魔法つかいのリーキーさん
休日だった夫に車で図書館へ行って貰い、講談社「世界の名作図書館」の中から8冊を借りてきて貰いました。
読みそびれていた作品、再読したかった作品から、借りて読んでいます。
どの巻も読み応え充分、本当にバランスよく世界の名作が収録されていると感心します。
この全集は普段は子文庫に眠っているものなので、安心してゆっくりと読めます。子供たちが借りるかもしれないと思うと、悪くておちおち借りていられませんからね。
この全集が再版されたらどんなにいいでしょうね……!
ホールデン『魔法つかいのリーキーさん』(山室静訳)を、わたしは読んだ記憶がありませんでした。
同じ巻に収録されているキャロル『ふしぎの国のアリス』、ワイルド『幸福な王子』『友だち』『わがままな大男』は読んだ記憶が確かなのに、トペリウス『リンダギュル姫と魔法つかい』とリーキーさんは読まなかったようです。
リーキーさんはイギリスの生物学者が書いた童話だということですが、面白いこと、面白いこと! 何でこれを読まなかったのかしら。
叱られてすぐにしょげ返るポンペーという名の小さなりゅうがあまりにも、かわゆい。
彼は、普段は暖炉のかっかと燃えている石炭の上に寝ていて、料理のときに登場しては、焼けた胸で魚を焼いたりします。
彼の食べ物は硫黄。リーキーさんが魔法の絨毯でインドへ行った帰り、マルチニク島に寄ると、ポンペーは火山の溶岩に嬉々として飛び込み、そこから離れたがりませんでした。
はじめは、あおむけにひっくりかえって、足をばたばたやっていましたが、立ち上がったときは、みつの中に落っこちたはちみたいに、羽には溶岩をべったりくっつけていました。
作者の科学知識が随所で宝石のように光って、魅了します。魔法の絨毯が飛ぶ場面では、自分も一緒に絨毯に乗っかっている気がしてきます。以下は、その一部分です。
空には新月がかかっていました。五マイルも上空にいくと、星たちは、かつて見たこともないほど、あざやかに、ぎらぎら光っていました。南へ進むにつれて、わたしの知らないいろんな星座が、つぎからつぎへとあらわれてきました。オリオンのすぐまえには、こまかい星くずでできている大きな川がひとすじ、空を流れくだっていて、そのおわりを、とても光る大きな星、アケルナールがかざっていました。オリオンとおともの大いぬが空高くのぼると、そのいぬのしっぽを追いかけて、カノプスがあらわれました。ほんの一、二分で、わたしたちはインド洋の上にでましたが、それは月の光をあびて銀のようにかがやいていましたっけ。二コバル諸島とマライ半島のすそをすぎると、北極星が、水平線の下にすがたをけしました。
ところで、リーキーさんたちを魔法でバッタに変えようとしたビヤリ=ラルという男が、デバナガリ(古代インドの文語、サンスクリットの一種)で書かれた魔法の本の17ページに書いてある呪文を最初に唱えなかったばかりに、自分がバッタになってしまいました。
ビヤリ=ラルの主人であるチャンドラジョティ氏が魔法を解いてあげるのですが、バッタが人間に変っていく、その場面がまたふるっているのですね。これもご紹介しておきましょう。
はじめは、ばったが大きくふくらみました。それから、ばったがからをぬぐときのように、せなかの皮がさけたのです。出てきたものは大きなうじみたいでしたが、それがみるみるピンク色の虫になりました。その虫の四か所に、小さないぼが出てきて、手と足になりました。ついで、虫のまえのほうの部分が、そりかえって頭になるし、手足のさきがわかれて、ゆびと足ゆびになりました。そのあいだにも、からだはだんだん大きくなって、ほぼ二分ののちには、目のまえのしばふの上にひとりの人間が、びっくりした顔をして、ひっくりかえっていたのです。
なかでもいちばんおかしかったのは、ばったのせなかがビヤリ=ラルくんの正面になったことでした。しかし、あとで生物学者の友人にきいてみると、それでいいのだということでした。というのは、ばったの心臓はせなかにあり、その下にはらわたが、その下に神経組織があるのだから、ばったのせなかはたしかに正面だというのです。でなければ人間の正面というのは、じつはかれのせなかだ、ということですね。
あまりにも楽しい物語なので、今もこの本が出版されていないだろうかと思い、調べてみましたが、残念ながらどこからも出版されていないようでした。面白いだけでなく、読んでいるうちに自然に頭がよくなってくる気のする物語ではありませんか!
今の日本では、大人も子供も、せっかくよい頭に生まれついたのに、それを悪くするような本ばかり、せっせと読んでいる気がして仕方がありません。
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