杉田久女の鶴の秀句をご紹介
鶴の季語は秋ですので、秋にご紹介するはずでしたが、時機を逸してしまいました。ですが、わたしが久女の本を書店で入手した当時よりも、今は彼女の句に触れる機会が少なくなっていると想像されますので、ご紹介しておきたいと思います。
『杉田久女全集第一巻』(杉田久女著、立風書房、1989年)から抜粋したものです。
鶴の句
一 鶴を見にゆく月高し遠の稲城はうす霧らひ
並びたつ稲城の影や山の月
鶴舞ふや日は金色の雲を得て
山冷にはや炬燵して鶴の宿
松葉焚くけふ始ごと暖炉かな
燃え上がる松葉明りの初暖炉
ストーヴに椅子ひきよせて読む書かな
横顔や暖炉明りに何思ふ
投げ入れし松葉けぶりて暖炉燃ゆ
菊白しピアノにうつる我起居
霜晴の松葉掃きよせ焚きにけり
向う山舞ひ翔つ鶴の声すめり
舞ひ下りてこのもかのもの鶴啼けり
月光に舞ひすむ鶴を軒高く二 孤鶴群鶴
暁の田鶴啼きわたる軒端かな
寄り添ひて野鶴はくろし草紅葉
畔移る孤鶴はあはれ寄り添はず
雛鶴に親鶴何をついばめる
ふり仰ぐ空の青さや鶴渡る
子を連れて落穂拾ひの鶴の群
鶴遊ぶこのもかのもの稲城かげ
遠くにも歩み現はれ田鶴の群
畔ぬくし静かに移る鶴の群
一群の田鶴舞ひ下りる刈田かな
鶴の群屋根に稲城にかけ過ぐる
一群の田鶴舞ひすめる山田かな
親鶴に従ふ雛のやさしけれ
鶴の影ひらめく畔を我行けり
好晴や鶴の舞ひ澄む稲城かげ
群鶴の影舞ひ移る山田かな
鶴の影舞ひ下りる時大いなる
遠くにも群鶴うつる田の面かな
舞ひ下りる鶴の影あり稲城晴
枯草に舞ひたつ鶴の翅づくろひ
歩み寄るわれに群鶴舞ひたてり
大嶺にこだます鶴の声すめり
近づけば野鶴も移る刈田かな
群鶴を驚かしたるわが歩み
翅ばたいて群鶴さつと舞ひたてり
大空に舞ひ別れたる鶴もあり
三羽鶴舞ひ澄む空を眺めけり
学童の会釈優しく草紅葉
冬晴の雲井はるかに田鶴まへり
旅籠屋(はたごや)の背戸にも下りぬ鶴の群
舞ひ下りて田の面の田鶴は啼きかはし
彼方より舞ひ来る田鶴の声すめり
軒高く舞ひ過ぐ田鶴をふり仰ぎ
啼き過ぐる簷端の田鶴に月淡く
田鶴舞ふや稲城の霜のけさ白く
田鶴舞ふや日輪峰を登りくる
鶴なくと起き出しわれに露台の旭
鶴舞ふや稲城があぐる霜けむり
鶴鳴ひて郵便局も菊日和
家毎に咲いて明るし小菊むら
鶴の里菊咲かぬ戸はあらざりし
稲城かげ遊べる鶴に歩み寄り
好晴や田鶴啼きわたる小田のかげ
舞ひあがる翅ばたき強し田鶴百羽
鶴の群驚ろかさじと稲架かげに
近づけば舞ひたつ田鶴の羽音かな
この里の野鶴はくろし群れ遊ぶ
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