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2010年9月20日 (月)

更新のお知らせ。山本和夫編『ジュニア版 世界の文学 35 世界名詩集』(岩崎書店、昭和44年)より。

 3月以来放置状態だった、トップページ設定の『★当サイトで紹介した作家、思想家一覧』を更新しました。
  ⇒https://elder.tea-nifty.com/blog/2010/09/post-5dc3.html

 また、検索でアクセスしてくださるかたの多い以下の紹介記事を左サイドバーに設けましたので、ご利用ください。

 山崎栄治によるリルケのフランス詩篇『薔薇』は薫り高い名訳ですが、現在は入手しにくくなっていると思います。紹介せずにはいられませんでした。ほぼ毎日のように訪問者があるのは嬉しいことです。このような詩の読者が増えれば、索莫としたわが国のムードもよい方向へ変わるのではないかしら。

 純文学の匠の技で楽しませてくれるだけでなく、漠然と生きがちなわたしたちに理知的な骨格を与えてくれるバルザック。東京創元社から上梓されたバルザック全集は、バルザックの代表作が網羅された貴重な邦訳版です。版元での在庫切れが出てきているようですので、ほしいかたはお急ぎを!  時間を見つけて、一作ごとにレビューを書きたいと思っています。

 わたしが子供の頃に親しんだ講談社「世界の名作図書館」全52巻。この全集にしか見当たらない『魔法つかいのリーキーさん』のような作品はじめ、全集名でもアクセスが結構あり、驚いています。やはり、よいものは人間の記憶に長く残るのですね。現在、この全集は妹宅にあり、わたしの家には岩崎書店「ジュニア版世界の文学」があります。

 「ジュニア版 世界の文学」収録作品一覧も、なるべく早いうちに表示したいと思っています。ジュニア向きによく編集された全集だと感心します。特に第35巻の山本和夫編『世界名詩集』(昭和44年)には、世界の名詩がよく掬いとられていて貴重だと思います。様々な状況下にある土地、土地で詠われた詩からは、文化が透けて見え、血潮とみずみずしい精神の薫りがします。

母ちゃん、ぼく今朝
ポケットにくるみをどっさりいれて
学校へ行くとき
道でかわいい女の子にあったよ
その子は母ちゃんの焼くお菓子みたいに
とってもかわいかったよ 

 と始まる山室静訳『小さいマイヤ』という可愛らしい詩がわたしは好きでしたが、トペリウスの詩だったことに、たった今読み返して気づきました。マイヤはどうやら春の化身のようです。

 中国、インド、アフリカなどの詩も多く含まれています。

 人種差別問題は今もなくなりませんが、以下にご紹介する『苦しみのとき』を書いたセネガルのディオプは医師だと解説にあります。山室静訳です。

白人はわたしの父を殺した
わたしの父は誇りが高かったから
白人はわたしの母をはずかしめた
わたしの母は美しかったから
白人はわたしの兄を白日のまちの通りでかたわ者にした
わたしの兄は強かったから
しかも白人は黒人の血にそまった
その赤い手をわたしにむけて
主人顔していう
おい、ボーイ、ハンケチと水をもってこい!

 ジュニアのわたしは黒人の立場で読みましたが、今では微妙です。どちらの立場でも読んでしまえるからで、こういう詩を読むと、苦しくなりますが、当時はわあー悲惨と思って軽く通り過ぎてしまい、むしろヴェルレーヌの詩にいたく感激し、上田敏訳『落葉』『都に雨の降るごとく』は暗唱しましたよ。 

都に雨の降るごとく
わが心に涙降る。
心の底ににじみいる
この侘しさは何ならん。

大地に屋根に降りしきる
雨のひびきのしめやかさ。
うらさびわたる心には
おお 雨の音 雨の歌。

かなしみうれうるこの心
いわれもなくて涙ふる。
うらみの思いあらばこそ。
ゆえだもあらぬこのなげき。

恋も憎みもあらずして
いかなるゆえにわが心
かくも悩むか知らぬこそ
悩みのうちのなやみなれ。

 肉体に囚われた詩人の魂が羽ばたこうともがいているかのよう。美しい詩です。

 次の堀口大學訳、ジャン・コクトー『シャボン玉』には驚かされました。よくこんな詩が作れたものです。

シャボン玉の中へは
庭は這入れません
まわりをくるくる廻っています。

 そういわれればそうなのですが、あっという間に消えてしまうシャボン玉を、こんな風に描ききるコクトーという人間の精神の不思議さに打たれました。

 次の詩も忘れがたいですね。海に行くと、必ずこの詩を思い出します。コクトーの詩を読むと、幻想的な空間が際限なく拡がっていくようです。

私の耳は貝のから
海の響をなつかしむ

 酒仙、李白の詩をジュニアのわたしは、ふん、と思っただけでしたが、今は惚れ惚れします。道士の修行をしただけあって、雄大ですわ。李白の詩からは、芳醇な老荘思想の香りがしますわね(わたしは結婚後はほとんどお酒を呑まなくなったせいか、酒呑みは嫌いです。李白みたいな酒呑みって、いませんもの)。

 酒呑みの詩では、大学時代に小川亮作訳のオマル・ハイヤーム『ルバイヤート』に夢中になりましたが、ペルシアの詩人ハイヤームって、大変な学者だったんですよね、酔いも覚めるほどの……。

 『世界名詩集』に収録されている山本和夫訳、李白の7編は、ジュニアにも読みやすいものとなっています。『月下でひとり酒をのむ』は『月下独酌』ですが、以下にご紹介しておきます。

わしのまわりを、
花、花が、ぐるりと、とりまいとるが、
ひとりで飲むとは、
味気ないもの。
盃を、
なめているうちに月が登った。

やッ、わしの影も飲んでるぞ。
わしと、影と、月と。
――これじゃ、わしも、ひとりぼっちじゃないな。
――いや、いや、やっぱり侘しい。
月は飲んじゃいない。
影は、わしの真似をしているだけだ。

ういッ。
――まあ、いいわ。
楽しいといえ! うん、楽しい。
やっぱり春じゃ。
――歌うこととしよう。
はっはっはっ、わしが歌えば、
月め、ほら、よろめいてござる。
見ろッ。影め、おどり出しよった。月もおどり出しよった。
やっぱり、春じゃ。
春じゃのう。

ああ、酔うた、酔うた。
わしはな、わしは、
わしの行きたい所へいくぞ。
あばよ。
――月め、どっかへ消えちまえッ。
わしの影よ。
――おまえも、どっかへ、いっちまえッ。
ういッ。
ねむい。
月よ。
影よ。
こんどは、天の川のむこうあたりで、また、めぐりあって、おどるとするか。  

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