謹賀新年。初創作は馬の詩(シュペルヴィエル「動作」、リルケ「牝鹿」をご紹介)。
わたしはこれまでに馬の出てくる作品を3編書きました。「田中さんちにやってきたペガサス」、「マドレーヌとわたし」、「ぬけ出した木馬」です。
「田中さんち…」でペガサスを描くためにお試し乗馬をしてからというもの、馬の虜となってしまったことは過去記事でくどいくらいに書きました。
「田中さんち…」ではペガサスと馬。「マドレーヌ…」では人形と馬。「ぬけ出した…」では木馬と馬。
馬を他のものと組み合わせて表現したのは、馬がそれら組み合わせたものの特徴を持っているように感じられたからでした。
わたしは「マドレーヌとわたし」で、以下のように書きました。
馬は大きい動物ですが、とても静かな生き物です。
馬には不思議なところもあるの。
乗っている人間のことや周りのことやなんかも皆わかっていて、それでいてなにもわからないふりをしてくれているみたいに思えるんです。
それって、なんだか人形みたい。ペガーズに乗っているときは、ほかにも人や馬が沢山いるのに、ペガーズと自分しかいないみたいに感じられるんです。
まるで、森の中の泉のほとりに馬とだけいるみたいな、幸せな気分になります。
あれは馬に乗ったときの神秘的な充足感でした。あんな思いに浸ったのは生まれて初めての体験だったのです。
わたしはこれまでに馬といえば、シュペルヴィエルの詩「動作」を連想したものでした。好きな詩ですが、一箇所だけ引っかかるところがあるのですね。『日本の詩歌 28 訳詩集』(中公文庫、昭和51年)より。
「動作」
ジュール・シュペメヴィエル、堀口大学訳ひよいと後[うしろ]を向いたあの馬は
かつてまだ誰も見たことのないものを見た
次いで彼はユウカリの木陰で
また牧草[くさ]を食ひ続けた。馬がその時見たものは
人間でも樹木でもなかつた
それはまた、木の葉を動かしてゐた
風の音でもなかった。それは彼より一万世紀も以前
丁度この時刻に、他の或る馬が
急に後[うしろ]を向いた時
見たそのものだつた。それは、地球が、腕もとれ、脚もとれ、頭もとれてしまつた
彫刻の遺骸となり果てる時まで経[た]つても
人間も、馬も、魚も、鳥も、虫も、誰も、
二度とふたたび見ることの出来ないものだった。
神秘的な詩です。ただ、2行目に「まだ誰も見たことのない」とありますが、その先を読むと、一万世紀前の「他の或る馬」も見たのではないでしょうか? それとも、馬は見たことがあるけれど、人間はまだ誰も見たことがない、という意味なのでしょうか。引っかかるところです。
そして、ここに描かれた馬より、リルケの詩「牝鹿」では――描かれる対象は馬ではありませんが――わたしが感じた馬の神秘性に近いものが描かれている気がします。『新潮世界文学 32 リルケ』「果樹園」(新潮社、1971年)より。
「57 牝鹿[めじか]」
ライナー・マリア・リルケ、山崎栄治訳おお、あの牝鹿、――昔の森のなんと美しい内部が
おまえの目にたたえられていることだろう、
なんと大きなつぶらな信頼が
なんと大きな恐怖とまざりあっていることだろう。それがみんな、おまえのその跳躍の
生気にみちたほそやかさにはこばれて。
だがなにごとも決して起りはしないのだ、
おまえのひたいの
非所有のその無知には。
でも、一晩探しましたが、わたしが馬から感じとった印象をそっくり描いた詩は見つかりませんでした。で、短い詩ですが、自分で書きました(詩は駄目だと過去記事で書きました)。下手糞でもなんでも、とにかくこれが今年の初創作となりました。
「馬」
馬は
もう一人のわたしを見るように
わたしを見る。
馬は
わたしの魂を嗅ぐように
わたしを嗅ぐ。
そして、
プレゼントを置き去りにするように
行ってしまう。
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