歴史短編1のために #15 隠元禅師のすばらしい墨蹟
図書館から以下の本を借りた。
書名:黄檗
副書名:京都宇治・萬福寺の名宝と禅の新風 特別展 黄檗宗大本山萬福寺開創350年記念 九州国立博物館開館5周年記念
著者名:九州国立博物館/編集
出版社:西日本新聞社
出版年月:2011.3
わたしの初の歴史小説に登場する祐徳院(花山院萬子媛)は、晩年を黄檗禅に生きた。
前掲書の主催者の「ごあいさつ」で、日本に伝えられ、大きな影響を与えた黄檗禅が何であるか端的に解説されているので、その部分を引用しておきたい。
臨済宗、曹洞宗とともに日本三禅宗に数えられる黄檗宗は、承応3年(一六五四)、弘法[ぐほう]のため長崎に渡来した中国明末の高僧・隠元隆琦禅師[いんげんりゅうきぜんし](一五九二~一六七三)によって開立されました。隠元禅師は、中国臨済禅の正統な法系と厳格な清規[しんぎ]を日本に移植し、当時の日本禅宗界に大きな影響を与えました。その高風は幕府にも届き、隠元禅師のための新寺建立が特別に許され、寛文元年(一六六一)、京都宇治の地に黄檗山萬福寺が開創されました。そこに出現したのは、伽藍配置、仏像、扁額や聯[れん]、法要の次第、梵唄[ぼんばい]などすべてが中国明朝風であり、江戸時代の人々は、当時の流行の先端をゆき、また日中文化交流の橋渡しの役目も果たし、江戸時代の文化の形成と発展に大きく貢献しました。
『黄檗』に収められた作品は、大本山萬福寺の名宝と九州の黄檗寺寺院所蔵の仏教美術である。
本では、隠元禅師が直接伝えた中国文化も紹介されている。
食文化では、いんげん豆、すいか、たけのこ、れんこん。寒天はメイド・イン・ジャパンの食材だが、名付け親は隠元禅師だとか。
煎茶と普茶料理。ごま豆腐は普茶料理である。
仏具では、鳴り物、木魚の原型である飯梆[はんぽう]。木魚がなぜ魚かというと、「夜も目を開いている魚をみならって修業しなさい」という意味が込められているという。小鼓[しょうこ]、銅磬[どうけい]、銅鑼[どらこ]鼓。
原稿用紙、明朝体。
実は、借りたものの読む時間がとれず、返却直前になって、慌てて開いたのだった。
そのとき、目に飛び込んできたのが、これ。
隠元隆琦墨蹟[いんげんりゅうきぼくせき] 大殿楽成偈[だいでんらくせいげ] 一幅
江戸時代 寛文八年(一六六八)
萬福寺
本の作品解説によると、大雄宝殿の完成にあたって隠元隆琦がしたためた墨跡で、「隠元は「大雄宝殿の完成によって萬徳が備わり、花が開き種子を結び永遠に仏法の芳香が流れていくと述べる」。
この墨蹟を観たとたん、体がカッと熱くなり、何て魅力的な字だろうと興奮した。美しく、おおらかでありながら、端正。そして、どこか可憐。
昔、習字を習ったので、書道作品を観るのは嫌いではないが、趣味としているわけでもないので、鑑賞する機会自体がほとんどなく、この種のものを観て感動したのは、俳人の杉田久女の伝記で紹介されていた久女の墨蹟を観て以来だった。
この墨蹟を観ただけで、隠元隆琦の思想がどのようなものであったかが、伝わってくるようだ。
隠元隆琦墨蹟いんげんりゅうきぼくせき] 額字原書[がくじげんしょ]「黄檗山」[おうばくさん] 一幅
江戸時代(十七世紀)
萬福寺
この雄大感。どこか絵画的ですらある。檗の字が何だか蝶に見える。山にいる高僧も見えてくるようだ。その山はおそらく、この世の山であって、この世の山ではない。
隠元示寂直前の遺墨というのが、これまた圧倒的。
隠元隆琦墨蹟いんげんりゅうきぼくせき] 示元瑤尼偈[げんようににしめすげ] 一幅
江戸時代 寛文十三年(一六七三)
萬福寺
隠元隆琦墨蹟いんげんりゅうきぼくせき] 示諸法子孫偈[しょほうしそんにしめすげ] 一幅
江戸時代 寛文十三年(一六七三)
萬福寺
隠元隆琦墨蹟いんげんりゅうきぼくせき] 遺偈[ゆいげ] 一幅
江戸時代 寛文十三年(一六七三)
萬福寺
最後に書かれた「遺偈」について、作品解説には次のように書かれている。
いよいよ示寂の四月三日は、今日がその日であると告げ、床で休んでいたが正午に起きて「遺偈」をしたため、未刻に示寂したと『語録』は伝える。(……)
いよいよ床から起きあがった隠元は、遺偈の筆を染めていう。中国の古黄檗から来た自分は、雄風を振ってこの地に黄檗山を幻出させたが、自らの功績ではない。今や身と心を打ち捨て、意識を超えて、思慮を絶した真空の境地と一つなのだと。
宗教の凄みをここに見る思いがする。このような姿を、わたしは既にパラマンサ・ヨガナンダ著『ヨガ行者の一生』(関書院新社、昭和54年改訂版)や、カトリーヌ・デスプ著『女[おんな]のタオイスム ――中国女性道教史』(三浦國雄監修、門田眞知子訳、人文書院、1996年)で見てきた。
宗教、宗派は違っても、薫り高い神秘主義のエッセンス、スタイルが存在するのを感じさせる。
萬子媛は、死に際して、このような形式をとらなかった。それは、死んでからなおも一仕事しようと決心するかのような、自分に鞭打つような死に方ではなかったか。
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