自作童話『小さなふれあい』
- 中学校文芸部創作集「われわれ小説家」(1973年2月発行)
に収録。 - 当ブログに収録中。
目次
- 浮浪者ボッブとジョンとの出会い
- ほし草の中
- 小さな恋人
- 詩
- ジョンと詩
- ボッブの心づかい
- 小さなふれあい
- 浮浪者ボッブ
・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆
1.浮浪者ボッブとジョンとの出会い
船の周りで茶色ににごった緑色の波が小さくあえいでいる。人々はお互いにしゃべりあいながらも、渡しもりから目をはなさなかった。
「船頭さんよ、船はまだ出ないのかね。わしゃ向っ側に急ぎの用事があるんだが。」とうとう中の一人がこらえきれなくなった。
渡しもりは、うなずいて見せた。
「今出るとこだよ、そうせかすもんじゃない。あわてるは災いのもとじゃて。」
そうして船が岸を渡れそうになったちょうどその時、かっ色のすべりやすい坂を一つの小さな人影がすべり下りてきた。まるで突然に。そして人々が見たのは、手に小さな袋をぶらさげた男の子だった。とてもよごれたかっこうをして――ただとてもみじめに見えた。
「待って、ぼく……も……乗せて……おくれよ。」
その子は、あえぎながら、やっとのことで声を出した。渡しもりは顔をしかめた。
「もう乗れないんだ、見てみな、八人ぎっしりつまっとるんじゃ。」
すると他のみんなも横から口を出し始めた。
「ぼうや、この船は遊び道具じゃないんだよ、早いとこおっかさんの所へお帰り。」
子供は、ちょっとまごついた。しかし、すぐに
「ちがうよ、遊び道具だなんておもっちゃいないや。どうしても行きたいんだったらあ。」と言い返した。子供の黒い目は、反抗的に人々をにらみすえていた。人々の間に、いらだたしい不愉快な空気が流れた。なんだってこのチビ助は急にやってきて船が出ようとするのをじゃまするんだろう。と、船の中から男が言った。
「乗せてやりなよ、そうみんなたかっていじめるこたああるまい。」
そして、自分のひざをポンとたたいて、
「さあ来な、おれのひざんとこだ。ぐずくずするこたあないぞ。」
船は、たよりなげに揺れながらも岸を離れ始めた。人々は、しばらくの間こそ男と子供をうさんくさそうにながめていたが、やがては目をそらした。その時、男はやっと、ひざの上の子供に声をかけた。
「何てえ言うんだ? おれはボッブ。お互いちょっとした知り合いになったってかまうまい。」
男の子はジョンと言った。
「さっきはどうもありがとう、おじさん、ぼく重いだろ?」
「いや、ぜんぜんだ。重くなんかないさ。おまえみたいなチビ助、何人乗せたってなんともない」
ジョンは振り返ってにっこりした。思わずボッブもほほえんだ。すると、こわそうな男の顔には意外にもあたたかみがあった。人々の話し声が一つのざわめきとなって、彼らの上を流れる。やがて船は川を渡り切って向こう岸に着いた。
〔つづく〕
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