中途半端な時期にですが、杉田久女、三橋鷹女の七夕の句をご紹介
七夕に、杉田久女と三橋鷹女の俳句を少しまとめて紹介したいと考えていました。
七夕の季語は秋ですが、旧暦の感覚とはずれがあるので、7月7日に紹介してしまおうかしら、でも七夕の季語は秋だし……と躊躇しているうちに7月7日は過ぎてしまいました。
が、秋になると七夕のことを忘れてしまいそうなので、中途半端な時期ですが、紹介しておきますね。
杉田久女の句は『杉田久女全集第1巻』(立風書房、1989年)、三橋鷹女の句は『三橋鷹女全集』(立風書房、1989年)からの紹介です。アマゾンで検索してみましたが、今はどちらの本も入手するのは難しそうです。いずれも同じ出版社から出ています。
杉田久女の随筆は青空文庫で読むことができますよ。以下は青空文庫の杉田久女のページへのリンクです。
- 作家別リスト:№606
作家名:杉田久女
http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person606.html
公開中の作品
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- 朱欒の花のさく頃 (新字新仮名、作品ID:43583)
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- .瓢作り (新字旧仮名、作品ID:4878)
- 梟啼く (新字新仮名、作品ID:44912)
- 万葉の手古奈とうなひ処女 (新字旧仮名、作品ID:49176)
では、まず久女の七夕の句を拾ってみます。
七夕百句青き紙にぞ書き初むる
子等は寝し簷端の月に涼みけり
七夕竹を病む子の室に横たへぬ
七夕や布団に凭れ紙縒る子
銀河濃し救ひ得たりし子の命星の竹北斗へなびきかはりけり
うち曇る星のいづこに星の恋海松[みる]かけし蟹の戸ぼそも星祭
下りたちて天の河原に櫛梳り
彦星の祠は愛しなの木陰
口すゝぐ天の真名井は葛がくれ
荒れ初めし社前の灘や星祀る
星の衣[きぬ]吊すもあはれ島の娘ら
久女の句というと、気韻生動たる句、あるいは優婉な句を連想しますが、とても子煩悩だったことを窺わせる母親らしい句も久女は沢山作っています。久女の二人のお嬢さんのうちのどちらかが七夕のころに重い病気になったことを想像させる句があります。
長女は俳人の石昌子さんです。今、ググってみたら、石さんは2007年に95歳でお亡くなりになっていたようです。わたしは昔俳句の雑誌で見た、石さんのパリをお詠みになった句が好きでした。石さんがお母様の句集を編んでくださったからこそ、今こうして久女の句に親しめるのです。
ご冥福をお祈り致します。
真摯であるがゆえに苦渋に満ちた生涯を送った久女の評伝『花衣ぬぐやまつわる……』(田辺聖子、集英社文庫、1990年)では、代表的な句が紹介されています。高浜虚子との最初幸福で、のちに暗転してしまった師弟関係や家庭の事情が描かれ、石さんのことも出てきます。
次に、三橋鷹女。
七夕や夜空展け来水の面
織姫は人の子吾のゆめに来も
河骨の水底をゆけり別れ星
うつし世にねがひの糸はかけざりき七夕や男がうたふ子守歌
「七夕や男がうたふ子守歌」って、いいですね。子守歌が似合うのは、少々苦み走っているくらいの男らしい男でしょうね。
常識を突き抜けたところと端正さとが融和した鷹女の句。晩年に近づくほど、鬼気迫る句柄となっていきます。前にも書いたような気がしますが、写真で見る若いときの鷹女は板東玉三郎に似ているとわたしは思いました。
杉田久女にしても、久女の弟子として俳句人生をスタートさせた橋本多佳子、そして鷹女も美貌の持ち主で、俳句を通して身につけた凜とした趣が貴人のようなムードを醸しています。あくまで写真を観た印象ですけれど。
字も、それぞれの人柄を表しているかのようで、さすがは俳人だけあって達筆です。特に久女の揮毫は有名です。
前掲の『花衣ぬぐやまつわる……』にはその写真も収められています。久女の筆遣いに心底魅せられてしまったわたしは、ずいぶん前に買った文庫本のその字を今でもちょくちょく眺めます。
そういえば、3,000句作ったと河津さんはおっしゃっていましたが(数年で3,000句だなんて、わたしには想像もつきません)、『日田文學』臨時号で披露してくださるのでしょうか?
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