山岸凉子「レベレーション―啓示―」第1回を読んで
週刊 モーニング 2015年 1/15号 [雑誌]
出版社: 講談社; 週刊版 (2014/12/25)
どうです、このジャンヌ・ダルク。力のこもった表紙絵からも、山岸凉子先生の復活が充分に感じられるというものです。
「テレプシコーラ」終了後、もう一つパッとしなかった山岸先生。美内すずえ先生の「ガラスの仮面」は一向に完結せず、40年ぶりに出た池田理代子先生の「ベルサイユのばら」新刊のオスカルの顔は変。
一世を風靡した先生方も、さすがに、もうお年というべきなのだろうか……と淋しく思っていたところへ、山岸先生、新連載の朗報。そして、このジャンヌ・ダルク。いや、山岸先生はまだいける!と確信した次第。
以下、ネタバレあり、注意!
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第1回では、まず刑場に曳かれていくジャンヌの姿がクローズアップされ、そこから場面が変わって、13歳のジャンヌが暮らす村の様子、時代背景が描かれます。
勘が鋭そうなジャンヌは、結婚した姉カトリーヌが一見軟弱そうな夫に暴力をふるわれているのではないかと案じますが、そんな折、教会の方から光が射し、ジャンヌが初めての啓示を享ける、ある絶頂感が描かれます。
完全なネタバレになってしまうので、最終ページに書かれたジャンヌの言葉は書きませんが、この言葉は読むに値します。光――啓示――の性質がどんなものであったかを、山岸凉子が科学風に分析しているのです。
ジャンヌは初めて浴びた超自然的な、自分を招いた光のことを刑場に曳かれながら思い出しています。
思い出しているジャンヌと、思い出されているジャンヌの表情の違い……。
思い出しているジャンヌの表情は、いわゆる世に流布されている聖女ジャンヌ像とは違う、すさんだ、痛ましい内面をさらけ出しています。
山岸凉子がどんなジャンヌ像を創り上げようとしているのか、興味深いところです。
これはレビューから離れますが、わたしには昔からキリスト教について個人的に抱いている疑問があって、それは殉教という概念です。
神(または、それに準ずる聖なる存在)がある人物にあることをするように命じ(あるいは懇願し)、命令(懇願)に従ってそれを行えば、天国のご褒美が与えられる――しかし、その前に受難があるという、このパターンがわたしにはどうしてもわからないのですね。
他の宗教者にも、信ずるところに命を賭け、結果的にそれで命を落とすことがかつてあっただろうし、今もあるでしょう。現に、チベット自治区での出来事として、中国の圧政に対して抗議の焼身自殺を行う僧侶たちのことが報道されることがあります。
そうした僧侶たちの行為を、受難とは呼ばない気がします。あくまで、彼らが自らの信念と責任に基づいて行う抗議の自殺なのではないでしょうか。
自殺という手段がよいものではないことは、僧侶自らわかってのことでしょう。この世への絶望感から追い詰められた僧侶たちは、自らを犠牲にし、つかのま燃え盛る松明となることで人々の良識に訴えかけようとするのでしょうか。
それは、あまりにも痛ましく、怖ろしい、宗教者の純粋すぎる愚行と映ります。
ルルドで聖母体験をしたベルナデッタを描いたルネ・ローランサン『ベルナデッタ』(ミルサン&五十嵐茂雄共訳、ドン・ボスコ社、1982年3版)はわたしの愛読書ですが、拷問や刑死ではなかったとはいえ、死に至るまでの凄まじいばかりのベルナデッタの病苦はわたしには怖ろしいと感じられ、上記パターンに当てはまるような気がします。
なぜ愛読書かというと、あちこちに挟まれたベルナデッタの写真の顔と、素朴でありながら率直で理知的、時にユーモアを湛えている言葉が好きだからです。
ジャンヌ・ダルクについて書かれた本もこれまでに数冊読みましたが、ジャンヌがいったとされる言葉には、ベルナデッタとの共通点が見られるように思いました。
すなわち素朴さ(飾り気のなさ)、率直、理知的、機知という点です。
1412年生まれのジャンヌは、読み書きの教育を受けていなかったようです。日本では室町時代です。1844年生まれのベルナデッタは、学校や修道院などで教育を受けました。日本では江戸幕府の第12代征夷大将軍、徳川家慶の時代です。
聖なる存在に接していながら(大天使ミシェル、聖カトリーヌ、聖マルグリットの姿を幻視し、「声」を聴いたとされます)、否、接したゆえにとさえ思われるジャンヌの受難。
利用され、捨てられる。
イエスでさえ十字架上で、今際のきわに「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」と叫ばれたとマタイ、マルコは伝えています。
神秘主義的(神智学的)に解釈すると、人間であれば、どんなにできた人物であれ、高級な界から低級な界を内的に行き来しながら生きています。その七つの界に対応できる七つの本質が、人間には備わっているといわれます。
イエス、ジャンヌ、ベルナデッタにしても、この世に生きていたからには同じで、下の界に意識があるときほど、人間の内なる神性は弱められ、苦しむでしょう。十字架上のイエスはその弱い人間としての素顔をさらけ出したのではないかと考えられます。
その逆に、高級我としての内なる人間は聖なる存在と同格と考えられるので、依頼されたときは同格の立場だったともいえるのではないでしょうか。
が、何にせよ、キリスト教の神、聖なる存在がわたしには度を超えて強制的、お節介(?)に感じられてしまうのですね。
召命され、目的が達せられたあとに無残に捨てられるという、この現象は何なのだろう、とずっと疑問に思ってきました。
レビューが横道に逸れてしまいましたが、その解明の手がかりを「レベレーション」にちょっと期待したくなったわたしです。
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