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2012年11月 7日 (水)

Notes:不思議な接着剤#86  宗教の違いなんていうけれど……マグダラのマリア伝説と萬子媛

 前の記事で、祐徳稲荷神社の創建者、萬子媛に触れたが、田中保善『鹿島市史真実の記録』(田中保善、平成2)によると、萬子媛は出家して19年、数え年80歳で余命幾ばくもないと悟られた。

 寿蔵に入って座禅をし、外から岩の蓋をかぶせて貰い、禅定に入って大往生を遂げられたと伝えられる、あっぱれな大名の奥方だった。

 念仏の声は岩の蓋の外まで、1週間以上も聴こえていたという。

 萬子媛は黄檗宗(おうばくしゅう)の信者だった。ググったところ、黄檗宗とは、中国明末清初の禅宗の僧、隠元隆琦(1592-1673)によって日本に伝えられた、念仏禅を特徴とする明朝禅だそうだ。

 わたしは若気の至りで自己流の断食を試み(とても危険なことであるから、絶対にしないほうがよい)、4日でギブアップした経験があるから、体の弱った状態で岩壁に籠もり、念仏を唱えながら死ぬまで断食を続けるという行為がどれほど壮絶なことであるのかが想像できる。

 人間の体は食物がなくてもしばらくは何とかやっていけるに違いないが、水がないとだめで、わたしは断食を始めてしばらく経った頃、水分の不足から吐き気が止まらなくなった。吐く物はもう何もなくなっていのだが、腹部が怖ろしいほどに痙攣して、とにかく吐き気が止まらない。

 このままでは死ぬと思ったので、吐き気を止めるために水を飲み、もう少し断食を続けた。

 萬子媛には、そのような生理現象は起きなかったのだろうか。岩の外にまで声が聴こえたというから、ギブアップする気になれば、直ちに蓋は除けられたに違いない。

 萬子媛がいくら筋金入りの尼さんだったとはいえ、外で成り行きを見守る人々は、どんなにハラハラしたことだろう。

 亡くなったのは宝永2年(1705年)、4月10日だったという。

 今年は2013年だから、萬子媛の大往生時から308年経っている。あの世で楽しく遊び暮らす(?)こともおできになっただろうに、創建者の努めとして、俗人の群れを300年以上も見守り続けるということをなさっているというわけだ。

 究極のボランティア、としかいいようがない。

 わたしは萬子媛があの世で具体的にどんな暮らしを送り、どのような見守りかたをなさっているのか――つまり、そのボランティア体制とか、期間の問題とかだが――神秘主義者として興味がわくところだ。

 わたしは同じようにサント=ボームの岩山の洞窟内に30年籠もって悔い改めの修行生活を送り、そこで亡くなったと伝えられるマグダラのマリアを連想せざるをえない。

 プロヴァンスに伝えられるこの話が本当だとしたら、マグダラのマリアもまた、そこを拠点として究極のボランティアを続けていらっしゃるのだろうか。

 いずれにせよ、この両者、どこが違うというのだろう?

 修行法、亡くなりかたはよく似ているし、その方々を慕ってご利益に与ろうとする俗人の群れ(わたしもその一人だが)にしても、たぶん性質は同じだ。

 ましてや、過去記事で書いたように、おそらくイエスの愛弟子だったに違いないマグダラのマリアは、イエスがそうであったようにエッセネ派の影響を受けたことはほぼ間違いないと思われる。

 このエッセネ派とはブラヴァツキーのリサーチによると、ピュタゴラス派で、死海の畔に居を構えていた仏教徒(プルニウス『博物誌』)の影響を受けたという。そして、その影響によって思想体系が完成されたというよりも、むしろ崩れていった。

 萬子媛は仏教徒であったが(稲荷大神を奉祀されていたのは、当時は自然なことであった神仏混淆のためである)、19世紀末にエジプトで発見されたパピルス写本『マリア福音書』など見ても仏教的ムードがあることからして、マグダラのマリアにも、エッセネ派などを通して仏教的な何らかの影響が及んでいたということも考えられる。

 仏教の本質は神秘主義で、徹底した自力本願であるが、未熟であることを自覚する人間が徳のある方々を慕い、その徳に薫染したいと願うのは自然なことだと思う。徳のある方々は、この世にばかりいらっしゃるのではなくて、むしろあの世のほうにいらっしゃることをわたしは知っている(その逆のおぞましい存在もまた……)。

 わたしは萬子媛の史跡(祐徳稲荷神社にある石壁神社)を訪ね、そこで萬子媛の高雅な存在感に触れ魅了された。マグダラのマリアの聖地も訪ねてみたいと思っているのだが、この懐の寒さでは今生では無理かもしれない。

 マグダラのマリア伝説に触発されて執筆を始めた『不思議な接着剤』はマリアの聖地やカタリ派の里を訪ねずして書くのは難しく、中断中。

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