#11 疑似祖母との恋愛物語(ぬるま湯物語) - 漱石の「坊ちゃん」
飛ばし読みしながらも、初めて夏目漱石の「坊ちゃん」を最後まで読んだ。
この作品は純文学小説ではないが、だからといって大衆小説ともいえず、出来の悪い大衆小説的な作品というほかはない。
平板な表現の毒舌がだらだらと続く文章には耐えられず、飛ばしながらでなくては読めなかった。
その文章自体に、問題があるのではないだろうか。言葉の結びつけ方がおかしいのである(ノートですらないメモだから、ここでは省略するが、評論を書くときに例を出して指摘する)。
坊ちゃんはしきりにレッテル貼りを行う。純文学であれば、逆に、世間で貼られたレッテルをまず剥がす作業を行う。
大衆小説であれば、勧善懲悪の爽快感が得られるのだろうが、そういうストーリー展開でもない。
マドンナの心情に重きを置けば、華のある大衆小説ともなるのだろうが、そうした場面もない。
家柄のよい出でありながら、社会的激変のために女中となった清と坊っちゃんのラブロマンスだろうか?
坊っちゃんが殿で、清に祖母・恋人・召使いの役割を担わせた、夢物語というべきか。
借家とはいえ、坊ちゃんと一緒に暮らすという清の夢を実現させ、離ればなれになっても思いを通わせ続けた男女が、晴れて一軒の家に収まるという、庶民の好みそうなつつましい夢物語となっている。
マドンナがまともな形では出て来ないのも、そのためである。清が紅一点でなければならないから。そのことからも、「坊っちゃん」が変則的恋愛小説であることは間違いない。
若い男と老女が一軒の家に仲むつまじく暮らすエンディング、女のわたしには相当に気持ちの悪い恋愛小説である。
坊っちゃんは、いわゆるおばあちゃんに溺愛されたおばあちゃん子であるのだろうが、清が祖母でないというところが味噌なのであろう。清は疑似祖母であるが、まぎれもなく女なのだ。
坊ちゃんと性関係があってもなくても、ああ気味が悪い。疑似祖母との恋愛物語なんて。
わたしは、年齢差のある恋愛関係が気持ちが悪いといっているわけではない。男の側に都合のよすぎる漱石の女性観が、気持ちが悪いといっているのである。
この女性観、既視感がある。村上春樹の女性観だ。以下の作品(Kindle版)で、わたしはそれを指摘している。
「村上春樹と近年のノーベル文学賞作家たち(Collected Essays, Volume 1)」
(ASIN:B00BV46D64)
マドンナ(若い女性)に欲情することもなく、清への初恋を貫いたままの幼児心理で成人後も生きる坊っちゃん。したい放題して、事が暴力沙汰に及んでも逮捕されることもなく、学校をやめても、すぐに他の仕事が転がり込む。常に保護される坊っちゃん。
清にも天にも愛でられる坊っちゃん。このことからも、純文学小説には欠かせない、主人公と作者との間に存在すべき距離感のないことがわかる。
そして、老女が亡くなったあとのことは書かない漱石。
ぬるま湯に浸かり続ける坊っちゃんを、作者が限りなく肯定するお話なのである。
まともに読んで、まともな感想が書けますか、こんな小説で。シェークスピア、デフォー、モーパッサン、ゾラ、イプセン、芭蕉、李白まで貶す漱石が書いた小説がこれって……。
かような内容の「坊っちゃん」を読書感想文に推薦……ほほほ……ホント、どうかしてますねえ、この国。書けないでしょう、まともな感想文なんか。
デフォーは読んだことがないけれど、それ以外のどなたを読書感想文に選んでも、それなりに書き応えがあるはずだ。読書感想文には、漱石が貶す作家をオススメする。
この男が真面目づらして「門」なんか書くと、なおのこと罪深い。門なんてタイトル、こけおどしもよいところだ。
お稽古事に1、2度行ってやめる子供がいるけれど、主人公の参禅がそのレベルにすぎないことを思えば。
まだ漱石にかんする研究は序の口だが、早くも飽きてきた。この男が文豪と祭り上げられてさえいなければ、とっくに夏目漱石から離れているだろう。
夏目漱石は本当はあばた面だが、日本では文豪のシンボルとなっているあの有名な写真には、それを消す修正が施されているそうだ。それは漱石の罪ではないだろうが、加工されたあの写真が漱石のイメージアップに利用されてきたことは間違いない。
隠れマザコン(ババコン)で、幼児心理のまま成熟することを拒否、無教養であることを自慢すらし(この世で教養のある人間は漱石先生だけでなければならない)、他人にレッテル貼りをして馬鹿にして、暴力沙汰を好む――そんな生き方を天は愛でると漱石の文学は教えている……(絶句)。
ちょっと、漱石から離れよう。そのつもりなのに、気になってなかなかそうできない。
テレビの国会中継をつけたまま、KindlePaperwhiteで「坊っちゃん」を読んでいるうちに、爆睡。とにかく、漱石を読んでいると眠くなる。
すると、夢を見た。学校に(高校?)、安倍首相が視察にくる。ぞろっと一団になってこちらに来る安倍首相は、わたしたち生徒のほうを見て、「いつからこの国ではいじめが流行るようになったのか、誰かわかる人がいたら教えてください」と声をかける。
わたしはいじめをテーマとした小説を書いたことがあると思い、その小説の載った雑誌を手に、安倍首相を追いかける。
最上階が首相官邸ということになっていて、最上階へと続く階段の踊り場に首相がひとり。わたしが近づくと、ペロペロキャンディーを差し出される。「お一つどうぞ」
この踊り場でペロペロキャンディーをなめる時間だけが、首相の唯一の自由時間らしかった。
わたしは自作の宣伝ととられると困るなと思いながら雑誌を渡して、この小説を書いた時期からいじめが流行り出しました、いじめをテーマとした小説を書かざるをえない社会状況でした、と説明する。
ほお、という表情の首相。
「子供たちにはよい本を読ませなければいけません。でなければ、この国は崩壊してしまいます。よい本がどんな本かの選択が難しいところですが……」と、力説しているところで、目が覚めた。まだ国会中継中で、共産党議員の質疑中だった。
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