歴史短編1のために #22 徳川家康の繊細な子育て「人の基は慈悲なり」。教育論、育児書、百科事典。
萬子媛のおばあさまの清子内親王(鷹司信尚夫人)とその妹の貞子内親王(二条康道夫人)の会話に御所風の感じを出したいと思い、四苦八苦したことは #21 で書きました。
それではまずい気がして、図書館から参考書を借りました。歴史小説に御所言葉が必要な場合の有名な参考書らしいです。
御所ことば (生活文化史選書)
井之口 有一 (著), 堀井 令似知 (著)
出版社: 雄山閣 (2011/11/25)
まだ学習している段階ですが、例えば、こんな風になるのかしらね。
萬子媛は魅力的なかたであらしゃりますから、書き甲斐がございます。
江戸時代は教育論、胎教論、教育論、育児書の類いが沢山出ていました。以下の本が参考になります。これも図書館から借りました。Amazonでは中古しかないようです。
江戸の子育て (文春新書)
中江 和恵 (著)
出版社: 文藝春秋 (2003/04)
江戸時代の思想の柱は儒教、朱子学ですから、「習わせたきは四書五経」となるようですが、享和3年(1803)に出た『撫育草』に「あさゆふに 神と仏を 礼拝し つぎにこゝろで 父母を拝めよ」とあるように、神仏儒習合思想です。
教育論を体系化した貝原益軒『和俗童子訓』が刊行されたのは宝永7年(1710)ですから、1705年に歿した萬子媛がこの本を読むことはなかったでしょうが、女性向きの教訓書、中江藤樹『鑑草』が刊行されたのは正保4年(1647)です。
22歳になっている萬子媛が読んだとしても不思議ではありません。胎教、育児に関するものも含まれています。
また、同様の女性向き教訓書、中村愓斎『比売鑑』は寛文元年(1661)の刊行で、寛文2年(1662)に37歳で鍋島直朝と結婚し、寛文4年(1664)に長男を産んだ萬子媛が読むにはよい時期に出ています。
中村愓斎は日本初の絵入り百科事典『訓蒙図彙』を寛文6年(1666)に刊行しています。萬子媛の長男も、寛文7年(1667)に生まれた次男も、この百科事典に親しんだかもしれません。
「『訓蒙図彙』は、子どもに知識を与え、書物に親しませるのに最適の本として、のちに学者たちによって盛んに推奨された」(中江、2003、56頁)とあります。
寛文3年(1663)から5年(1665)年に、山鹿素行は全45巻の『山鹿語類』を刊行。45巻のうち3巻が「父子道」で、父としてのあるべき姿や子育てについて論じているとか。
夫にもこんな本を読ませたかったですね。江戸時代の育児の何て繊細で濃やかなこと。
わたしはいろいろな育児書を読みましたが、どれを読んでも何か決定的なものという感じがせず、揺らぎっぱなしで、かえって不安をそそられたりすることも多くて、江戸時代に書かれたような瑞々しさのある、筋の通ったものを感じさせるような育児書に出合えていたらと思います。
徳川家康が子育てについて危うさを見せた秀忠夫妻のために江戸に赴き、竹千代と国松を育てる上での注意書きを秀忠夫人に送ったことは有名ですが、その抜粋があり、わたしはそれに深く感動しました。
家康は手紙の中で「三郎(信康)が生まれたときは自分も若く、子どもが珍しく、その上虚弱だったから、育ちさえすればよいと思い、気の詰まることはさせず、気儘に育て、成人したから急に色々申し聞かせたが、とかく幼少の頃、礼儀作法を教えていなかったので、親を敬することを知らず、気兼ねもせず、のちには親子の争いのようになって、話しても聞き入れず、かえって親を怨むようになった」(中江、2003、22頁)と自らを反省し、他の子供のときはどうしたかを書いています。
「我が儘にては、終に我が願望の叶ひ候事、決してなき事に候」(中江、2003、24頁)という言葉は家康の手紙の中で読むとき、含蓄のあるものとして響きます。
慈悲ある子に育てよ、と書かれたところもすばらしい。
子を育つるには、忘れても柔弱に馴れまた血気の小勇を好まざるやうにすべし。人の基は慈悲なり。慈悲ある者は、当分悪しき事ありても、必ずなほるものぞ。 (中江、2003、30頁)
父子の中はむつまじくて、かざる事なかれ――と家康はいいます。
何だか、家康が好きになってしまいました。子育てに迷ったとき、父か舅から家康の手紙のような助言があれば、どんなにありがたかったことでしょう。秀忠夫妻は家康の教訓を生かせたのでしょうか。
江戸時代、凄い。トップに家康のような人がいたことの意味をわたしは改めて考えました。
自分の育児が色々と反省させられます。ただ純文学のお陰もあってか、慈悲ある子には育った気がしていますが、親の贔屓目でしょうか。
自分自身が警戒心が強くなりすぎて……物事を見る目が最近……バランスが難しいですね。
家康の手紙にある「慈悲」は神仏儒習合思想の響き合う、玲瓏として曇りなき「慈悲」なのでしょう。
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