ノーベル文学賞は中国の莫言氏に決定
ノーベル文学賞が近づくと、今年もまた春樹コールが高まった日本だったが(下馬評1位だからといって、そんなに騒ぐのが恥ずかしい。そもそも文学の真価は世俗の価値観を超えたところにあるというのに)、中国、韓国とは政治的に極めて微妙な関係にあるときなので、春樹なんかがとって、またまた絶句させられるスピーチをやらかさないかという心配があった。
違ってホッとした。春樹の政治意識に根本的な欠陥があることは――現在、電子書籍化のため非公開にしてしまっているが――拙評論『村上春樹と近年のノーベル文学賞作家たち』で指摘した。
莫言氏の作品は未読で、88年にベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞した映画「紅いコーリャン」というタイトルを聴いた記憶があるだけだった。
ネットニュースに見る莫言氏は、文革にもめげなかった作家であるようだ。文革によって知性、品性の多いに削がれた中国であるので、莫言氏の今後の活躍を期待したいところだ。それにしてもペンネームが「言う莫(な)かれ」とは……莫言氏の執筆環境の厳しさを物語っているかのようなペンネームではないか。
ライン以下に、ネットニュースからクリップ。
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☆「雪国」など日本文学が影響 魔術的リアリズムの作家、莫言氏 中国社会の矛盾あぶり出す
MSN産経ニュース 2012.10.12 00:27
中国籍で初めてノーベル文学賞に決まった莫言氏(57)の作品は、チャン・イーモウ監督が映画化した「赤い高梁」をはじめ多くが邦訳され、日本の読者にも親しみが深い。当局の検閲をくぐり抜けるためにフォークナー(米)やガルシア・マルケス(コロンビア)らから受け継いだ魔術的リアリズムの手法を使い、社会主義下の残酷な現実に切り込む作風は内外で高く評価されてきた。中国山東省の農家に生まれ、文化大革命のあおりで小学校を中退。「作家は社会のあらゆる出来事に注目しないといけない」。苛烈な歴史の中で貧困や差別に苦しんだ原体験が、タブーを恐れない批評的な視点がはぐくまれた。人民解放軍に入隊したのは「軍に入れば毎日ギョーザを食べられる」という噂を聞いたから。少年時代から草地に寝転がり空想を巡らし、青年期からそれを文字にし始めた。たんに「革命小説」をまねをしていた莫言氏を大きく変えたのは、実は軍の芸術学院で読んだ日本の文学作品だった。川端康成の「雪国」に秋田犬が出てくる場面には、小説が本来持つ「自由」に目覚めさせられたという。
「物資がとぼしい時代に生きてきたが、喜びもたくさんあった」。そう述懐する莫言氏が、強く悔いているのが、軍在籍当時に自らの昇進のために身ごもった妻に中絶を強いたこと。その悔恨は「神の手」とあがめられた産科医の転落を重層的な構成で描いた最新作「蛙鳴」だった。
本名は管謨業。ペンネームの「莫言」は「しゃべりすぎるな」の意味。これまでは政治色を排して言葉を慎んでいるように装いつつ、中国社会の矛盾をあぶり出してきた。ノーベル文学賞受賞で体制におもねるのか、それとも高まった影響力を変革に注ぐのか。作家の真価が問われるのはこれからだ。
◇
莫言氏の受賞は、日中韓といった東アジアを中心に活動する作家では、1994(平成6)年の大江健三郎氏(77)以来となる快挙だ。文学賞の歴代受賞者は、昨年のスウェーデンをはじめ独、仏、英など欧州系が目立つ。過去30年は約7割が欧米から出ており、選考が欧米偏重との声も。これに対し、選考を担当するスウェーデン・アカデミーは「バランスを欠いた状況は解消される」として、是正の意向を示していた。
☆ノーベル文学賞の莫言氏は政治に関与せず、翻訳者が語る
ロイター 2012年 10月 12日 16:37 JST
[上海 12日 ロイター]中国国籍を持つ作家として初めてノーベル文学賞を受賞した莫言氏(57)の作品を英訳する翻訳者ハワード・ゴールドブラット氏は12日、同氏が中国における表現の自由の問題に変化をもたらす可能性はあるものの、政治には関与しないとの見方を示した。
ゴールドブラット氏はロイターの電話インタビューに応じ、莫言氏が表現の自由の改善や作家の地位向上に影響を与えることは可能としながらも、「正直言って、そうしないと思う。彼はそうしたことには関わりたいと思わない小説家だ」と話した。
中国の作家は皆、共産党員であると語るゴールドブラット氏は、代表作に第2次世界大戦中の中国の農村に生きる人々の窮状を描いた「赤い高梁(こうりゃん)」などがある莫言氏の世界観も共産党の影響を受けていると指摘する。
ただ、莫言氏は「物言う」作家でもある。同氏は文学的限界を打破することを恐れず、いくつかの作品は中国では発禁となっている。12年前、中国出身でフランスに亡命した作家、高行健氏がノーベル文学賞を受賞し中国政府が同氏の作品を発禁処分にした時も、莫言氏は同氏を擁護した数少ない作家の1人だったという。
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