8年間の眠りから覚めて
この市に引っ越してきてからの8年間、わたしたちはずっと本来のペースを崩されてきたと思う。
考えてみれば、夫とわたしは何やかやいっても似たもの夫婦というところがあって、互いに同性の友人も異性の友人もいて、趣味関係の交際を楽しんでいた。それは軽い、楽しいおつきあいなのだった。
昨日ふいにそのことを思い出し、「どう考えても、タイプじゃない人に捕まってしまったわね。わたしもOさんとのことでは危なかった。あなたの場合はわたしより、深刻で難しい状況に違いなかったんだと改めてわかったのよ。昨夜の無言電話で。何しろ、仕事を人質にとられていたようなものだったものね」と夫にいうと、夫は背中を丸めたまま「うん」といった。
その姿が可愛らしくて、思わず、背中から抱きしめてしまった。
夫にとっては、昔も今も仕事が一番大事なもので、神聖なものとすらいってよい。最大の苦痛も悦びも、そこから来る。やはり団塊の世代(広義な分類で)に属する人間なのだ。わたしはそれにとって替われるとは思っていない。
示談後まで、他人の夫を私物化しようとする意識からぬけられない女性が、昨夜も無言電話をかけてきた。いや、それはわたしの被害妄想で、単なる悪戯電話だったのかもしれないけれど。
ただ、ストーカーに自力で立ち向かうのは難しいということをわたしたちは学んだので、何かあれば、また警察に相談するしかないと思っている。
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