マダムNの推薦図書 2010 ②……小学校中学年〔3・4年生〕
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☆記事にする時点で、出版社のホームページからネット注文可能な本をご紹介しています。
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これからあわてて自由課題の感想文にとりかかろうという小学校中学年のお子さんにお薦めしたい、大石真『チョコレート戦争』。わが国本来の児童文学作品らしい健全な作風で、読みやすく、大人になってからもなつかしく感じられる作品です。
また、文庫版しかなかったので、一押しにはなりませんでしたが、バラージュ・ベーラ『ほんとうの空色』もお薦めしたい珠玉の児童文学作品。
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壮大でありながら人間臭い、宝石箱のような『ギリシア神話』に子供のうちから馴染んでいれば、巨視的な見方と微視的な見方の双方ができるようになるでしょう。美意識も備わるでしょう。
わたしはこのトマス・ブルフィンチの『伝説の時代』の完訳版『ギリシア・ローマ神話』(角川文庫)を持っていますが、読みにくい神話が流れるような、わかりやすい物語となっています。現在は他にアポロドーロス『ギリシア神話』(岩波文庫)、バーナード・エヴスリン『ギリシア神話小事典』(社会思想社)を持っていて、フルに活用しています。
子供の頃に「世界の名作図書館」所収の『ギリシア神話』と出合ってから、ずっとギリシア神話が傍にあり、そこから他の国々の神話、ギリシア悲劇、古代史への関心、ギリシア哲学から世界の諸宗教、諸哲学へと興味は拡がり続けました。何より、ギリシア神話をよく知っていれば、西欧文学を読む助けになります。
ギリシア神話はいろいろな出版社から、様々なかたちで出ています。少し難しいものを早いうちから与えてもいいでしょうね。本は一生の友となるものなので、挿絵しかわからない頃から子供の傍にあってよいものですから。
以下の科学物も一緒に如何でしょう?
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わたしは別の記事で、ピノッキオについて書いたことがありました。その記事から以下に抜粋した文章がお薦めの理由です。
梨といえば、連想するのが、『ピノッキオの冒険』です。木切れから人形になって間もないピノッキオが空腹を訴えて、作り主のジェッペットから彼の朝飯用だった3個の梨を差し出され、最初は皮と芯は食べないといいながら、あとになって全部食べてしまう場面は、忘れられません。
忘れられない場面は、『ピノッキオの冒険』には沢山あります。気ままで、無責任で、率直で、変に素直で、無鉄砲なピノッキオは子供がその子供らしさで大人を惹きつける類の特徴を悉く備えています。自分が子供だったときに読んだ『ピノッキオの冒険』は、何か恐ろしい物語として印象づけられました。死んだ少女であるかのような仙女の初登場の仕方は異様だし、ピノッキオをペテンにかけるネコとキツネは嫌らしいし、ロバになったまま死んでしまうトウシンはあまりにも悲惨、フカの腹の中でジェッペットと再会するピノッキオの運命は数奇すぎる……。しかし、最近のファンタジーものが何か抽象的で、社会背景もおぼろげな中で、主人公が正体のはっきりしない敵を相手にむやみに戦うのに比べ、『ピノッキオの冒険』は具体的です。社会背景も、大人や子供が抱える困難もくっきりと描かれていて、ピノッキオの行動が招く神秘や奇怪や美の場面を背後からがっちりと支えています。ピノッキオの場合、闘う相手は、相手が反映させる自分そのものです。
ファンタジーもので特徴的なのは、主人公は特別の能力を秘めた無垢な人間で、相手は強大でしかも内面的にはうつろというところです。そして魔法や神器などによる力(暴力)の行使で相手をやっつけます。暴力的場面だけが嫌にリアルです。趣味の悪い悪夢のようなファンタジーものからピノッキオに戻ると、わたしはほっとします。
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児童書といえばその名が浮かぶほど、リンドグレーンの諸作品は世界の子供たちにとって重要な存在となっています。ピッピはその中でも、一番の人気者です。
この時期に『長くつ下のピッピ』と対で読むといいと思うのが、『ミオよわたしのミオよ』です。児童文学にしか与ええない、最良の詩情ともいうべきものを備えた作品です。ピッピとどちらを表に出そうかと迷いました。
お子さんの読書傾向によって、バランスをとるかたちで、明るくユーモラスなピッピか、哀愁のあるミオにするかを選んであげればいいと思いますよ。
以下に、岩波書店から出版されているリンドグレーンの作品集、全巻のタイトルをご紹介しておきます。
- 長くつ下のピッピ
- ピッピ船にのる
- ピッピ南の島へ
☆ピッピシリーズ 3冊セット - やかまし村の子どもたち
- やかまし村の春・夏・秋・冬
- やかまし村はいつもにぎやか
☆やかまし村の子どもたち 全3冊セット - やねの上のカールソン
- 名探偵カッレくん
- カッレくんの冒険
- 名探偵カッレとスパイ団
- さすらいの孤児ラスムス
- ラスムスくん英雄になる
- ミオよわたしのミオ
- 小さいきょうだい
- わたしたちの島で
- 親指こぞうニルス・カールソン
- やねの上のカールソンとびまわる
- はるかな国の兄弟
- 山賊のむすめローニャ
- おもしろ荘の子どもたち
- 川のほとりのおもしろ荘
- やねの上のカールソンだいかつやく
☆リンドグレーン作品集 全22冊セット - カイサとおばあちゃん
この時期にもう1冊与えるとしたら、『やかまし村の子どもたち』がいいでしょう。ちなみに、ピッピの続編は、わたしにはもう一つの出来栄えだと思えます。
ご参考までに⇒Notes:アストリッド・リンドグレーン
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『若草物語』は、古きよきアメリカのよさが結晶したような、温かみのある平明な物語です。良識を育んでくれるこの物語は、混乱気味の大人社会の影響によって蝕まれた感のある現代日本の子供たちにとっては、良薬とすらなるのではないでしょうか。
挿絵がターシャ・チューダーというのも、楽しいです。
『若草物語』を読破した子供に、お薦めしたいのは『秘密の花園』。
こちらは、観察眼と独創的な物事の見方を育んでくれそうな、バーネットが作者です。
フランシス・ホジソン・バーネット〔1849 - 1924〕はイギリスに生まれてアメリカに渡った女性作家で、『小公子』『小公女』が有名です。
わたしは最近になってから『小公女』(伊藤整訳、新潮文庫、昭和28年)を再読してみたのですが、これほどまでに心理描写の巧みな、独創的な物語だったことに驚きました。以下の冒頭の部分からして、一風変わってます。
ある陰気な冬の日のこと、ロンドンの町々は霧が厚くたれこめて、夜のようにランプがともされたり、店々のかざりまどはガスの灯がかがやいたりしていた。そのとき大通りを父親につられて馬車でゆっくりかけてゆく、ちょっとようすの変った少女があった。
少女は足を折りまげてすわり、父親の腕にだかれてもたれかかり、通りすぎる人を窓からながめていたが、大きな眼には、妙にませた考えぶかそうなようすがあった。
まだ小さな少女なので、そのような眼つきをするのは変であった。このサアラ・クルウという少女はまだ七才なのだが十二才以上とも見える、ませた眼つきをしていた。というのは、サアラはいつも年ににあわぬことばかりぼんやりと考えていたからであった。自分でもサアラは、おとなのことやおとなの世のなかのことを考えずにくらしていたことがないような、気がするのであった。自分がもう長い年月を生きてきたような気がしていた。
この男性的といっていいくらい率直なバーネットの語り口は、ジェーン・オースティンを始めとするイギリス女性作家の一特徴をなしているといっていいような気もします。
このあと、たまたま同じバーネットの『消えた王子』(中村妙子訳、岩波少年文庫、2010年))を読んだのですが、その明晰な世界観と大胆、明確な政治観に2度驚かされることになったのでした。帝国出身の作家だけのことはある、と舌を巻いた次第です。
同系統のルーシー・モード・モンゴメリ『赤毛のアン』、ジーン・ウェブスタ『あしながおじさん』は、やや大人びた内容に思えるので、高学年になってからでいいでしょう。
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途中まで書いておきながらナンですが、外出のため、時間切れです。このあとご紹介する予定の本のタイトルと出版社名だけ、以下に挙げておきます。もしかしたら、続きを書く段階で、お薦め本を変更することがあるかもしれません(外出したら、書店にも寄ると思いますので)。この文字が消えるまでは書きかけと思ってください。
- ガリバー旅行記(集英社)
マゼランの航海(評論社) - ジャングルブック(福音館書店)
- 子ども版 西遊記〈1〉孫悟空たんじょう(あすなろ書房)
はじめてであう論語(汐文社) - 点子ちゃんとアントン(岩波書店)
- 宮沢賢治童話集 珠玉選 銀河鉄道の夜 - 宮沢賢治童話集珠玉選(講談社)
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