賞狙いと書きたいものをリンクさせることの難しさ
賞狙いに適したタイプの人がいる。そういうタイプの人の中では文学観は形成されていず、自分の書いたものが世の中にどんな影響を与えるかなどといったことは考えもしないし、賞の傾向と対策をしっかりしてブツをゲットすることだけに執心できる。
そんな化け物みたいな人を実際にわたしは何人も知っている。
そうした人々を見分けるコツがあって、彼らはほとんど文学書を読まないのである。
素材を集めてレゴを組み立てるような楽しさがあるのか、一種のゲーム感覚なのかと想像するけれど、わたしにはよくわからない人々である。
商業主義のせいで純文学の質が低下すると、普通っぽい作家が増え、彼らが食べていくための文学スクールや文章教室が乱立して(勿論独自の文学観を打ち出した筋金入りのスクールや教室だってないわけではないが、少ない)、そうした文学産業と持ちつ持たれつの賞が増え(ムラ興しの賞もある)、前掲のタイプの怪物――いや、見方を変えれば、文学に携わるには普通すぎる人々――が大勢参入するようになった。
選者にもそのタイプが増え(勿論筋金入りも残存してはいるだろうが)、マニュアルと嗜好重視で作品を選ぶ。
今時、文学観など、あっては邪魔である。芸術の薫りなど悪臭扱いされかねない。
賞を通過しなければデビューできない純文学のそんな状況下で、どう生き抜いたらいいのか、どんな作品を書いたらよいのか、さっぱりわからなくなり、賞狙いから遠ざかった年月があった。真剣に賞狙いをやったのはここに引っ越して来る前の話だから、賞レースから離れて7年。
思いがけなくも(いや、当然予想されたことではあるが)、またこの度、貧乏が原因で賞レースに老いさらばえた身で(というと過剰装飾になるか)、加わらせていただくことになった。
しかし、わたしには賞を狙った、以前のような書き方はもうできない。したくない。大手出版社の賞となると、何しろ求められるものが(評論家の求めるものが)過去記事で書いたような有り様なので、わたしには到底狙えない。
そこで、応募に慣れているローカルな賞に短編小説を応募したわけだが、その予選を通過したければ、泥臭い、大衆的な、粘液性質のモチーフか、そうでなければ性描写を効果的に挿入する必要があった。
……というとお叱りを受けそうな気もするが、わたしなりの傾向と対策ではそうであり、現にその傾向と対策を行った作品では予選を通過したのである(それら予選を通過した作品も当ブログにいずれ収録する予定だが、何しろ賞狙いの不本意な書き方をしているため、愛着が湧かなくて、収録しようという意欲に乏しい)。しかし、今回は全くそれをせず、書きたいように書いた。
だから、わたしの短編小説が予選を通過することなどありえないということくらい、火を見るより明らかなのである。
落選したら書き直して再挑戦、とは考えているが、全く希望はない。
今後の応募予定に純文学系の賞を全く入れず、児童文学系の賞に絞ったのは、上述したような理由による。
児童文学系の賞の「傾向と対策」はしていないが、前掲の怪物タイプで、あちこちの児童文学賞をゲットしている人を知っている。純文系も狙っていた。
文章力のある人で、科学的センスがあり、校正には吐き気がするまで念を入れるといっていた。
その人は、文学書を読まない(と本人がいった)。夢も見ないそうだ。覚えていないだけではないかと思うが。
その人の作品を読むと、テーマはそのときの流行りの話題から借りてきたものに思え、文学観らしいものも独自の哲学らしいものも窺えず、素材の寄せ集めを無理にテーマに当てはめただけのものにしか感じられなかった。だからわたしが読むと、どうしても途中で厭きる。率直に感想をいってしまい、当然の帰結として絶交となった。が、見習うべき点も多々あると思っている。
ざっと児童文学賞をゲットした作品を俯瞰したところでは、アイディア勝負といった感が強い。
ここからして、わたしの児童文学観とはずれがある(早くもヤッパ駄目かなと思っちゃう。でも、アレクサンドリア木星王さんが児童文学におけるわたしの将来は明るいといってくださったので、頑張ってみよう!)。商品開発のような発想より、観察と発見と方向付けが必要ではないかと思うから。
児童文学大国イギリスの一昔前の作風がピカ一だと考えている。
作品の流れには決まった型がある。子供(大人でもいいが、感情を移入しやすい子供のほうがいいだろう)が冒険ないしは試練の中で成長するという型である。
神話や民話や古典に出てくる馴染みのあるアイテムが登場する。
竜、妖精、ユニコーン、魔法使い、賢者、騎士、小人、動物、サーカス、お城、タイム・スリップ、白と黒の戦い、など。
馴染みのアイテムを使いながら、子供の成長及び周囲との調和を如何に豊かに、あざやかに、薫り高く描き得るかの勝負だとわたしは考えるので、アイディア勝負のような単純で膨らみを欠いた作風には違和感がある。
まあ、とりあえず書いてみるだけだ。持ち込みを受け付けているところも少ないながらあるようなので、自身の考える手法で思う存分に書いてみようと思っている。
ホールデンの『魔法つかいのリーキーさん』。ああ、あんなものが書けたらなあ! あれはアイディアもすばらしいが、小さな竜ポンぺーにすら命と個性と独自の人生がきちんと備わっていて、作者の優れた観察眼、深みのある哲学、社会的関心が豊かに感じられる。
あれには『アラジンと魔法のランプ』に出てくるジン(召使い)も複数出てくるが、「今は労働時間が決まっている」という設定などは、社会的関心がなければ出て来ない類の発想である。
同じ竜であっても、張りぼてのようにしか感じられなければ、完全に失敗だろう。
スウェーデンのリンドグレーン『はるかな国の兄弟』に出てくる邪悪な竜カトラの恐ろしさ。アメリカのガネット『エルマーのぼうけん』のりゅうの楽しさ。
同じ竜でも、作者独自の竜となっていて、新しい命が吹き込まれてる。児童文学では、再創造、再話の能力が求められていると思う。
わたしも自分の竜がほしかったので、執筆中の『不思議な接着剤』に出した。『不思議な接着剤』は大きな作品なので、時間をかけて仕上げたい。
今から書こうとしている120枚の作品でも、児童文学やファンタジー小説などではよく出てくる架空の動物を出す。
実は、このところペットを飼いたくてたまらなかった。それが嵩じて空想の中で飼うことにしたわけである。
子供の頃に飼っていた2匹の犬のうちの最初の犬が、子供のわたしには散歩させるにも大きくて手に負えないところがあり、あの大好きだった犬をいくらか投影してしまいそう。
空想の中で飼う動物の本当の持ち主はあの畏れ多い……この高ぶる気持ちをわかっていただくために話してしまいたいが、できない。
賞に応募する予定があるので……非商業誌掲載は可ということなので、少しくらいはとも思うけれど、やめておこう。
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