魔女裁判の抑止力となった神秘主義者たち
わたしが《詩人》と呼んでいる統合失調症の友人のことだが、最近電話がないので、かけてみようかと思いながらも、むしろ電話がないときはコンディションのよい徴であることが多かったものだから、遠慮していた。
ところがたった今電話があり、どうもコンディション悪そうだな、と思っていたら、あらら、途中で切れてしまった。
かけ直したら、電話には出てくれたが、本当にコンディションが悪そう……。
人間関係に疲れたそうで、「お聞きになった通りなんですよ」というが、コンディションが悪いときの彼女は支離滅裂な表現になるので、事情がわかりにくい。
うーん、心配だ。ずっと会っていないしなあ。
明日は、これもコンディションがいいのかわるいのかはさっぱりわからないが、まともとは思えない父夫婦から三度目の訴えで〔参照、カテゴリー:父の問題〕、明日はF家裁の調査官と会わなくてはならない。
気が重いが、妹は「わたしたちも困っているから、相談するつもりで会ったら?」という。そうね、と返事。
今回は調査官がこちらに出張してくださることになったが、こちらから出向くことにしていたら、面談後に《詩人》と会うことになっただろう。そのほうがよかったかな?
もう少し体力がついて、フットワークが軽くなればいいと思うが、気持ちばかりが空回りする。
こんな曖昧な季節は大体が、精神疾患者にはよくないみたいだ。盛夏になってしまえば、また違うと思うが、日本の気候自体変調気味だ。
父夫婦のことは心配を通り越して、脅威に感じられる。毎年の恒例行事のように訴えられたのでは、かなわない。下手をすれば、こちらの神経まで参ってしまう。
父夫婦のことを考えていたら、うなじの湿疹をがりがり掻いてしまい、ひどくなった。
ところで、わたしは自作童話『不思議な接着剤』のための資料調べで、ヨーロッパ中世の異端審問と魔女裁判の区別を調べていた。
上山安敏『魔女とキリスト教』(講談社学術文庫、1998年)によると、魔女裁判が異端審問の延長上に生まれたことは確かで、フランスのように教皇庁指揮下の裁判と世俗裁判所の役割分担が、前者では異端審問、後者では魔女裁判という風に明確であった所もあれば、ドイツのように教皇庁の力が弱くて双方が入り乱れていた所もあって、地域により時代によりまちまちだ。
異端者という語を生み、異端審問の開始のきっかけとなったのは、カタリ派だった。カタリ派は、それだけキリスト教会を脅かす存在だったのだ。
ナンにしても理不尽な父夫婦の訴えに悩まされているわたしには、妙にリアルに感じられ、中世ヨーロッパのことといえど、他人事とは思えない迫力をもって本の内容が迫ってくる。
現代的視点から考察すると、精神病者が訴えられたり、訴えたりするケースは多かったようだ。
魔女裁判の拡がりには、魔女のことをまことしやかに定義づけた本の流行があり、それに伴って、魔女に対する妄想が大きく拡がった。それを可能としたのがグーテンベルクの出版革命だったというのは、皮肉な現象といえる。
以下、鉤括弧の抜粋部分は『魔女とキリスト教』より。
「魔女裁判に特徴的なことは、魔女の告発、拷問、自白、誣告のメカニズムに抑止力がなく、あたかも細菌が増殖するように拡がって、無実の市民を巻き込み、いつの間にか、拷問をする人、裁く人、あるいは町の名望家にまで魔女の嫌疑が拡がり、火刑に追いやられるという事態である。」
魔女(男)裁判から、ついに、魔児裁判まで行われるようになると、さすがに終息の兆しが見えてくる。大人たちが現実と妄想の区別がつかなくなっていたように、子供たちは現実とファンタジーの区別がつかなくなっていた。
終息のきっかけとなったのが精神病理学の発達で、魔女裁判をリードしてきたフランスの法曹界がその影響を受けるようになったのだった。
魔女は、火炙りにされるよりは拘禁され始め、山火事のようにヨーロッパに拡がった魔女現象は次第に鎮静化した。
一貫して魔女裁判の抑止力となったのは、当然ながら神秘主義者たちだった。
魔女裁判の衰退に最も影響を与えたのは、ヴァイアーの医学的アプローチ、魔女懐疑論だった。
「ヴァイアーは、魔女裁判によって摘発された魔女を何とか助けようとした。字を読めず書けず、ただ信心のみ深い年老いた老婆、精神病者、メランコリー体質の病人、さらに拷問の苦痛に耐えかねて供述した容疑者などが、宗教裁判官や世俗官憲によって誘導され、断罪されて魔女に仕立て上げられるのを座視できなかった。」
「ヴァイアーの狙いは、メランコリーという医学概念を魔女の判定に持ち込んで、魔女は責任能力を有しないことを立証することだった。こうすることで、自由意思で悪魔と契約する魔術師と魔女とは截然と区別することができる。」「ヴァイアーは悪魔や憑依の実在を認めながら、それは今日の精神分析でいうところの暗示であると解している。」「ヴァイアーは、ボダンと同じく悪魔の実在を認めていた。もしそれを否定するとなると、神の存在も否定することになり、無神論者の烙印をおされかねない。だから悪魔の存在を承認した上で、科学的な視点から、魔女とされた哀れな女性を救済しようとしたのである。」
ヴァイアーはパラケルスス、アグリッパの思想系譜に属する神秘主義者で、彼の師アグリッパは魔女迫害推進派から邪悪な魔術の象徴として攻撃された。
アグリッパは異端視されながら『女性の高貴』など女性賛美の文章を書き、パリに秘密結社をつくり、メッツ市の法律顧問となって、魔女の嫌疑のかかった老婆の救援に立った。
勿論彼自身も魔女裁判の犠牲となる危険と隣り合わせだったが、個人的に教皇から好意をもたれていたことが幸いしたという。
魔女裁判には、フェミニズムの問題が深く関わっている。
わたしが男性であったとしても、この問題に関心を持ったかどうかはわからないが、アグリッパもヴァイアーも男性だった。わたしはこの問題を、バランス感覚の問題だと捉えている。
明日は家裁のあと、休日の家族と映画に行く予定。父夫婦の問題は簡単に片付くことではないだけに、一つの緊張ごとに一つの楽しみを設けたいと考えている(わたしも父に似て頭に弱点があるかもしれないから、予防策ですわ)。
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