小説を書く合間に - モーリアックのダンディーな香り
今書いている神秘主義小説を久しぶりに某賞に応募しようかと考えたりもしていたけれど、審査員たちがどんな反応を見せるかが出す以前からありありとわかるので……すっかり嫌になる。
もっと先の別の賞を探す。知らない賞……聴いたこともなかった賞が見つかった。怪しい自費出版系の賞ではなさそう。今のわが家の経済状態を考えれば、ただ書くというのは贅沢すぎることなので、賞を念頭に置くことが義務と感じられる。
正直いって、定年退職後の夫が家にいると、集中しにくい。彼はじっとしているかと思うと、うろうろして、家を出入りしたりし、ちょっとしたことにも助手としてわたしを必要とする。「あちい」といったり……。
わたしの心臓の健康維持のために医師がエアコンの節電にドクターストップをかけたので、エアコンは入っているのだが、確かに暑い。マンションの最上階は照り返しのため、下の階より2度は室温が高くなるとテレビでいっていた。
しかし、会社を辞めてもあちこちから電話がかかり、彼が仕事の具体的な助言などでただ働きしているのを見ると、空疎に過ぎた自分の人生を思い、余分なわたしがここに陣とって、彼の人生を占拠しているワルのようにも感じられてくる。
小説、これはわたしにとってはもう全くの趣味だというほかはない。仕事にできる可能性のあるのは児童文学のほうだと思う(アレクサンドリア木星王さんのアドバイスでも同じだった)。評論も、そのうち仕事にできるのではないかと考えている。腕を磨くために大きい作品を書きたいが、まずは児童文学作品だと思う。
が、差し迫って仕上げたいのは、今とり組んでいる短編小説。こんなテーマに本気でとり組んだ作品は知らないから、下手でもどうでも、わたしが書いておきたいのだ。ずいぶん前から考えてきた作品だったが、見え始めたのはごく最近だった。
上澄み(?)の世界で見た全体像を何とか捉えようと書き殴ったが、それを清書する段階で異常に興奮。書き殴ったものを何とか清書して、今度は細部を思い出すようにして考え、補い――。こんな作業をしていると、気の小さなわたしが浮世の必要事、心配事に対してひどく冷淡になり、何も気にならなくなるのが不思議だ。台風の目に入ったような感じかもしれない。
小説を書くときに傍に置いているのは、いつ頃からかモーリアックの『愛の砂漠』。小説の技法の高度さ、視点の柔軟さ、内容の小市民的良識から傾斜した底知れない深み……一編の短めの小説を書きたいときには、本当に参考になる。
男女の心の機微、家族模様、背景の移り変わるさまが丹念に描かれている。幻滅も、これだけの美意識を以って克明に描かれると、幻滅そのものが神秘的なエッセンスのようにすら思えてくる。何て大人っぽい小説であることか。
男である作者になぜ女の心理が手にとるようにわかるのかと呆れさせられる。スタンダールやフローベールの描く女が、女の皮をかぶった男にしか思えないのは、むしろ男の書き手としては自然なことだろう。
しかし、このモーリアックやバルザックときたら、男でありながら完全に女でもあるという不可思議さを示す。しかも、『愛の砂漠』ときたら、内部に女を包み込ながら全体としてはこの上もなくダンディーで、上質の強い男の香りがする。この香りなしでは、小説を書く気がしない。フレグランスのような役割をさせているということだろうか。
夫が「……と、ハローワークに行ってくるね」といって出かけた。……の部分は聴き逃してしまった。2時間くらいかな。さあて、書かなくては。
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