ミクロス・ヴェトー『シモーヌ・ヴェイユの哲学―その形而上学的転回』を読書中
読む時間を作れないまま返却していた上記本をまた図書館から借りてきた。ミクロス・ヴェトーという現在ポワチエ大学哲学科教授が1964年、オックスフォード大学哲学博士号を取得したときの対象作品という。
手にとり、パラパラと本をめくったとき、清新な雰囲気が心地よく伝わってきた。一方では、西洋において、表立って哲学的であろうとすることはどういう奇妙な現象を生きるはめになるかを印象づけられるという点で、興味を惹かれたのだった。
下記の文章には、この本の結論を不作法に引用した箇所など、ネット用語でいうネタバレを含んでいるので、これから読もうとするかたはここまでにお願いしたい。
結論として、ヴェトーはシモーヌ・ヴェイユの哲学とシモーヌ・ヴェイユという哲学者を次のように定義づけている。
“シモーヌ・ヴェイユという「現象[フエノメーヌ]」は、唯一で、模倣しえないものである。実存主義、弁証法神学、聖書学の復興の時代にあって、彼女の思弁的神秘主義は、キリスト教的プラトニズムの偉大さと、それが現代において欠如していることを、ただ一人孤高に証言しているのである。”
表立ってはそうだろう。
キリスト教というブランドが絶対的な価値と殺傷力を持つ世界では、表立って証言することが許されなかったので、古代からプラトニズムを継承し、プラトニズムに徹底して生きてきた西洋の神秘主義者は、地下に潜るしかなかったのだ。
そして、表立って証言する勇気を持ち得たブラヴァツキーのような人物は、著作を読む能力すら持ち合わせない人々の不当な攻撃に晒され、辱められてきた。
シモーヌ・ヴェイユは、おそらく母親の偏愛――シモーヌ・ヴェイユが理想とする愛とはあまりにもかけ離れたものを含む現象――を感じ、その呪縛性を知りつつも、それをそっとしておき、恭順の意さえ示している。キリスト教に対する態度も同じだったように思える。
彼女はキリスト教というブランドを非難しつつも、それに屈し、媚びてさえいる。その恭順の姿勢ゆえに、シモーヌ・ヴェイユという優等生は西洋キリスト教社会では一種聖女扱いされてきたということがいえると思う。
ヴェトーは序章で書く。
“見かけ上の混沌にもかかわらず、シモーヌ・ヴェイユの思想は一貫性を持った全体であり、本書は、その有機的な諸連関を読み解くことを唯一の狙いとするものである。”
また、こうも書く。
“シモーヌ・ヴェイユが真の哲学の基準としてプラトニズムに準拠していることは、彼女の思想の中心的特徴である。理性と神秘との調和にわれわれの注意を向けさせる。この調和が、『カイエ』における叙述の展開を極めて魅力的なものにしているのである。”
そう、わたしが大学時代にキリスト教に惹かれたのは、キリスト教にプラトニズムの影響が及んでいたからだった。
キリスト教を分析するなかで、その部分をとりのぞいてみたとき、イエスの御言葉を別にすれば、骸骨(世俗権力の下で形骸化した儀式)と荒唐無稽なファンタジーだけが残った。いい換えれば、イエスの御言葉がふさわしくない場所に拘束されているような印象を持った。
そして、ヴェトーは明らかに、キリスト教ブランドの側からこれを書き、シモーヌ・ヴェイユの哲学がプラトニズムに準拠し、中心的特徴をなしていることを見抜いていながら、そのプラトニズムについてはお茶を濁している。
というのも、プラトニズムは思弁のみではその本質を知ることはできず、その思想に生きることによって初めて読み解けるような神秘主義的な性質を持った哲学なので、そこまでは付き合い兼ねるというわけだろう。
論文の中心課題が抜け落ちているという重大な欠陥のある論文であっても、キリスト教ブランド学会では、オックスフォード大学哲学博士号が取得できるというわけである。
愉快なことに、ヴェトーは謝辞で、シモーヌの母親セルマ・ヴェイユ夫人に、シモーヌと同様に恭順の意さえ示している。生まれ落ちる前から一貫して神秘主義に生きてきた東洋人のわたしには、セルマ・ヴェイユ夫人は、まるでキリスト教のシンボリックなフィギュアみたいに見える。
※この記事は書きかけです。
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