昨日買ったポプラ社「百年文庫」の中の「41 女」
昨日買ったのは「41 女」。
女、には、芝木好子『州崎パラダイス』、西條八十『黒縮緬の女』、平林たい子『行く雲』が収録されています。
平林たい子は大好きで、鯛焼きを見ると、プロレタリア作家と呼ぶにはスケールの大きすぎた、たい子を連想してしまうくらいです(たい子と親友だった円地文子も好きです)。
うちにあるのは文庫本3冊ですが、昔図書館から借りて、ピーナッツを食べ出したら止まらない勢いに似たのめり込みかたで次々と読みました。
たい子のダイナミック、ユーモアにはバルザックを想わせるところがあります。彼女を含め、同じ時期に活躍した作家たちはフランス文学の影響を強く受けているようです。尤も、ロシアなど、他の国々の作品も驚くほど広く訳されていて、影響はフランス文学に限らないようですけれど、バルザックはよく出てきます。
坂口安吾のマドンナだった、矢田津世子の全集中の書簡などにも、バルザックのことが書かれていたりします。
「16 妖」に坂口安吾『夜長姫と耳男』、矢田津世子の作品『茶粥の記』が「49 膳」に入っているのは、嬉しいことです。
津世子は繊細かつ鋭い仕事をした人で、人が世間体から隠しておきたいこと(例えば、不倫による妊娠沙汰など)に、無色透明な光を隅々まで怜悧に当て得た作家だと思います。
メロドラマ風に流れてしまっている作品もあるのですが、それらにも品性が備わっていて、「百年文庫」に採られた『茶粥の記』は萩焼を連想させるような品格のある純文学作品に仕上がっています。
昔は、津世子のような理智的な女性作家が女性の内面を丹念に調べあげ、女の生態について深く研究していたのだ、と感慨深いものがあります。
現代の女性作家が描きがちな、男性の目を意識してそれに調子を合わせたように奥行きのない、鼻持ちならない女性像、小便臭いような女性観との隔たりを思わずにはいられません。
平林たい子のおおらかさ、猛々しさは、矢田津世子とも共通する基盤から立ち上がったものです。たい子の作品を読めば、彼女の人間味が魂に刻印され、忘れがたい作家となるでしょう。
西條八十の詩には、中学から高校にかけて、北原白秋、サトウハチローといった人々の作品と一緒に読み、魅了されました。大学になってから、《ふるさと》にかんする詞が九州芸術祭のコンクールで選ばれ、曲をつけていただき、演奏会まで開かれたことがありましたが、このとき書いた詞は自分も書いてみたくなって試みたものでした。
その西條八十が小説を書いていたとは、恥ずかしながら知りませんでした。どんな小説でしょうか、楽しみです。
ところで、「41 女」の帯に書かれた文章を娘に読んで聞かせると、娘は「小説でまで読むの?」とさらりといいました。えっ?
帯には《ああ駄目な男! でも……「女ごころ」は果てしなく》とありますが……
そういえば、拙作『侵入者』の続編を書こうと思いながら書いていませんでした。面白い発見があったので、それを生かしてぜひ書いておきたいのですが。あまりわたしのような視点で書いた作品は見かけません。大抵の人は、それ以前に観察をやめてしまうのでしょうね。
昨日、「31 灯」のラフカディオ・ハーン『きみ子』を読みかけていました。豆腐のように柔らかで、優しみのある、しかし幾何学的な西欧的知性を感じさせる文体。
ハーンがギリシャ生まれだったとは。父親はアイルランド系イギリス軍医だったそう。ハーンは19歳でアメリカ、その後松江へ。そして、日本に帰化。
この深夜に読み終えてしまうのがもったいない気がします。今から読みます。
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