コント『公園のパン職人』
昔、あるジ・パンクという王国に、パン屋さんがいました。女王の御墨つきを与えられて、パン工場と豪華な内装のお店を得ていました。その特典には、パン評論家もセットとしてついていました。
ある日、田舎に住むパン職人が都に出てきて、王室御用達のパンを味見しました。そのパンには、金箔がほどこされて、香りと焼き立ての色が封じ込められていました。
田舎のパン職人は食欲が失せてしまいましたが、勇気を出して、一口齧ってみますと、金箔が味わいの妨げになる上に、有害な物質を含む、いろいろな材料が詰め込まれすぎていて、何がなんだかわからない味となっていました。ひとことでいうと、おなかを壊しそうな、異様な味でした。おまけに、そのパンは、沢山食べると酔っ払うのでした。
「うーむ、こんなパンばかり食べていた日には、ジ・パンクの国民は、味覚が壊れてしまう上に、アル中、いやパン中になってしまうぞ。栄養状態も、きっとおかしなことになるに違いない」
パン職人は、公園で野宿をしている人の隣にテントを張り、テントの前にパン窯を設置して、パンを焼き始めました。パンの香りに釣られて人々がやってきましたが、「何だ、素人が焼くパンか。パン屋でもないのに、エラソーに焼いてやがる」といって、どこかへ行ってしまいました。
そのうち、警官がやって来て、いいました。「一体、君は何の権利があって、公共の場を私用にしているのだね?」
パン職人は答えました。「はい。国民の味覚と健康と名誉のために、パンらしいパンを焼くことで、ご恩に報いたいと思っております」
「詭弁を弄するのは止めたまえ。当局は、断じて許可するわけにはいかない。ここでそんなことをするには、ブランドの取得を先行させる必要があるのだ。立ち去りたまえ。そして、田舎に帰って、パンの修業に励みなさい」と、警官は叱りました。
パン職人は、悲しそうにいいました。「わたしはもう半世紀も生きてまいりました。少年時代から、田舎に伝わる伝統の技法でパンを焼いてきたのです。この10年間は、独創を交えて焼いてきました。わたしの腕は確かです。わたしのパンを味わった雀が、そう褒めてくれるのです」
警官は、パン職人の言葉に、腹を抱えて笑いました。通りすがりの紳士がいいました。「わたしがブランドをお貸しいたしましょう。その代わり、このブランドでパンが売れた場合には、30パーセントの使用料をお納めください」
初めて耳にしたブランドでしたが、それもいいかもしれないとパン職人は思いました。また公園内に、パン職人の焼くパンの香りが漂い始めました。
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