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2013年10月10日 (木)

河津さんから伺った創作秘話。「日田文學」臨時号は中止に。

 過去記事で河津さんの新しい本『森厳』に関する感想を書きましたが、昨日、河津さんがお電話くださったので、創作秘話など伺いました。

  この記事もネタバレを含みますので、これから読もうという方はご注意ください。

 わたしは以下の記事で、「著者が暗いトーンを幾重にも塗り重ねていったのは月を際立たせるための効果だったのではないかとすら思いました。正直いって、それが河津さんの技法なのか、偶然そうなったのかがわからないところです」と書きました。

 河津さんは「当然、技法です」とおっしゃいました。小説は、実際に起きた事件に基づいたフィクションだそうです。

 わたしには凄惨な事件を起こすような人物が、小説に引用されていたような上品な手紙を書くとは信じられないといいました。すると、河津さんは、事件当時、その人がまだとても若かったことにわたしの注意を促されました。

 刑務所では、読書などは自由にできるそうです。その人が死刑になるまでの長い年月をどのように過ごしたのかを、最後の手紙が物語っているのでしょう。

 改めてそのことに想いを馳せると、暗いトーンを重ねるように、数々の新聞記事や裁判記録が多くの頁を埋め尽くしている様は、あたかも受刑囚の閉ざされた日々を象徴しているかのようです。

 死刑になるそのときまで、その人の社会生活の全てはごく若いころに自分が惹き起こした事件に塗り込められていたわけです。

 このような形式があってもいいような気がしてきました。下手な想像を働かせて死刑囚の内面を描くことは、あの最後の手紙が持つ尊厳を犯す行為に当たるような気さえします。

 月の場面はひじょうに印象的で、一度読むと忘れられません。

 実験小説といってもよい形式は周到に考え尽くされた著者の内面からの要求であって、純文学ならではの本領を発揮した作品といえます。文芸評論家は、『森厳』と下手な技巧に走る最近の芥川賞作家の駄作とをよく比較してみてほしいものです。

 現在の日本で、これほどに品格のある純文学作品を書ける人は河津さん以外にいません。作品に出てくる言葉が、光景が、魂にまで響きわたるのです。

 彼のような作家を大事にしない、大事にできない日本の文学界。彼の作品が多くの人に読まれないことには、彼の後を継ぐ人も出て来ないでしょう。

 話は変わりますが、事情があって、『日田文學』臨時号は中止になりました。残念です。

 わたしが書く義務を覚えている大人向きの作品は今はどうしても書きたくないので、棚上げすることにし、児童小説『不思議な接着剤』に入る前に、祐徳稲荷神社を創建した萬子媛を主人公とした歴史小説を書いてみることにしました。

 歴史小説は初めてなので、まずはスケッチ風の短いものを書いてみたいと思います。これについては別の記事で。

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