っていた三浦関造は知人を通じて戦争回避を総理大臣・近衛秀麿に直訴した。陸軍の荒木貞夫大将は三浦の提出した建白書に賛成したが、真珠湾攻撃を決めていた海軍にはそれは通らなかった。
荒木大将は昭和15年に、関造の身を守るために、亡命のような形で自由都市上海へ逃した。このとき関造は57歳を迎えていた。(岩間,2016,p.38)
予知能力があったという三浦関造には、悲惨な日本の姿が脳裏に浮かんでいたのではないたろうか。ペリーとの接触や近衛秀麿への直訴といった行動からは、関造が戦争回避のためにどれだけ必死だったかがわかる。
上海では世界宗教同胞会を組織してスリーエル運動という平和運動を展開した。スリーエルとは光Light、愛Love、自由Libertyの意味である。
光と愛と自由の美しいハーモニーがなければ、真の平和は達成できないことを、戦争のさなかに、上海、満州、モンゴル等で説いて回った。(岩間,2016,p.39)
また、神智学やヨガに関する英文冊子を10冊以上出版し、神智学などの神秘科学を外国人たちに英語で講義した。
敗戦後、300人ほどの暴徒から袋叩きに遭ったことなども『綜合ヨガ創始者 三浦関造の生涯 』には出てくる。このときの奇跡的な現象が凄い。自らに起こしたその現象がなければ、このとき三浦関造は見るも無残な死体となっていただろう。
300人もの暴徒のことは、朝鮮進駐軍と僭称して暴れ回った在日朝鮮人たちのことを余命図書で読んでいなければ、わたしには何のことだかわからなかっただろう。余命プロジェクトチーム『余命三年時事日記』(青林堂、2015、pp.195-198)を参照していただきたい。
余命プロジェクトチーム『余命三年時事日記ハンドブック』(青林堂、2016)第1章中、「在日による略奪・暴行・虐殺」(pp.15-22)には、敗戦によって日本軍は解体され、警察力も弱体化して治安維持が困難となった当時の日本で、旧陸軍の小銃や拳銃などで武装した在日朝鮮人が起こした凶悪事件のうち特に有名なものが一部挙げられている(22件)。
さらには三浦関造の身に降りかかったGHQによる出版禁止、没収、パージ(追放)のことなども、わたしには今だから理解できた。
これについては、関野通夫『日本人を狂わせた洗脳工作 いまなお続く占領軍の心理作戦』(自由社、2015) 、江藤淳『閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本(文春文庫)』(文藝春秋、1994)を参照していただければと思う。
三浦関造が「竜王会」を創立したのは昭和28年(1952)のことであった。
竜王会ではなぜ神智学とヨガを教わるのだろう、とわたしは時々考えていた。
つまり神智学会の結成と解散、そして竜王会の創立までに三浦関造にどのような内的変遷があり、どのような動機で竜王会の創立がなされたのかが会員のわたしには呑み込めていなかったのだった。次のように書かれている箇所を読んで納得した次第。
関造は、神智学をしている間に常に思っていたことがあった。すなわち、神智学を通して、人々は自分の中に潜む神性を知ることが出来、死をも恐れず、喜んで日常生活に精を出し、真の幸せをつかみ得るはずであると考えていた。この幸せをすべての人々と分かち合いたいと切実に思っていた。そして、だがどうして人々が来てくれないのかという、一般の人に対するやるせない気持ちがあった。
この気持ちから、方法論としてヨガを導入することで、神智学理論を実践する方向が開けると思い、ヨガと神智学を結び付けて、打ちひしがれている日本人の敗戦後の心に光を灯そうという情熱が燃え上がった。(岩間,2016,p.44)
本書と合わせて同著者による『ユネスコ創設の源流を訪ねて―新教育連盟と神智学協会』(学苑社、2008)、また三浦関造の諸著や神智学関連書など読まれれば、より深みのある世界がひろがることと思う。
三浦関造という傑出した一知識人・思想家の生涯を通して、第二次大戦前後の長い間封印されてきたわが国の歴史がダイナミックに透けて見えてくる。
岩間 浩 (著)
出版社: 竜王文庫 (2016/7/2)
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