フジコ・ヘミング, ソロピアノリサイタル.
昨日、フジコ・ヘミングのソロピアノリサイタルに出かけました。
最近フジコが体調を崩した(急性腸炎だったよう)との情報を得ていたので(よくお邪魔する静岡のかたのブログで)、何よりフジコのコンディションが気がかりでした。
昨晩は、アンコールに入る前に「暑い」とのフジコの言葉はありましたが、演奏はわたしがこれまで聴いた4回のうちの最高の出来映えに思えました。ミスもむらも、ド素人の耳にはほとんどわかりませんでした。
音色のゆたかさ、美しさ。たったひとりでオーケストラを構成しているかのような曲想の理解力、多彩な演奏技術。
フジコを知る以前は、ソロピアノリサイタルというと、退屈という印象しかなかったのですが(いや、いまでもフジコ以外のソロピアノリサイタルに行くと退屈。中村紘子なんて、その最たるものだった……アルゲリッチは生で聴きたいのですが、まだです)、フジコのソロピアノリサイタルに限ってはそれを心配することなくチケットを購入できるありがたさがあります。個人的な満足感を得られない音楽会に行けるほど、余裕のある暮らしではないので。
ただ、不安定なコンディションから発生することのあるむらが少々心配でした。
昨晩のフジコの出来映えについては娘も同意見で、「精進が感じられるねー!」といっていました。
ただ――わたしが寝ぼけていたのでなければ――1部に演奏された曲目がプログラム通りではありませんでした。受付で渡されたプログラムの1部にバッハのカンタータから『主よ、人の望みの喜びよ』があるのを見、胸をときめかせていました。
ですが、それはありませんでした。バッハはショパンの付け足しといった感じの構成に変わっていました。フジコが『主よ、……』をどう弾くか聴いてみたかったので、残念でしたが、バッハはフジコには合わない気もしました。
バッハの曲は、1音1音を厳密に自律させて弾くものだというわたしの思い込みがあるせいか、単に好みの問題なのか、フジコのバッハはなめらかすぎる印象を受けるのです。麺でいえば、こしがないという感じかしら。解釈の違いでしょうが(もしかしたら、わたし寝ぼけていて全部ショパンだったのかしらん)。何にせよ、ショパンはすばらしかった! アンコール曲もショパンの『遺作』でした。
2部はプログラム通り。ムソルグスキーのピアノ組曲『展覧会の絵』は圧巻でした。特にわたしの印象に残ったのは、『9.バーバ・ヤガーの小屋』でした。
そのあと、リスト『ため息』、バガニーニ『ラ・カンパネラ』でした。
聴衆の頭の中で情景が見えてくるまでに、しっかりと構築されている演奏。時に瞑想に入り込ませてくれる奥深い演奏は、フジコならではのものだと改めて感じた昨晩のリサイタルでした。
『展覧会の絵』の感想など、もう少し詳しい記事にしたいのですが、昨日リサイタルに行く前に慌ただしく書いたメアリー・スチュアートの記事をちょこちょこと手直ししたり、外出疲れの残るなか、這うように家事をしたりで、落ち着いて書けません。気が向けば、また書きます。
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