#8 漱石の問題点と、神智学協会の会員だった鈴木大拙 ③廃仏毀釈後の動き
図書館から鈴木大拙の『神秘主義 キリスト教と仏教』(岩波書店、2004年)『東洋の心』(春秋社、昭和9年新装版)、『鈴木大拙未公開書簡』(禅文化研究所、1987年)を借りた。
『神秘主義 キリスト教と仏教』の訳者後記(板東性純)にあるような以下のような文章を読むと、如何にも神智学協会の会員らしい著作という気がする。
また、本書は単に大学の講壇における講義内容のみでなく、他大学やキリスト教会、仏教会、あるいは精神分析・宗教学・神学・哲学等の学者のセミナー等で語った内容でもあったようである。また本書は、アメリカの最大都市ニューヨークで、最晩年、十年近くの歳月を送った、大拙の心中に去来した思索内容を生々しく伝えている。その広がりはかなり多肢に亘っており、初期仏教の教義をはじめとして、華厳・般若・唯識等の主要な大乗仏教思想の他、わけても大拙が大乗仏教の帰結と見ていた禅・浄土思想に広く説き及んでいる。殊に、西欧においては、長い間異端視されてきたマイスター・エックハルト(一二六〇―一三二七)の神秘思想とその境涯を、禅語録に登場する数多の禅者の場合と直に対照せしめるなど、空前絶後の対比の試みを事もなげに遂行している。仏教・キリスト教、両教に通底した神秘主義の普遍的性格を、縦横無尽に論じていることは、書名が標榜している通り、本書の白眉と見ることができよう。〔pp.307-308〕
過去記事で見てきたように、廃仏毀釈で日本の宗教の主軸となってきた仏教が徹底的に破壊されてしまったため、仏教を本当に知ろうと思えば、仏教の根源、インドの原始仏教からさらにヒンドゥー教へと遡る必要があったのだろうが、インドは1858年から大英帝国の植民地となり、ようやく独立を果たしたのは1947年であった。
悲惨な状態に陥っていたインドの宗教に救いの手を差し伸べたのは、バラモン、仏教の哲学の重要性を認識していたブラヴァツキーの神智学協会だった。
このブラヴァツキーの神智学協会は第一の目的として「人種、肌の色、宗教の差別をせず、人類の普遍的同胞団の核を作ること」(H・P・ブラヴァツキー『神智学の鍵』神智学協会ニッポンロッジ、平成7年改版、p.48)と挙げているような傾向を帯びていた。
神智学協会においては、政治活動は完全に協会外のこととして関知しない方針だが、協会からは、インドの独立運動に飛び込み、ガンジーに影響を与え、インド国民会議の議長に選ばれたアニー・ベザントのような人物が出ている。
鈴木大拙(1870年11月11日(明治3年10月18日) - 1966年(昭和41年)7月12日)や三浦関造(1883年7月15日(明治16年) - 1960年3月30日(昭和35年))が神智学協会の会員であったのは、偶然ではない。
当時は仏教を深く知ろうとすれば、神智学協会というルートをとって、そこへ辿り着く以外に安全、確実な方法がなかったのではないかと思われる。
同様に、ブラヴァツキー著作の邦訳『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』にインド哲学、仏教研究の世界的権威であった中村元の推薦の言葉があるのも、偶然ではない。以下はウィキペディアより抜粋。
中村 元(なかむら はじめ、1912年(大正元年)11月28日 - 1999年(平成11年)10月10日)は、インド哲学者、仏教学者。東京大学名誉教授、日本学士院会員。勲一等瑞宝章、文化勲章、紫綬褒章受章。在家出身。
主たる専門領域であるインド哲学・仏教思想にとどまらず、西洋哲学にも幅広い知識をもち思想における東洋と西洋の超克(あるいは融合)を目指していた。外国語訳された著書も多数ある。
明治の廃仏毀釈後に日本で起きたのは上述したような動きと、ウィリアム・モリスの著作やジェームズ・マードックとの接触を通して共産主義思想の影響を受けた夏目漱石に見られるような、共産主義思想、無神論、唯物主義への動きであったろう。
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