神智学をさりげなく受容した知識人たち――カロッサ、ハッチ判事 ②ハッチ判事
Hans crossa
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死者Xから来た手紙―友よ、死を恐れるな
エルザ バーカー (著), キャシー ハート (編集)
出版社: 同朋舎出版 (1996/03)
デイヴィッド・パターソン・ハッチ(David Patterson Hatch,1846–1912)は『死者Xから来た手紙―友よ、死を恐れるな』によると、メイン州ドレスデンに生まれた。
1872年、ハッチはミシガン州セントポールで弁護士としての開業を許された。セントポール市の検察官、サンタバーバラ郡上級裁判所判事を経てロサンジェルスで弁護士業についた。
ハッチの哲学は50歳以降、飲酒、肉食、喫煙の習慣を断つことから始まり、意志による肉体の征服、深遠な哲学的瞑想、研究、著作活動などの形をとるようになっていった。
1899年ごろからブリティッシュコロンビア州山中のクートネイ湖付近で5年あまり隠遁生活を送り、神秘主義哲学を開花させた。その後、ロサンジェルスに戻り、弁護士業を再開。
1912年2月21日に逝去し、ロサンジェルス・タイムズ紙は「さまざまな点において傑出した人物であった」と讃えた。『エル・レシード』『二十世紀のキリスト』『科学的オカルティズム』などの著作がある。
Photograph of Judge David Patterson Hatch
1915
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生前のハッチはそのような人物であったが、死後、霊界からエルザ・パーカーを通じ、霊界観察記ともいうべき内容の一連の手紙を送ってきた。
エルザ・パーカーとハッチの出会いは、パーカーがハッチの『二十世紀のキリスト』のテーマが自身の作品のテーマに通じていると気づき、質問の手紙を送ったことからであった。やがて親交を結んだ二人の友情は、5年あまり続いた。
霊界通信と呼ばれる著作は多いが、わたしの読書スタンスはどのような本も同じ本と見なすというもので、著作の外観に囚われない内容重視である。
そうした読書において、この種のもので興味を惹かれたのはエマヌエル・スヴェーデンボリ(Emanuel Swedenborg, 1688 - 1772)の著作とこの『死者Xから来た手紙―友よ、死を恐れるな』くらいである。
もっとも、スヴェーデンボリの場合は生きながら霊界を訪れることができたため、この世の他者を媒介する必要がなかった。
スヴェーデンボリの著作は膨大である。柳瀬芳意訳で静思社から神学著作全巻が出ている。
わたしはその中の『霊界日記 : 遺稿』の初巻を読んだだけで、あまりのキリスト教臭さ、難解さに音を上げてしまった。
大衆向きに編集された抄訳はオカルト情報誌『ムー』並みにすらすら読めたので、もっと詳しくスヴェーデンボリについて知りたくなり、1巻だけでもと思い購入してみたのだった。
キリスト教臭いといったけれど、パウロを最悪の使徒と断言、殉教に懐疑的で、キリスト教会とは異なる三位一体説を唱えるスヴェーデンボリは当然ながらキリスト教会からは異端視された。
国立国会図書館サーチで調べたスヴェーデンボリの著作をざっと――見落としがあるかもしれない――挙げてみよう。
- 神の摂理
- 白馬 : 黙示録十九章に記された
- 啓示による黙示録解説
- 生命
- 新しい教会の教義の簡潔な解説 : 「新教会教義解説概要」の改題
- 天界の秘義 第1~28巻
- 真の基督教
- 信仰
- 主イエス・キリスト : その人格と贖罪について
- 聖書
- 宇宙間の諸地球
- 天界とその驚異及び地獄
- 最後の審判と霊界の諸相 : 遺稿
- 新しい教会の教典 : 遺稿
- 神の愛と知恵 : 宇宙創造論
- 最後の審判とバビロンの滅亡
- 仁慈の教義と主の聖言 : 遺稿
- 真の基督教の増補 : 遺稿
- 天界と地獄
- 霊界日記 : 遺稿 第1~9巻
- 霊的な生命・神の聖言 : 遺稿
- 神・摂理・創造 : 遺稿
- 黙示録講解 : 遺稿 第1~12巻
- 結婚愛
- 新しいエルサレムとその天界の教義
- アタナシウス信条について/主について/聖霊について : 遺稿
- 神学論文集 : 遺稿
- 霊魂と身体の交流
まだしもトマス・アクィナスのほうが読みやすいと思ったくらいに神学調のスヴェーデンボリに比べると、エルザ・パーカーの著作は通信者ハッチがスヴェーデンボリより後世の人であるためか現代的で、宗教臭があまり感じられず、わたしには読みやすかった。
読み進めるほどに神智学の本を読んでいるような錯覚に陥り、ハッチは神智学協会の会員だったのだろうか――と思った。
果たして、神智学が出てきた。三箇所出てくる。全て引用する。
こちらの世界には、そういう霊とは別種の霊もいて、それを神智学者はよく元素の霊と呼んでいる。(……)エネルギーのまとまり、あるいは意識のまとまりで、神智学者の考える元素の霊にきわめて近い霊は、たしかに存在する。それらの霊は、通常、あまり高度に発達してはいない。しかし、地上での生は彼らにとってはあこがれであり、進化する上で次に必ず通過する段階でもあるので、彼らは強い力でそこにひきつけられていく。(パーカー,宮内訳,1996,p.110)
自己のうちにある夢の世界は、それはそれはすばらしいところだった! 神智学者だったら、おまえはデーヴァチャン〔訳注――神智学用語で、魂が肉化と肉化のあいだに休息と至福の時間を過ごす世界のこと〕の至福の中で休息してきたのだと言うだろう。それをなんと呼ぶかは問題ではない。とにかく、銘記すべき体験だった。(パーカー,宮内訳,1996,p.217)
わたしは神智学というものをそれほど深く学んだわけではないので、“デーヴァチャン”ということばの使い方は正確ではないかもしれない。(パーカー,宮内訳,1996,p.219)
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