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2012年7月20日 (金)

Notes:不思議な接着剤 #83 『フラウィウス・ヨセフス伝』(ヨセフス1) ①ヨセフスの履歴

 ロドルフ・カッセル他編著『原典 ユダの福音書』(日経ナショナル ジオグラフィック社)の読書に挫折してから、このノートが止ってしまっていた。その間に、『不思議な接着剤』で活躍する子供たちの一人、少女の瞳が綴った日記――という設定の児童文学作品――をパブーで電子出版した。
児童文学:作品集 - 1 すみれ色の帽子

 購入者は現在ゼロだが、そのうち奇特な人があらわれるかもしれない。

『原典 ユダの福音書』をなぜわたしは読めなかったのか? 夢幻的なムードがあり、そのムードをどうしても受けいれることができなかったのだった。同じようなことが時々起きる。ギリシア悲劇作家エウリピデスの著作、なかでも『バッコスの信女たち』はわたしにはどうしてもだめである。どのみち、『原典 ユダの福音書』は図書館に返してしまったので、当分は棚上げとしよう。

 ミレーユ・アダス=ルベル著『フラウィウス・ヨセフス伝』(東丸恭子訳,白水社,1993)も5日後に返却が迫っている。今回で読破するのは無理だが、次に借りるときのためにも、ノートをとっておくことにした。

 ユダヤが独立して存在していた時代について知りたいと思い、またキリスト教成立の背景を探ろうとするとき、貴重な歴史家として立ち現れて来るのがヨセフスである。伝記の本文に入る前に、ヨセフスの履歴が示されている(11頁)。それを以下にノートしておきたい。


名前……ヨセフス(Josephus)
父の名……マティアス(Mathias)
族……レヴィ族(祭司階級)
市民権……ローマ人
三つの名(Tria Nomina)……ティトゥス・フラウィウス・ヨセフス(Titus Fravius Josephus)
生誕地……エルサレム、誕生の日時……カリグラ帝の治世の一年目(後三七年頃)
職歴……ガリラヤの総指揮官、通訳、歴史家(皇帝の年金受給者)
家庭……結婚歴四回、子供三人(ヒュルカヌス、ユストゥス、シモニデス・アグリリッパ)
学歴……ユダヤ学(五一〜五三年……サドカイ派、パリサイ派、エッセネ派のサークル)
                  (五三〜五六年……隠者バンヌスに指示)
             ギリシア語の勉学……文法、文学
言語……ヘブライ語、アラム語、ギリシア語、ラテン語
軍歴……ネロの治世の一二年から一三年(六六〜六七年)までユダヤ軍のガリラヤ指揮官
居住地……ローマのウェスパシアヌスの宮廷
著書……『ユダヤ戦記』『ユダヤ古代誌』『アピオーンへの反論』『自伝』

 ヨセフスはエルサレムの名家に生まれた神童で、大祭司たちや町の指導者たちが律法の知識を得るために彼の家にやってきたという。

大祭司あるいはコハニーム(訳注=コーヘンの複数形)はレビ族に属していた。「神との契約を守る」高次の使命を帯びていたため、旧約の時代には土地を受けることがなかった。このレビ族からアラムの息子たち、アロンとモーセが出、唯一アロンの子孫、長兄のみが「主に祝福される人びと」たる大祭司となりうるとされコーヘンの肩書をもつことを許された。
 祭司階級は代々厳しい世襲制を敷いていた。「歴代史」(前四世紀以降の作と推定される)によればダビデ王は年老いてからレビ族を調査し、それをいくつかの組に分けたとされる。こうして、レビ族内部でアロンの子孫たちは籤により二四の祭司組に分けられ、その筆頭にイェホヤリブの組が置かれた。ヨセフスの時代、この区別はまだ存続しており、彼は第一の組でも著名な家系に属していることを誇りにしていた。(…)
 ダビデの王国消滅後も本質的に祭司的性格を有していたユダヤの貴族階級は、真の貴族として独自の婚姻法をもちづづけていたとヨセフスは記している。
” (13-14頁)

 乳離れした全ての子供は祭儀とさまざまな典礼に参加し、言葉がしゃべれるようになると、勉学が始まった。ユダヤの教育において、家庭、シナゴーク、学校教育に断絶はなかったとされ、父親の役割は重要だった。父親はトーラを教えなければならなかった。生活と一体化した宗教教育を通して、ヘブル語の教育がなされた。

 現代でもユダヤ人の学者は多いとされるが、それはユダヤで古代から徹底して行われてきたという教育の賜物なのだろうか。

 13歳になると、神の掟を守り、大人のサークルに受け入れられたというが、青年となったヨセフスは、当時のユダヤを三分していたパリサイ派、サドカイ派、エッセネ派のうち、どれかを選択するために、三つの宗派を体験し、さらに16歳から19歳まで荒野において隠者バンヌスの教えを受けた。

 ユダヤの宗派の風通しのよさに驚かされる。また学問では老いも若きも平等で、大祭司や町の指導者が14歳のヨセフスに律法に関する教えを受けに来たという。洗礼者ヨハネを連想させる隠者バンヌスという人物にも、興味を掻き立てられる。

 こうしてヨセフスの伝記を読んでいって初めて、わたしは新約聖書におけるイエスの生活情景を頭のなかで思い浮かべることができた。

 そして、この読書とは関係なく、唐突な疑問が浮かんだ。イエスはマタイ伝で大工の子といわれているが、大工といっても、もしヨセフが神殿の建築に従事するような石工職人だったとしたら、イメージが違ってくる。

 ユダヤで家庭教育が重要視され、父親が教師の役割を担っていたことを考えると、父親の影響力の大きさを見過ごすことはできない。

 秘教的秘密結社フリーメーソンの基礎を作ったのは石工職人だとされる。伝説的起源によれば、彼らはソロモン神殿の建築家だったという。 

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