21人のコプト教徒が殺害されたという。カーレン・ブリクセン『アフリカ農場』を読む。
ISILが15日、リビアの海岸でキリスト教の一派であるコプト教徒のエジプト人21人を殺害したとする動画を公開した。
コプト教は原始キリスト教(最初期のキリスト教)の流れを汲むキリスト教である。アフリカには、古くからキリスト教があるのだ。
伝承では1世紀(42年頃)にマルコがエジプト(アレクサンドリア)に立てた教会(アレクサンドリア教会)である。451年のカルケドン公会議の後、カルケドン派(現在のキリスト教多数派)から分かれた。
ナグ・ハマディ文書などの初期キリスト教文書についての本を読んでいると、よくコプト語というのが出てくる。ギリシア語からコプト語に翻訳されたと考えられているものが多いようだ。
ナグ・ハマディ文書ではないが、初期キリスト教文書の中に『マリア福音書』と呼ばれる文書がある。ここでのマリアはマグダラのマリアで、マリアを愛弟子として薫育するイエスのありし日の面影や、ペトロとの衝撃的なやりとりを伝える文書で、コプト語版とギリシア語断片が知られている。
- 2009年12月19日 (土)
Notes:不思議な接着剤 #34/ペテロとパウロについての私的疑問/『マリヤによる福音書』についての私的考察#1
https://elder.tea-nifty.com/blog/2009/12/notes347-68b3.html
考え方が違うからといって、無造作に相手を殺せるような宗教がこの世にあるとは信じたくない。それが宗教の名に値するとは思えない。わたしは昔コーランをざっと読んだにすぎないが、砂漠の民にふさわしい格調高い宗教書であると思った。
要するに、どんな名著、名言でも、解釈を間違えば、とんでもないことになるという例証ではないだろうか。全てが国語力、読解力にかかっているとさえ、思えてくる。
アフリカといえば、わたしは映画を観て原作者に興味が湧き、カーレン・ブリクセン『アフリカ農場』(渡辺洋美、筑摩叢書、1992年)を図書館から借りて読んでいた。ペンネームのイサク・ディーネセンで出ている『バベットの晩餐会』(桝田啓介訳、ちくま文庫、1992年)も借りている。
初の歴史小説のための資料読みも、気分転換に書き始めた短編も、後回しにして。
英領東アフリカ(現在のケニア)で、ブリクセンは夫と共に農場を経営するが、コーヒー園事業と結婚が破綻してのちも、そこでの荘園風の生き方を続けることを望んで、経営の立て直しに奮闘。結局のところ、うまくいかず、帰国するに至った。
ブリクセンは離婚した夫から梅毒をうつされていたのだが、「梅毒をもらってでも、〈男爵夫人〉になるだけの価値はある」といった彼女は、古色を帯びた封建的な、ある種の理想世界をアフリカの一角に形成しようとしたのだった。
わたしは以下の記事で、書いた。
- 2015年2月15日 (日)
シネマ『バベットの晩餐会』を観て 追記:文学の話へと脱線「マッチ売りの少女」とリンドグレーンの2編
https://elder.tea-nifty.com/blog/2015/02/post-cdaf.html
晩餐会が終わったあと、台所で1人コーヒーを飲むバベットの凜々しく、美しい、どこか勝利を収めた将軍のような安堵の表情を見ると、彼女はパリの居場所をとり上げられた代わりに、デンマークの寒村をまるごと贈られたのではないかと思えてくる。彼女は見事にそれを料理したのではないだろうか。
まだ映画の原作となった『バベットの晩餐会』は読んでいないが、農場を荘園に見立てて、その土地を掌握しようとしたブリクセンを『アフリカ農場』で知ると、わたしの映画解釈が間違ってはいなかったのだと思える。
ブリクセンの描写はくっきりとした、わかりやすいもので、状況がよく掴め、光景が頭の中に自然に浮かんでくる。
過酷な生活環境だが、内面世界との境界がなくなっているかのような幻想的でもあるアフリカでの日々の記録は、圧巻である。
それにしても、白人の女性の矜持と胆力は凄いなあと思う。
原住民の二人の子供が銃を玩具にして、発砲事故を起こしたときの凄惨な光景。子供の一人は死亡し、もう一人は顎を撃ち砕かれるが、何とか元気になった。
牛に襲いかかった二頭の雄のライオンを、夜間、ブリクセンがぶるぶると震える手で懐中電灯を持ち、照らす中で、恋人デニスが撃ち殺す場面があった(デニスは自家用機の事故で亡くなる)。
あれはBBCの番組だったか、ライオンの群れの観察記録を観ていたので、そのときのライオンたちの事情がわたしには呑み込めた。それで痛ましく感じたが、一つ間違えば、ブリクセンたちが餌食になることもありえたのだった。
ライオンは、一頭あるいは複数の雄ライオンを中心に雌と子供のライオンたちが集う、ハーレムのようなグループを作って暮らすと番組ではいっていた。雄の子供ライオンは、成長すると群れを追い出される。
雄が警備を司り、雌が育児と狩りを行う。雄を王様に迎えるときは、見立てのベテランである数頭の雌が、何ヶ月もの時間をかけてじっくりと決めていた。迎えられて王となった雄は、自分で苦手な狩りをする必要がなくなる。
雌たちは連係プレーで狩りを行い、獲物は一番に王様に行く。その代わり、雄が群れを守る役割を果たせなければ、追い出されるのだ。
二頭の雄が農場の牛を襲ったのは、なかなか王様になれない、狩り慣れのしない二頭(兄弟かもしれない)が空腹を我慢できなかったからだろう。動物の世界は厳しい。その厳しさと魅力をブリクセンは克明に描いている。
イグアナを撃つ場面も忘れがたい。なぜ、彼女がそうしたかといえば、イグアナの皮でいろいろな綺麗なものを作りたいと思ったからだという。美へのあこがれと執着には強烈なものがあったようだ。
『アフリカ農場』には、最後の方に訳者のブリクセン小伝がある。ブリクセンの外観について「アメリカに招かれたとき、数多くの視聴者を驚かせた異様できらびやかな風貌と言動」とあり、その記述を物語るかのような写真も付されている。
彫りの深い、どこか謎めいた深みのあるまなざしが印象的だ。ブリクセンが過剰なまでにお洒落であることや、際立って知的であるだろうことは、その写真を見ればわかる。
イグアナのことを書いた場面を食い入るように見た、否読んだのは、以前ペットショップで大型の檻に入れられたイグアナのあざやかな色彩を思い出したからだった。
目に染むようなグリーンだった。ペンキ塗り立て。触れば、手にグリーンがつきそうな。そのような色をした生物がいるということが、ちょっと信じられないくらいだった。独特な風貌で木に寄り添ったまま、わたしがお店にいた間、イグアナは化石のように動かなかった。
アフリカの強い光を浴び、イグアナはえもいわれぬ色彩を放っていたのだろう。「山と積んだ宝石、あるいは古い教会のステンドグラスの一隅のように燦然と輝いている。人が近づいてさっと逃げたあと、イグアナのいた石の上を空色、緑、真紅の光線が流れて、一瞬、色のスペクトル全部が彗星のように宙に漂って見える」(p.262)
イグアナがまるで鱗粉でも放ったかのような描写だが、そんなイグアナが死ぬと一気に灰色になってしまうとは……。蝗の大群に農場が襲われたときの描写も凄い。
そういえば、いくらか前に、象に襲われる危険に晒されながら、長時間かけて学校に通う兄妹の出てくるドキュメンタリー番組を観た。あれは、確かケニアだった。ググってみよう。
NHK番組『世界の果ての通学路』だった。「世界には、何時間もかけて道なき道を学校に通う子どもたちがいる。なぜ彼らはそこまでして学校に通うのだろう?4か国の子どもたちの通学に密着したドキュメンタリー映画」と、番組内容が紹介されている。
ところで、娘がアリステア・マクラウドの『冬の犬』を注文したという。わたしの話を聴いて、読みたくなったのだそうだ(娘は図書館の本に手を触れない)。娘から借りて、いつでも再読できると思えば、嬉しい。
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