赤羽建美『本を殺したのは、無能編集者である(Kindle版)』(アカシック ライブラリー、2013)
神秘主義はときに唯物主義との非難を浴びることがある。それは、霊は物質である、という考えかたをするためなのだが、神秘主義の場合、霊と物質は一体と考えるためで、物質は霊である、ともいう。
神秘主義者は、日々の暮らしの中で、今住んでいる世界にはもっと精妙な世界が重なって存在していること、また自分の中で、その精妙な世界に呼応する性質のものが働いていることを感じとっているため、上記定義は、自明の理と感じられるのだ。
赤羽建美『本を殺したのは、無能編集者である(Kindle版)』(アカシック ライブラリー、2013)
著者名が、本では赤羽建美になっている。案内では、赤羽達美。本にしるされているほうが正しいのだろう。
著者は、本は物である、という。著者のいう「物」とは、例えば消耗品といった物の一面を意味する言葉ではない。生命を秘めた、一個の「物」なのだ。前掲の神秘主義的定義を連想してしまうほど、著者の「物」は奥行きのある言葉であり、読み進むにつれ、「物」が生命と尊厳を宿したものであるように感じられてくる。
「雑誌というものは生き物である。生まれた人間が死ぬように雑誌もいつか死ぬ。そして、幸いにも恵まれた人生を送る人とそうでない人がいるように、雑誌にも多くの人たちから愛されて幸福な時間を経験できる物とそうでない物がある」と著者は書く。「物霊」という小見出しまで飛び出す。
この著作は、本をモチーフとした文化論、愛情論といってもよい。本と読者に対する愛情が今の編集者には欠けており、その狭量で偏向的な態度が本を殺しただけでなく、物や人に対する欠陥のある態度を文化として発信するという間違いを犯している……とわたしは解釈した。
以下の著者の言葉はわたしを怯えさせる。
“本は内容であると言いながら、部数至上主義を信奉し、言い訳として「いい内容だからこの本は数多く売れた」「数多く売れる本は内容がいい」と言って来たご都合主義の人たち。彼等がデジタルの世界を跋扈するようになったら、今度は電子書籍が殺されてしまう。”
わたしは、そのような御都合主義の人々から逃れて電子書籍の森へやって来た小動物である。でも、既に、生命が脅かされる危険を感じ始めている……。
対談編における、ベストセラーについてのX氏の言葉「ベストセラーになるのは、読書好きでない人たちも買うからで、それはそれで凄いのは認めます」と同じことは、書店勤務の娘もいっていた。ベストセラーになるように掛けられ、外れることも多いらしい。
『本を殺したのは、無能編集者である』というタイトルが示しているように、この著作は出版界における――特に編集者のありかたに焦点を絞った――問題提起の書といえるが、暴露本的な低俗さのない、読書の醍醐味を味あわせてくれる好著である。
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