東京 №3 海外旅行が二泊三日の東京旅行に……それで満足だったわが家的事情
夫が退職する数年前に気前よく、退職金の一部で念願の本を出したら、といってくれたので、わたしはその気になってしまい、そのつもりでいたのでしたが、物事はそううまい具合には進みませんでした。
退職金のそんな使いかたは夫の継続雇用が前提となっていて、それがふいになったからでした。夫の勤め先は流通業でしたが、まさに国取り物語、食うか食われるかで生き残り、店舗数を増やした俊敏な企業ですから、自社のメリットにならないような甘いことは決してやりません。
その頃、このまま麻生さんが再選され麻生政権が続けば、夫は間違いなく残れるはずで、娘が契約社員から正社員になれるのも間近と思われました。ところが民主党が勝利して政権交代してしまい、企業対策が放置されてしまったのです。わたしは、この間の変化をしっかりと記憶しています。
案の定、新政権の成り行きを見ていたに違いない夫の会社は、継続雇用したりしなくなったりということを始めました。それまでは定年退職後の身の振りかたをさほど考えずに済んできた事情が一変したわけです。そして、会社はついに、ほぼ継続雇用をやめてしまいました。そうなってからしばらくした頃に、夫の定年退職がやってきたのでした。
最近の法改正により、継続雇用が義務づけられることになりましたが、それは厚生年金の受給開始年齢の引き上げに伴ってのもので、高齢の失業者が巷に溢れる状況を何とか食い止めるための最低限の法改正にすぎません。これはこれで厳しいでしょう……。
食うか食われるかの企業で身を粉にして働いてきた夫でしたが、会社では上昇意欲が強く、同僚の出世が痛くて、そのたびに家庭に八つ当たりしていたところがあると本日告白しました。やっぱりそうだったのか、と長年の謎が解けた思いがしました。
わたしの困ることなら何でもしてやろう、と夫が思っているようにしか感じられないことがあまりにしばしばあったからでした。夫は大学を卒業して初入社した船会社をやめたあと、当時、経理部長をしていた父親のコネで入社したので、特別扱いされて当然という甘えがいくらかあったのかもしれません。
何にしても、夫は夫なりに頑張ってくれて、そこそこの出世もし、定年退職しましたが、定年後の就活は困難をきわめました。実は、夫は、定年前に予定していた自分のぶんの退職金を、退職前の段階でややオーバーして使ってしまっていました。
この時点で、わたしの本を出す計画はなくなりました。幸い――というべきか――、出版事情を調べてみると、素人が本など出しても無意味だということが改めてわかり、出版の計画を、それより少ない金額で済みそうな娘との海外旅行に切り替えました。
わたしには、長年温め、書き始めていた児童文学作品『不思議な接着剤』で一発当てたいという思いがあり、舞台として用いたいラングドックは無理でも作品形成に役立ちそうなヨーロッパへ取材旅行に行きたいと思いました。娘はイタリアへ行きたがっていました。
しかし、定年退職後の厳しい生活を考えると、この計画も見送らざるをえませんでした。同時に、だからこそ、わたしとしてはやはり物書きとして立ちたいという思いを捨てきれません。
夫の相当な頑張りで再就職できましたが(再就職には流通業での夫の経験が役立ちました)、先のことを考えると不安ですし、夫にばかり頼ってきた経済的な部分をわたしが担えるようになりたいという思いが日増しに強くなっていきます。それは、それだけの力量が自分にはあるという確信が、日々力強さを増してくることとの表裏一体の関係にあるのです。
で、本来はこの東京旅行も、出版社への作品の持ち込みを目的としたものだったわけですが、出版業界も厳しいようで、わたしが持ち込みたいと思ったジャンルを専門としている出版社は――持ち込みは持ち込みでも――郵送のみのところばかりとなってしまいました。
といっても1社だけ、こうなる前に、対面式持ち込みの許可を得ていたところがあったので、それがまだ有効かどうか確かめて、有効であれば持ち込むこともできたのかもしれません。とはいえ、その出版社の出版傾向を調べると、出して貰えそうには到底思えず、いっそ東京旅行を純粋に楽しむことにしたわけでした。
息子に会い、息子の勤める会社を見ることが旅行の第一の目的となりました。といっても、この旅行が今後の作品に生かすための取材を兼ねていたことは作家志望者として当然ですけれど。
海外旅行を期待していたに違いない娘には気の毒で、半分は海外旅行も考え、プランを見たりもしましたが、いずれにしても娘の夏季休暇でヨーロッパは、フリープランくらいでないと、日数的に難しいものがあり、わたしたちには海外旅行は時期尚早と判断しました。韓国になら行けたのですけれどね。娘は現在2人のイタリア人とメールのやりとりをして、イタリア語を磨いているところです。
前にも記事にしましたが、フィレンツェで書店主をしていらっしゃるミケーレさんは日本文学をイタリア語訳で読まれます。娘が源氏物語のことを話題にしたら、源氏物語も読み始められるほどの読書家です。ローマ字で日本語を、片言のような感じで書いてこられていたのが、最近はひらがなの勉強を始められたようです。
もう1人は、ローマ近郊に住む東洋学部の大学生で、日本と中国の言語・文化を学んでいらっしゃいます。日本語の単位はとれたそうですが、「中国語はまだで、もう忘れちゃった」んだそう。日本語とイタリア語の混じったメールで、なかなか日本語がお上手なようです。
長い前置きになりました。
わたしと娘はJTB「JALで行く東京ステイ」というフリープランを利用して、二泊三日の東京滞在を楽しみました。息子に会い、息子の勤める会社を見ることもできました。以下がそのプランです。これで2名合計、104,600円でした。
- 9月22日(土) 大分〔10:25〕⇒東京/羽田〔12:00〕
- 9月22日(土)~24日(月) ホテルニューオータニ
- 9月24日(月) 東京/羽田〔19:15〕⇒大分〔20:50〕
7年前、わたしたちはJTB『旅物語』でさらにお得なプランを利用しています。しかし出発は博多に限られ、曜日も決まっていました。そのときは娘の出版社チャレンジが空振りに終わった就活――講談社が途中まで――の傷心旅行だったのです。
そのときはなぜ息子の会社を見に行かなかったのかしら、と思いましたが、考えてみると、そのとき息子はまだ大学生(学部生)だったのでした。まあ息子は今も社会人ドクターとして大学に通っていますが、博士課程の卒業はどうやら来年ではなく再来年になりそうとのことです。
卒業要件はほぼ充たしたといっていましたが、「あんな論文で博士号、というのは恥ずかしいから、もう1年遅らせる」とのことのようです。
行きの飛行機はかなり古い感じで、しかも小さかったので、揺れると怖かったです。でも、上空からの景色はよく見え、太陽の光を受けてきらめく屋根々々、川、島々、海など、よく見えました。
雲のなかに入ってからがまた素晴しかったのです。上に行くと、下の眺めは、一面雲に覆われていて、よく見えないこともありますよね。でも、このときは、雲が何層かにわかれた中に飛行機が入って行き、その雲の層の間の青空を、ちぎったような雲の塊が漂っている幻想的な光景に目を奪われました。
ニューオータニへ行くために、東京メトロにのり、赤坂見附で降りました。
途中で見かけたビル。よく見てください。ビルのてっぺんにクレーン車がいます。
ニューオータニの部屋から撮った写真。前回は緑が見える側でしたが、今回はビルしか見えませんでした。禁煙の部屋を希望していました。空いていなかったところをぎりぎりの時点で空いたということで、二泊とも禁煙の部屋で過ごせてラッキーでした。
ニューオータニの客層は、7年前よりさらに庶民化が進んでいるような印象を受けました。だから、わたしたちは泊まることができたわけですが……。部屋の居心地、サービス共申しぶんなく、さすがは老舗だと思いました。
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