芥川賞受賞作品「爪と目」立ち読み雑感
芥川賞 直木賞の受賞作決まる
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20130717/t10013105751000.html
……NKKオンラインより、引用ここから……
第149回の芥川賞と直木賞の選考会が17日夜、東京で開かれ、芥川賞に藤野可織さんの「爪と目」が、直木賞に桜木紫乃さんの連作短編集「ホテルローヤル」がそれぞれ選ばれました。芥川賞に藤野可織さん
このうち、芥川賞の受賞が決まった藤野可織さんは京都市出身の33歳。
同志社大学の大学院を修了後、平成18年に「いやしい鳥」で文芸雑誌の新人賞を受賞してデビューしました。
今回、芥川賞は2度目の候補で受賞となりました。
受賞作の「爪と目」は、不倫の末に、男性の連れ子の娘と一緒に3人で暮らすことなった若い女性について描いた作品です。
女性と連れ子の複雑でいびつな関係が、連れ子の視点から繊細に描かれています。
藤野さんは記者会見で、「大変うれしく思っています。こんな夢のような、いいことがあるんやな」と京都市出身の藤野さんらしい表現で喜びを語りました。
そのうえで、「これからは毎回一作一作、できるだけ前作とは違ういろんな小説を書いていきたい」と抱負を述べました。選考委員・島田さん「極めて精巧」
芥川賞の受賞が決まった藤野さんの作品の受賞理由について、選考委員の島田雅彦さんは、「作品は『あなたへ』で始まる2人称小説だ。2人称小説の形式は過去に例がないわけではないが、成功例が少ないなかでこの作品は非常に2人称が功を奏していた。連れ子の3歳児のまなざしで父の愛人である『あなた』のことを描きながらも、その『あなた』に自画像を重ね合わせるという強烈な自己批評が含まれている。細部があいまいにされており、謎が多い小説ではあるが、じっくり読むと極めて精巧にできており、藤野さんのこれまでの作品で最もよかった」と話していました。
……引用ここまで(以下略)……
新潮社ホームページの以下のページで立ち読みができます。
以下は、立ち読みをしたわたしの雑感。
「点滴の針がささった腕は、ぱんぱんに腫れ上がっていた」
看護師さんにいって点滴の針をきちんと差し直してもらえば、流産予防で入院中の友人の問題の一つは簡単に解決することです。
「ピンク色のひくひくと動く後ろ脚」
このハムスターは痙攣でも起こしているのでしょうか?
これが三歳児の視点というのが如何にも不自然で(三歳児というものがどんな視点を持っているのかは想像がつくことなので)、むしろ人間には想像がつきにくい、動物とか植物となどの視点のほうが話を作る上では自由度が高く、面白いものになるのではないでしょうか。
この三歳児の視点と「あなた」の視点とは区別がつきにくいので、「あなた」すなわち三歳児に描写されている女性を語り手に設定したほうが自然に読めそうです。三歳児にしたほうがよいメリットというものが、この段階では全く感じられません。
三歳児ではなく、思春期の少女というのであれば、また違うでしょう――別のお話になるでしょう――が。内容がありきたりだから、形式にこだわりたいということでしょうか。ならば、安易な話です。
「勤めに出ないという選択肢が現実的でないので続けているだけだが、苦痛ではなかった。あるいは、苦痛であっても、慣れなければならない苦痛だった。眼球の上で少しの乾きと痛みを与え続けるハードコンタクトレンズのように」
「紅茶のカップはほとんど空なのに突然重くなって、受け皿に戻す際にがちりと鋭い音が立った」
こういうところに感覚の冴えを見せているつもりなのかもしれませんが、わたしには上はありきたり、下は不自然な描写としか感じられず、三歳児の描写する女性が紅茶のカップのように無機的で、何の魅力も感じられないため、この先を読みたいという意欲が湧きませんでした。
もしかしたら、あまりにも不自然なこの三歳児は何かデモーニッシュな存在として設定され、小説はホラー的な結末を迎えることになるのでしょうか? でも、もうわたしにはどうでもいいことに思えます。
記者会見で、「出だしを印象的なものであればいいと思うけど、なるべくさりげなく始めたいといつも思っていて、ちょっと特殊な文法使って最初からその文法で何の説明も注釈もなしに始めたので、印象的と言っていただけるようなものになったのではないか」という作者の言葉がありましたが、どこに特殊な文法とやらがあるのか、さっぱりわかりませんでした。
大学生の試作品かと思いきや、33歳とあり……(絶句)。カテゴリー「芥川賞」を作ったものの、早くもダレてきました。
そういえば、この暑さですが、京都にお住まいの寂聴先生はお元気でしょうか?
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