瀕死の児童文学界 ②消え失せた純文系
児童文学の賞に応募しても意味がないと思う理由は、過去の受賞作品にわたしの書いていきたいような純文系の作品が全く見当たらないということもあるが(以前から不思議な現象だと思っていた……)、落選がわかる頃に舞い込む講座案内を見ると、一目瞭然なのだ。
日本の児童文学の世界には二つの権威ある協会があり、志高く設立されたのだろうと思われるが、現状としてはどうなのだろう?
外部の人間にはよくわからないとはいえ、賞の応募者の目で見ると、異様な圧迫感がある。というのも、協会主催の賞に応募した場合ならまだしも、そうでなくて、後援している場合ですら、落選がわかる頃に講座案内が舞い込むのだ。主催者からは何の通知もなかったというのに。
前のときは、講座案内と雑誌まで送られてきて、未熟な作家の卵のことを考えた親切な団体だと思い込もうとしたが、今回はぞっとした。
児童文学の賞をよく見ると、大抵協会のどちらかが後援している。今回落選した賞は、恐ろしいことに、そのどちらも後援していた。しかし、講座案内は一方から届いた。前に届いたのもそこからだった。
通信講座でコースは短編、長編があり、「公募のコンクールなどへの応募をめざす方のために」と書かれている。他に詩・童謡のコースもあった。1年間で、コースにより30,000円から60,000円。
講師は第3希望まで書ける。28名の中から、おそらく受講者は修業とコネをつくるために、どの講師かを希望するのだろう。
しかし、わたしには、希望できる講師が見当たらない。何しろ総勢28名だから、全員をリサーチし終えてはいないが、リサーチしたぶんではエンター系の作風の講師しか見つかっていない。別の講座案内も入っていて、それは50,000円の合評形式。
この協会の雑誌は既読済みなので、もう一方の協会の雑誌を講読しようとして購読案内を見ると、以前の号にコンクール必勝法という特集が組まれているのを見て、戦慄を覚えた。確かに作家の卵の多くは賞狙いをする。
デビューの手段として、それ以外に思いつけないからだ。持ち込める児童文学関係の出版社は少なく、持ち込めたとしても、読んで貰えるとかましてや本になるという甘い期待などは持つだけ無駄だとコネもない持ち込み経験者であれば知っている。
講座案内も特集も、優れた作家を育てるというより、その弱みを握るあくどい商法にしかわたしには思えない。
尤も、講師陣に優れた人材がないといっているわけではない。優れた作家の方々が講座にいらっしゃろうが、いらしゃるまいが、わたしにとっては、ジャンル違いの講師しか見当たらない問題点を指摘したいのだ。声楽を習いたいのに、歌謡教室の案内を受けるようなちぐはぐさがあるといっているのだ。どうして児童文学の世界はエンター系で染まってしまったのだろう? その異常さをわたしはいっている。講座案内を送って来た協会の会長がエンター系でヒットした人物であることが原因なのか結果なのか、わたしは知らない。
いずれにしても、そのエンター系に極端に軸が傾いた日本の児童文学界は、翻訳文学の出版がなければ、エンター系一色となってしまうだろう。心底恐ろしい。純文系の書き手は、恐らく何年にもわたって潰されてきたのだ。そうでなければ、こんな現象の起きるはずがない。
落選した作品をダメモトで持ち込んでみたいと思い、某出版社に電話をした。心痛のあまりの無作法ぶりの嘆き節のようなわたしの愚痴を聴いてくださろうとは思わなかった。それだけでもありがたかった。エンター系でしか出られないのか、エンター系の作品を書くしかないのかと問いかけるわたしに、「いろいろあったほうがいいと思いますよ」という編集者の言葉が嬉しくも、もの哀しく響いた。
わたしは、純文系ならではの描写力、歴史認識力を駆使して、魔女の起源であるカタリ派をモデルにした時空を超えた壮大な冒険児童物『不思議な接着剤』を完成させる自信がある〔その創作メモはこちら〕。出版社と一緒に一儲けできる自信がある。
占い師というよりも筋金入りの神秘主義者であるアレクサンドリア木星王さんは、わたしの初めての本は、最初は目立たないが、少しずつ評判を呼び、大ブレイクする可能性もあると手紙に綴ってくださった。その作品が、まだこれから完成させなければならない前掲の作品なのか、落選した作品なのか、まだ何の形にもなっていない未来の別の作品なのかはわからない。
だから、落選した作品をわたしは死体とは思わないようにしたい。今はわたしの元に戻ってきたことを祝おう。
ところで、上の著書の中の「Ⅲ――座談会『イバラの宝冠を追って』」で、興味深い箇所があるので、引用させていただきたい。
[引用ここから]……
中野 昔、本は願いを伝える、メッセージを伝える器だったでしょう。でも現代はおもちゃの一種のようですよね。使い捨てにされれば、発信者である作者も身を削るなんてことはない、粗製乱造でいいと思ってしまいますよね。それが一つです。それにこうなると人はどう生きたら幸せなんだろう、そんなことを考えるのはおっくうだ、ということになるわけです。杉本 日本の児童文学をみると、問題はたくさんありますね。
秋田 最近の大人の文学も含めて、技法や手法というか、表面的なところだけに終始しているところってありませんか。本来大切なテーマとかメッセージじゃなくって。
吉井 日本の場合、児童文学をやるということは、やはり一段低いものと見做されているから、作家が育たないんじゃないでしょうか。
〔略〕
水井 社会が変わると人々が受け入れる作品も変わります。だから作品も時代によって全く異なるように思うのですけれど、読んでいきますと、どうも人の心を打つものは、その作品にあらわれている作家の、人となりのように思われます。作家自身の人柄・考え方が、時代を超えて、読む人を引きつける面が強くあります。そして、人間として抱えている問題の本質は、現代も、昔と同じではないでしょうか。
……[引用ここまで]
本が上梓されてから、16年が経っている。
わたしは作家の卵にすぎないから、内部事情というものは全くわからないのだが、一読者として傍観した限りにおいては、日本の児童文学界の問題はとてつもない大きさになってしまったように感じられる。
だが、座談会でいわれているように、社会は変わるものだから、一般の人々が娯楽以上のもの、本当の意味で魂にまで響く作品を求め出すのも時間の問題だとわたしは考えている。わたし個人は、それまで生き延びられるかどうかはわからないにしても。
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