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2013年7月28日 (日)

また石の旅行。高校生の感想文に「短い」よい本……うーん。

 電子書籍がもう少しで仕上がりそうなところへきて、左の腰痛。パソコンの前に座るのがつらかった。痛みの性質からして腎結石がまた旅に出たのではないかと思う。

 悶絶するような痛みになれば嫌でも病院に行くのだが、充分我慢できる程度のものだ。腎エコーでは大抵、小さな石が沢山あるといわれるが、砕いて貰わなければならないほどに大きなものが見つかったことはまだない。

 コトンと音がして、出た石を見たことはある。小さなものでも、わたしには痛い。今回、まだ石はのんびり旅行中みたいだ。昨夜はロキソニンを飲もうかと思うほど痛みがあり、少し熱っぽかったのだが、ロキソニンを飲むとわたしは吐き気がしたりめまいがしたりするので、やめた。

 今日はこの時間、パソコンの前に座ることができている。家事はやりにくいが、普通にやっている。

 アクセス解析を見たら、以下の記事に嵐の如く……

 最新版より、とにかく短いものをと思うのだろう。最新版では岡本かの子、上田秋成の短編も紹介したが、難しいだろうか。かの子の短編には面白いものも多く、秋成のは怪異譚集だから、夏場にはいいと思ったのだけれど、とっつきにくいかしら。

 相変わらず村上春樹の記事にアクセスが多いのは、宿題に出るからだろうか。教科書にどんな作品が使われているか調べてみた。予想した以上に使われていた。わたしがリサーチしたところでは、村上春樹の作品を教材にする場合、どう指導にしたらよいのかわからない先生も多い様子。

 そりゃそうだろう、村上春樹の小説はどう考えても娯楽小説だから。権威が一人歩きしてしまっていて、怖い。そのあたりの裏事情をここ数年調べてきたわけだが……

 村上春樹とか、最近の芥川賞作品といった、純文学の皮をかぶった、本当の意味では娯楽小説ともいえない(楽しませる工夫に徹底しているともいえない)、文学作品としては粗悪としかいいようがない作品を学校ではよく読まされているようで、可哀想になってくる。

 腰の痛みで電子書籍の作成ができず、その間、高校生が読むのによい短編を漁っていた。次の記事で、最新版の短編部門ベスト3を公開したいと思う。

 感想文を書くのに適した本は、例えば岩波文庫などを探せばいくらでも見つかるのだが、ほとんど本を読まない高校生の感想文に適した本を選ぶとなると、これが難しい。

 日本の青春文学といわれる――今でもそういうかどうかは知らないが、わたしの若い頃はそうだった――太宰治、坂口安吾、北杜夫の作品をあたってみた。

 太宰治の作品はKindle Paperwhiteで読むと、これが何と印象が変わってしまった。自分の電子書籍と同じ体裁で読むせいで、あらを探すような読み方になるからだろうか――繊細だと思っていた太宰の文章は案外粗い。粗いのは文章だけではない。

 北杜夫は昨年紹介した。短いもので、となると……うーん。

 坂口安吾のものは『白痴』『桜の森の満開の下』などいいように思うが、この手のものをいきなり読むとなると、理解できるかしら。

 ベスト3にはチェーホフの短編集から1編選んだ。『ロスチャイルドのバイオリン』が河出文庫で読めることを知ったから。全集でしか読めなかった作品を文庫で読めるようになるのは、嬉しい。

 チェーホフの短編には童話に近いようなものもあるが、それらでは感想文が書きにくい気がする。チェーホフには、成人男女の心の機微を表現した大人っぽすぎる作品が多い。別のタイプの『六号室』『黒衣の僧』などは名作だが、いろいろと読む中で読むにはよくても、いきなりだと脳への影響が心配になる。

 そうした中で『ロスチャイルドのバイオリン』は読みやすく、感想文も書きやすいと思う。文庫も今はすぐに手に入らなくなったりするので、これは稀少価値。

 夏目漱石、実はわたしはあまり好きではない。文章に凝りすぎるところが鼻につくし、官僚臭(エリート臭というべきか)が残っている気がする。神経症患者特有の観察癖が不快だ。バルザック、ユーゴー、ゾラといったフランスの文豪の作品と比べると、如何にも日本的せせこましさがあるのではないか。

 といっても、漱石の教養、観察眼はすごい。文章も勿論、超一流のものだ。『文鳥』を読み返し、最近文鳥を飼いたいとおもったことがあったせいか(飼えないが)、文鳥の描写のすばらしさにやはり漱石は凄いと思った。その文鳥を死なせた挙げ句、それを家人のせいにする主人公。嫌な男だが、そんな男をぬけぬけと描写してみせる漱石は面白い男だともいえる。

 文鳥に女性の思い出を絡めるところは技巧めいているが、そのことが文鳥の美と生命を夢のような結晶の域にまで高める働きをしている。漱石のことだから、それも計算のうちだろう。小道具としての鈴木三重吉も利いている。そうした物書きとしての計算高さを感じさせるところに、物書きとしてはむしろ信頼感を覚えてしまう。

『夢十夜』その他の作品もいいが、感想文にしやすいのは『文鳥』ではないだろうか。前掲の2011年の記事「「1日あれば大丈夫」でもわたしは漱石の『琴のそら音』(百年文庫31 灯)を2番目に選んでいる。漱石の作品には(個人的な好き嫌いは別にして)、安心感があるのだ。作品としての安定感があり、品位を感じさせる。

『狭き門』について、わたしは年をとるごとに作者や宗教思想に関する知識が増し、いろいろと考えることも出てきたが、この作品のみずみずしい印象は色褪せない。ページ数からすれば、中編に入るのかもしれないが、決して長い作品とは思わせない力がある作品なので、ぜひ、若い頃に読んでほしいと思う。

 恋が叶わないからといって、ストーカーになり、挙げ句に殺したりといった、即物的な行動が増えてきたのは、このような青春文学を学校で積極的に読ませなくなったからだと思う。『海辺のカフカ』が青春文学だなんて、馬鹿なことをいってはいけない。18禁に指定すべき作品ではないか。読書慣れしていない脳にどんな影響を及ぼす可能性があるか、教師はよく考えてほしい。

 読書が人生を変えてしまうことはよくある話だ。

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