菓子を焼くような――リルケの『薔薇』と書簡の言葉
リルケのフランス語詩篇『薔薇』を当ブログで紹介して以来、ほぼ毎日のようにアクセスがあります。
2007年5月17日 (木)
薔薇に寄せて☆リルケの詩篇『薔薇』のご紹介
https://elder.tea-nifty.com/blog/2007/05/post_2276.html
『薔薇』のすばらしさの理由を挙げれば、いろいろとあるでしょう。
この詩篇を他の訳でも読みましたが、山崎栄治訳は格別だとわたしは思います。最初から最後まで呼吸が続いていると申しましょうか、一筆で書いたような軽やかさ、気韻、勢いがあります。
リルケ自身はこの詩をどんな風に書いたのだろうか、とわたしはずっと考えていました。図書館から古い書簡集を借りたところ、『薔薇』について触れたあまりにも何気ない言葉があり、あっと驚きました。その部分を含め、『リルケ書簡集 5 ミュゾットの手紙』(高安国世・富士川英郎訳、養徳社、昭和25年)より抜き書きしておきたいと思います。1924年11月17日(晩)、クララ・リルケ宛に書かれた手紙からの抜粋です(旧字、旧仮名づかいは新字・現代仮名づかいに改めされていただきました)。
“〔略〕要するにそれは次々に不快な何週間かであった。そして私はニ度目のラーガツ滞在の計画を放棄してしまったが、それはあまりに沢山の文通がミュゾットで待ち受けていたからでもあるし、館や薔薇をすぐにまた置き去りにしていくことが躊躇されたからでもあった。そこへラーガツからは、ちょうど非常に旅客が混みあっていて、シーズンの初頭と違って、不愉快な人々がいっぱいだという報せがあったので、終にこの計画を放棄して、ひそかに十月十五日頃にはパリへ行くことになるだろうと考えながら、もっと広く歩き廻ることの出来る後の機会を待つことにした。だが、このパリ行きも結局は御覧の通り実現されなかった。私はあまりに気力が優れなかったし、それを実現するだけの力もなかったのだ。そしてミュゾットで机に向かったまま時を過ごしてしまったが、ここでは兎も角も十月に入ると、ひどかった夏の償いとして、三週間ばかりは真に輝かしい日よりが続いて、ヴァリスがまたその本来の姿にたちかえっていたのだった。仕事の方もいろいろ捗った。嬉しかったのは、この地方でのいろいろな体験を軽く歌った小冊子『ヴァレーの四行詩』というヴァリス風物詩と、それから『薔薇』と題するまったくささやかな一連の詩を、同じくフランス語で書き上げたことだった。これらの詩をつくることは言わば菓子を焼くようなものにすぎなかった。けれどもそれから――(十日間の約束で、本来は他の書きものの目的のために女秘書を雇っていた間に)――ヴァレリイのすばらしい対話『ユウパリノス』の翻訳の最初の暫定的な稿本がたちまち出来上がってしまった。いつかお前がこの翻訳を読むことが出来たら、お前に親密なものや、重大なものや、いろいろのものがそれから得られることと思う。というわけで、いろいろな不満があったにも拘らず、結局「時」はそう悪い扱いをされたわけではなかったが、しかし私はいま無性にパリに行ってみたい。〔略〕”
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