初の歴史小説 (30)『葉隠』 ①ソクラテスの世界??
祐徳院(萬子媛)
1625年に生まれ、1705年閏4月10日没。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
(29)がまだ書きかけなのだが、図書館から奈良本辰也・責任編集『日本の名著 17 葉隠』(中央公論社、1969年)を借りたので、ちょっと触れておこう。
昔読んだことがあって、「綺麗……」と思った記憶があったが、まだ繙いたばかりなので、こういうのは早計かもしれないが、「山本常朝インタビュー集」といった、サロン的ムード――というと語弊があるだろうが――漂う本という印象である。
わたしは、これを読まなければ、佐賀藩、否――江戸時代のことはわからないと思わされた。それほど、様々なことが、こまごまと書かれているからだ。しかも、ここにはテーマが感じられる。武士の理想的あり方を中心に据え、人間はどうあるべきかというテーマを追究した本なのではないだろうか。
つまり、この本は武人やいくさに関する昔語り、こまごま々とした世間話であり、そうした逸話を題材に武士の心得を説いたマナー読本なのであるが、そこには一貫した哲学や美学が感じられるのだ。
「武士道とは死ぬことと見つけたり」という一文だけが有名になりすぎた。
しかし、山本常朝の談話を田代陣基が筆記し始めたのは、江戸時代も中期の宝永7年3月(1710年)のことで、脱稿したのは享保元年9月10日(1716年)だった。
武断政治が文治政治へと転換したのちの、太平の世に書かれたのである。
「山本常朝自身が、戦いの経験を持たないのである」、むしろ「太平の息苦しさというものがあった」と解説にあることを考え合わせれば、作品の性質が明らかになると思う。
太平の世でなければ、ここまでマナーに凝り、美学を糸とした思想を織り成すことは不可能である。戦乱の世では、『葉隠』のような多岐にわたるインタビュー集の企画自体、難しいのではないだろうか。
主君光茂が亡くなったとき、常朝は殉死したかったというが、殉死を幕府に先んじて禁じたのはその主君であった。
太平の世にあって、刀と死は美的昇華を遂げた。そうなる必要があった。
この本を借りようとして図書館の本を検索したところ、三島由紀夫著『葉隠入門』が出てきた。解説からすると、常朝のいう「恋の至極は忍ぶ恋」の「恋」とは男色のことだそうである。以下は解説より引用。
○o。+..:*○o。+..:*○o。+..:*
男女の関係は真の愛情の問題ではなかった。それは、家と家の関係であり、子孫を維持するという関係にすぎないのである。真実の愛情は、そうした物質的な関係の入りえないようなところに成立しなければならない。
いわゆる男色の道なのである。しかし、この男色とても形にあらわれてはならないというのだ。常朝がよく引く和歌に
恋死なん後の煙にそれと知れ
つひにもらさぬ中の思ひを
というのがあるが、死後の煙ではじめて、それであったかというような恋がもっとも美しい恋であるというのである。
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三島由紀夫から『葉隠』を連想したくない。イメージが損なわれるからだ。三島は生臭すぎる。解説にあるような、物欲(性欲)を排して、いわば聖域にまで高められた男色(プラトニック・ラブ)というと、わたしはソクラテスの世界を連想してしまう。意外にも。
すっかり放言してしまったが、本格的に読むのは(29)を書くために、もう少し黄檗宗を調べてからなので、読了後には違った感想になるかもしれない。
何にせよ、後醍醐天皇がどうの、光茂がどうの、島原の合戦で天草四郎から奪った旗がどうの、はたまた武士が顔色を見苦しくなくするために頬紅をさすだの……いや、面白すぎる!
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