河津武俊著「耳納(みのう)連山」(鳥影社、2010年) ①過去記事でも紹介した『雲の影』『耳納連山』
河津さんから、すばらしい小包が届いた。過去記事でも紹介した『雲の影』『耳納連山』を収録した単行本が2010年に出ていたようだ。もう一作『野の花』も収録されている。本のタイトルは「耳納(みのう)連山」(鳥影社、2010年)。『耳納連山』に対する河津さんの思いが察せられる。
「日田文学」が平成21年5月15日付で発行された57号を最後に休刊になってから、3年が経過した。「耳納(みのう)連山」が上梓されたことを知っていたら、買ったはずなのに。小包の中には、別の一冊「秋の川」もあった。
「手段を尽くして世に出てください」などと、年賀状で檄を飛ばしたことを受けて送ってくださったのだろう。お返事に「あなたはまだ若いですから、これからです」とあった。わたしは河津さんがおいくつになられるのか、正確には知らなかった。
本の奥付に著者紹介があり、生年が記されていた。1939年のお生まれだ。今年で73歳。河津さんだって若いじゃないの。わたしと19歳しか違わない(まあ20代の方々にはついていけない話かもしれないが)。若々しいので、団塊の世代かと思っていたほど。
年賀状では近況を知るにも限界があった。医者の仕事は、まだおそらく続けていらっしゃるのだろう。荒地を購入して公園化……とあると、何だか領主様みたいだわと思った。教育関係の仕事を頼まれ……とあれば、まあ日田のチェーホフ!と思ってしまうが(作風はシュティフター)、文学のほうは?
マグダラのマリアを、わたしは思想的に東西をつなぐミッシング・リンクだと考えているのだが、河津さんは戦後世代とはいえ日本文学の伝統を受け継いだ貴重な作家の一人で、世に出ていて当然の人だと考えている。河津さんのような作家を文学界が世に出していたら、文学界はここまで荒れず、文学界が日本社会に及ぼす影響もはるかに良質のものであったろうと思う。
わたしは『耳納連山』の掲載された「日田文学」を、もうお亡くなりになったが、フランス文学者の田辺保先生にお送りしていた。そのときの返信で、田辺先生は河津さんの『耳納連山』を絶賛していらっしゃった。
河津さんの諸作品に関する100枚程度の評論を書こうと思ったのはまだ同人雑誌が出ていた頃だから、わたしは亀だ。しかし、夫の定年後の就活が難航中で、この先も書き続けられるかどうかさえ、見通しが立たない。
書き続けられたら、半年くらいかける予定で、いずれ仕上げたいのだが、いつスタートさせるかなど、この時点では具体的なプランの作成とまではいかない。わたしは「日田文学」の後期に加わらせていただいたので、河津さんの未読作品を読む作業から始めなくてはならない。それから、河津さんの評論にあった――河津さんご自身が影響を受けたという――作家たちについても調べなくてはならない。
まずは、送っていただいた本の紹介だけでもしたいのだが、萬子媛のエッセーをブログにアップし、そのあと童話を仕上げなければならないので、簡単な本の紹介すら来月にならないと書けない。ホントに亀だ(実はリクガメは足が速い。わたしもリクガメくらいに速く書けるときもある)。
『雲の影』は、老齢となった恩師との交わりを丁寧に描いた作品で、美しいとしかいいようのない作品……。
恩師は、《私》が医学生だったときの外科学の先生で、その関係の域を出なかったが、《私》は先生を憧憬し、敬慕していた。
まるでそのときの思いが叶うかのように、恩師の退官後十年を経て、親しく交わる機会が訪れる。先生の人柄や趣味、家庭的な事情なども知るようになる。恩師との交際におけるエピソードが、次々と空を流れる雲のような筆致で書き連ねられていく。師弟を包む情景のため息の出るような美しさ。
『耳納連山』では、山の美しさに人間の心の機微が織り込まれて、リリカルな描かれかたをしている。何て陰影深い、ゆたかな筆遣いなのだろう……! 何枚もの山の絵画を観るようだ。まさに山に捧げる讃歌であり、山にこの作品を書かせて貰った作者は幸せであり、作者にこの作品を書いて貰った山は幸せだと思った。
※当ブログにおける関連記事
- 『雲の影』⇒https://elder.tea-nifty.com/blog/2009/05/post-ec42.html
- 『耳納連山』⇒https://elder.tea-nifty.com/blog/2006/07/post_bce2.html
※追記
2013年10月5日、河津さんの新しい本『森厳』が上梓されました。以下はそれに関する拙記事です。
- 2013年10月 5日 (土)
男のロマンゆえに形式を踏み外した(?)2編――河津武俊 (著) 『森厳』、谷山稜『最後の夏山』
https://elder.tea-nifty.com/blog/2013/10/2-77d2.html
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