村上春樹現象の深層 ②村上春樹の浮遊する夢とポルターガイスト体験
村上春樹現象の深層
①大学教師に熱愛される村上春樹
②村上春樹の浮遊する夢とポルターガイスト体験
③マスメディアが媚態を尽くす村上春樹
④眠剤を飲むくらいなら純文学小説を読みましょう
⑤言論統制が行われている中国・韓国で、村上春樹がヒットを続ける理由
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『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』(新潮文庫、平成11年)を読んでいた。
村上春樹の新作が出る少し前くらいから、当ブログのアクセス数が増えた。それでも、12日のユニーク訪問者数500弱をピークとしていたから、数千単位だった頃に比べると、さしものハルキ人気にも翳りが見え始めたといったところだろうか。
それでも日本文化に与えた村上春樹の影響力には無視できないものがあり、それは今後も当分は続くことだろうと思う。
そう考えながら昨日、病院の帰りに書店に寄ったら、前掲の本が目にとまり、久しぶりに本の購入をした。もし買うのであれば、本当はリンドグレーンの岩波少年文庫版のエーミル・シリーズのうち持っていないものがあるから、それを買いたかったのだが、研究のためには入手する必要があると思い、購入した。
図書館の本には書き込めないので、安い本であれば、研究に使う本はなるべく入手したいと思っている。490円だった。わたしのKindle本『村上春樹と近年のノーベル文学賞作家たち』より高い。
当分先になると思うが、現代日本文学にまで及んだ河合隼雄の影響について、『村上春樹と近年のノーベル文学賞作家たち』の続編という形で評論を書きたいと考えている。
そのささやかな準備として購入した次第。
河合隼雄とのこの対談のあとで村上春樹が何作、作品を発表したのかはまだ調べていないが、春樹の的を射た真摯な質問を河合隼雄はいい加減に交わしているというか、台無しにしているというべきか、うまく対応できていない箇所があちこちに見つかる。
それに対して、春樹は突っ込んだ質問をしたり、討論を尽くしたりはしていない。優れた先達の意見を謹聴しているという態度に終始している。こんな形で、春樹は河合の影響を受けたとも考えられる。
その箇所に、わたしの本では沢山線や書き込みがあるのだが、これに関しては、評論を書くときにきちんと示したい。
書店では、『夢を見るために毎朝僕は目覚めるのです』というインタビュー集を立ち読みした。これは図書館から借りる予定だが、その本と『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』からわたしが春樹に関して初めて知ったことの一つは、春樹がほとんど夢を見ないということだった。
ただ一つだけ見る夢があって、それは空中浮遊の夢だという。わたしの児童文学関係の知り合いにやはり夢を見ないという人があって(その人は一度も夢を見たことがないと言い張った)、一晩に最低でも4つか5つは夢を見る(記憶している)わたしには想像もつかないことで、こんな話を聴くと、何だか怖くなってくる。
最近は面倒であまり夢日記をつけなくなったが、大学時代から長年夢日記をつけていると、夢というものが自分を包み込む、自分にも自覚できないもっと大きな自分(高位の自分といってよいかもしれない)によって設計され装置化された優れた役目を持つものであることが何となくわかってくる。
同じ舞台が何度も使われることがある。ほとんどの夢で、わたしは未来に起こる出来事をあらかじめ体験させられる。それは何ともユニークにデフォルメして表現されることが多い。
夫が見た最近の夢をお話ししたい。みっともない私事であるが、わたしたち夫婦が夫を狙ったストーカーにつき纏われていることを当ブログに以前からお見えになっているかたはご存知だと思う。
ストーカー本人によると思われる無言電話が11日に、協力者によるセールスを装ったと思われる電話が13日にあった。夫は、その数日前に、以下のような夢を見たとわたしに話した。
夫はまだ独身で、古い借家に母親と住んでいるという設定。そこへ二人の女性が訪ねて来た。二人の女性への対応を母親に任せたまま、夫はトイレへ行く。便器は汲み取り式で、汚物があからさまに見える。夫は便器の傍に立っているのだが、突然自分の髪の毛がどんどん伸び、背丈以上の長さに達し、その先端が汚物に触れてしまった。
夫はパニックに駆られ、母親に「鋏を持ってきて!」と叫んでいたという。
この夫の夢に出てくる二人の女性というのが、2本の電話を警告していたのかどうかはわからないが、示談の時に明確に示したはずの自分の意思を簡単に無視された夫。そして、執念深く自分をつけ狙ってくるストーカーたちに怯える夫。
そんな夫の心理状態をデフォルメした夢ではないかとわたしは解釈した。もし、そんな夢だったとしたら、いうまでもなく母親とはわたしのことだろう。
実際に、わたしは結婚以来、妻としてより母親としての役割を担わされてきたと感じている。再びストーカー行為に見舞われれば、警察に通報するまでではないかとわたしは夫にいった。
話が逸れてしまったが、夢について長年考察していると、人間の重層構造という考えに行き着かざるをえなくなる。
肉体の次元では夢は脳と電気的な刺激の問題かもしれないが、ブラヴァツキーが「肉体の影響を受けない、死すべき人間の中に潜む不死の自我の存在を認めなければ、本当の夢の性質と機能を理解することはできません」(『実践的オカルティズム』田中恵美子&ジェフ・クラーク訳、竜王文庫、平成7年)というような、もっと優れた機能が夢には潜んでいると想像せざるをえなくなるのだ。
夢を見ない人の空想には、遊びを知らないまま大人になった人と同じような極端さ、危うさがあり、それがわたしに村上春樹の作品に警戒心を起こさせる原因の一つとなっているのかもしれない。
『村上春樹、河合隼雄に会いに行く』の中の以下のような部分もひっかかる。
“ぼくは、小説ではよく超常現象とか超現実的なことを書くのですが、現実生活ではそういうものを基本的に信じていないのです。”
信じる信じないは信仰の問題であって、科学的に説明できない現象を信仰の問題で片付けることはできないのではないだろうか。春樹にはこのような思考法の甘さがある。
ただこれにも例外があるそうで、ノモンハンの戦場跡を取材した夜中、ホテルでいわゆるポルターガイストと呼ばれるような現象を体験したらしい。
夢にしても、超常現象にしても、こんな貧弱な体験しかない人間に限って、白昼夢的、超常現象まがいの空想を垂れ流し、それをそのまま本にしたりして、本物の夢や超常現象の持つ厚みや複雑さを殺してしまうのである。
暴力について話が交わされ、「暴力性と表現」「日本社会の中の暴力」とページが割かれているのはいいが、暴力を怪獣か何かのように、単純な捉えかたで済ませるのはどうかと思う。
春樹と河合は、症状と病名をごっちゃにしてしまうのと似た論の進めかたをして平気だ。暴力とは病気でいえば、症状であって、病名ではない。歴史認識の貧弱さ、いい加減さが、このような単純な解釈を呼ぶのではないかと思う。(2013年4月16日)
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