NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」第1回『湖国の姫』
NHK大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」のテレビガイドには、以下のように解説されている。
戦国の世の苦しみを知りぬいた江は、天下太平を願い、江戸城に大奥をつくりあげます。それは、以後二百数十年にも及ぶ、平和と繁栄の時代を築く礎となったのです…。
大奥の潔い終焉を描き「篤姫ブーム」を全国に巻き起こした田渕久美子が、丹念に歴史を取材し、大奥の始まりに至る道のりを、鮮やかに華やかにオリジナルでドラマに仕上げます。
ドラマのヒロインである江は、徳川二代将軍秀忠夫人、三代将軍家光の生母であり、大奥を創設した女性。上野樹里が演じる。
第1回「湖国の姫」では、冒頭に、饅頭を頬張り、馬と姉の口にも押し込んだりする江姫の乙女時代の一場面が出てくる。信長に憧れていたという設定のようで、馬に乗る姿は、なるほど信長風……。上野樹里の中性的な魅力全開、といった場面だった。
わたしには、『のだめカンタービレ』のイメージが強い上野だが、あのドラマで、脳天気に描かれるのだめの彼女がふいに見せた、凄みがあるまでにシリアスな、孤独に光っていた表情が忘れられない。
複雑な内面性と多彩な演技力を感じさせる女優さんだ。もっと演技を見たいと思っていたので、彼女を主演とする大河ドラマが始まって楽しみが増えた。期待した「蒼穹の昴」がすっかりお茶の間劇場と化してしまってつまらなくなっただけに、だ。
ただ、この第1回を楽しませて貰いながらも、早くも違和感が生じたことは否めない。
大奥で働いた経歴があると、その経歴はステータスをつくり、縁談が殺到したという(勿論、将軍の寵愛を受けた者は江戸城から出ることはなかった)。
礼儀作法の厳しさが嫌でも想像されるが、その大奥の創設者であるはずの江の乙女時代とはいえ、自由奔放というより、無作法な冒頭の場面が大奥のイメージと結びつかないのだ。
さらにいえば、もし江が天下太平を願って大奥を作ったのだとすれば、息子(その乳母である春日局)との確執のエピソードは何なのか?
その天下太平の願いが、自分(及び自分の好む者)さえよければいいという江のエゴイズムのなせる技にしかなりようのなかったものなのか、高潔な理念に貫かれたものとなりえたものなのかを検証する必要があるだろうと思う。
しかしドラマは、そんな検証とは無関係に、エネルギッシュに進行していくことが予想される。
以下はキャスト。
- 江=上野樹里
- 茶々(淀)=宮沢りえ
- 初=水川あさみ
- 浅井長政=時任三郎
- 市=鈴木保奈美
- 織田信長=豊川悦司
- 森蘭丸=瀬戸康史
- 森坊丸・力丸=染谷将太・阪本奨悟
- 豊臣秀吉=岸谷五朗
- おね(北政所)=大竹しのぶ
- なか(大政所)=奈良岡朋子
- 石田三成=萩原聖人
- 豊臣秀次=北村有起哉
- 豊臣秀長=袴田吉彦
- 黒田官兵衛=柴俊夫
- 京極高次=斎藤工
- 京極龍子(松の丸殿)=鈴木砂羽
- 千宗易(千利休)=石坂浩二
- 柴田勝家=大地康雄
- 明智光秀=市村正親
- 徳川秀忠=向井理
- 徳川家康=北大路欣也
第1回は冒頭の場面から時を遡り、浅井長政・市の夫妻愛を軸として慌しく展開する。市は、兄の織田信長によって夫の浅井長政が自害に追い込まれるという苦杯を嘗めなければならなかった。
そのときはまだ赤ん坊だった江の立場からすると、伯父によって父が殺されたわけである。それにも拘らず、成長した江は信長に惹かれていくようだ。
この辺りの描きかたは、後年の江が病弱で吃音であった嫡男の家光より容姿端麗、才気煥発であった三男の忠長を寵愛したという[ウィキペディアに見る]歴史的エピソードにオーバーラップする面白さがある。三男は容姿が信長に似ていたともいわれるのだ。
まだ幼稚園児くらいの茶々が、堕胎しようとした母の市に対し、妹に短刀を突きつけて抗議する場面はあまりに不自然で、いただけなかった。また、わたしは信長役の豊川悦司が好きなのだけれど、あの髪型と恰好はあまり似合わないと思った。
ところで、ドラマの楽しさとは別に、江という女性を考えるとき、自分の好みに忠実な、どちらかというと頭はあまりよくない平凡な人物像が浮かんできてしまう。
三男を偏愛した背景には、男たちの政治的な派閥闘争があったともいわれるが、そうだとすれば尚更、江の行動には、巨視的視点に立ったものとは思われないまずさがある気がする。
それに比べたら、江と確執のあったとされる、家光の乳母であり、大奥を実質的につくりあげた春日局のほうが知的で、バランスのとれた人物ではなかったろうか。
彼女には、乳母職にとどまらなかっただけの様々な能力があったことは確かで、腹黒かったともいわれるが、腹黒いだけでは大奥という特殊な世界をつくりあげ、機能させていくことはできなかっただろう。
それは64歳で亡くなった彼女の辞世の句「西に入る 月を誘い 法をへて 今日ぞ火宅を逃れけるかな」を見てもわかる気がする。尤も、実際の人柄については、江にしろ春日局にしろ、ほとんど何もわかっていないといってよいのだろうが。
この機会に、積読になっていた吉屋信子『徳川の夫人たち』(朝日文庫)を読んでみようかしらん。
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